『ピピクル10000』をご存知だろうか？いわゆる乳酸菌飲料なのだが、このたび、生産元による自主回収が呼びかけられている。

「免疫力が100倍になる」

「寝つきが良くなる」

「スッキリ起きられる」

「とてつも淫夢を見る」

　これら全ては公式の謳い文句ではなく、SNSなどの口コミによるものであるが、「とてつも淫夢」に関して、国による圧力があったと関係者は語る。なんでも、爆発的な『ピピクル10000』の普及により、全年代の男性において勃起不全や精液濃度の低下が見れるようになった。折れ線グラフ（図8）をご参照いただくと、まんまその推移の形がソノモノを模しているようにも見える。神のイタズラであろうか。

　では一体、なにが男性機能に影響を及ぼしているのか。無作為に選出した男性5000人にアンケートをとったところ、驚くべき結果がわかった。なんと5000人中5000人が、全く同じ夢を見ていたのだ。「とてつも淫夢」と称されたその夢は、SNSで語り継がれる都市伝説的な普及をしたが、その詳細については誰も語らなかった。意外とSNSはネタバレ厳禁の風紀だけはしっかりしていて、「とてつも淫夢」という下らないホットワードの根元に群がる同調圧力のウジ虫がさすが日本人であり、非常に気持ち悪く反吐が出るものである。しかしこのたびのアンケートは、「嘘はつきません。隠し事はしません。したら返金します。」と事前に誓約書を交わし、1人につき100万円の協力金を国が支払ったのだ。そして明らかになったその「とてつも淫夢」とは、以下の通りである。

足の生えた金玉、金玉は左右ともにあって、右金玉の方だけから女の細い白い足が生えていて、インラインスケートを履いている。それが遊園地のバイキング、船が左右に揺れるやつ、の支柱の上の方にあるいかりのオブジェ（⚓️）の底の部分をサー、シュッ、サー、シュッ、と左右に滑って浮いて滑って浮いて、船には普通に10人くらい海賊がいて首が折れそうな角度で真上を向いてそれを見ている。ただただ見ている。バオバオバオバオバオバオバオバオというローカル遊園地の発車の合図の音が鳴ると、真上を見ていた海賊全員が、こっちを見てくる。10m引きの俯瞰で見ていた被験者をまっすぐ見てくる。口元をよく見ると海賊全員がバオバオバオバオバオバオバオバオという口の動きをしているが、それらから音が出ている感じはしないので口パクであることがわかる。いつまで経っても船は左右に揺れることはなく、足の生えた金玉は依然としていかりの底に沿ってスケートをしている。それをじっと見ていると（ああこれは夢なんだ）という自覚がだんだん芽生えてきて、右耳に「愛してる」とアンパンマンみたいなハッキリとした声で囁かれる。ハッキリとした声で囁かれるとはイメージが全く及ばないのだが、夢の中ではそうとしか喩えようがないらしい。1回目の「愛してる」からおよそ5秒後に、「愛してる、愛してる、愛してる、愛してる」と4回アンパンマンの囁きがあり、その4回目の後の「えい」でシャーペンについてる消しゴムをスッと抜かれる感覚、自分自身がシャーペンで、脳天から細短い消しゴムをスッと抜かれる感覚がある、ここで目が覚める。

　夢に抜かれている。つまり、夢に抜かれている。夢になど抜かれるな。ピピクル10000は人類の敵だ。