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協同組合で運営される民泊ビジネスFairbnbは本当の意味でのシェアリングエコノミーを実現するか

仕事で原稿を書くために、海外のユニコーン企業(時価10億ドル以上の未公開企業)のIPO(上場)のことを調べてたら、今年はその大当たり年らしく、なんと9月22日時点で22社もあった。おかげで原稿は15,000字を超えた。あー、しんどかった。

その中には、ご存知LyftやUberなどの配車サービスや、ビデオ会議のZoom、コミュニケーションツールのSlack、画像ブックマークのPinterestなど、いわゆる大型IPOが目白押し。まあ、LyftとUberの2社はついた値が下馬評より低くてその後に続くIPOに影響与えたらしいけれど。

その他に大型IPOと噂されていたWeWorkは、巨額赤字の財務内容とCEOのガバナンス能力が疑問視されて、今年初頭についた470億ドルという評価額が4分の1近くまで下がるという異常事態に陥り、上場を少なくとも年内いっぱい延期するらしい。ぼくはたぶん早くても来年だと思うけれど、もっと評価は下がるだろうし、それよりもっとよくないことが起こる気がしている。よくないっていうのはあくまで投資家にとってという意味で、コワーキングにとってではもちろん、ない。

ま、それはさておき、もう一社、IPOを延期、それも2020年まで延期したユニコーン企業があり、事情はここでは触れないが、それがAirbnb。

ご承知の通り、空いてる部屋(あるいは家)を他人さんに数日間お貸しする、そのマッチングのためのプラットフォームをオンラインで提供する、それで日頃有効に活用されていない資産を供用することでお互いに価値を生む、といういわゆるシェアリングエコノミーの代表とされている、あそこです。

シェアリングエコノミーの定義については、ぼくはこの本を参考に、

以下のような要件を満たすことだと理解している。

1.金銭を介しても物々交換でも取引により経済的価値が生じる
2.利用しきれていない資産がある
3.オンラインでアクセスできる(=インターネット)
4.コミュニティがある(コミュニティの信用、ソーシャルな関わり、価値の共有を通じて取り引きをスムーズにする)
5.所有する資産が減少する(私有
他者からの提供)

ちなみに、駐車場共用サービスのJustPark社のAlex Stephany氏はこう言ってる。

「十分に利用されていない資産にインターネット上のコミュニティからアクセスできるようにし、資産を所有する必要性を下げること」

一言。

ただし、果たしてAirbnbやUberが本当にシェアリングエコノミーなのかという疑問が世界中で起こっているという話は、以下の記事に書いた。一言で言うと、プラットフォームになってる企業が利益のほとんどを独り占めしてるんじゃないか、という疑念。

すみませんが、それを読んでいただいているとして話を進めますと、その民泊のマッチングサービスをAirbnbみたいないち私企業ではなくて、Coop(協同組合)がプラットフォームになって仲介する、という事業体が現れている。

それがここ。Fairbnb

協同組合ってなんだ?という方は、これを読んでいただくとして(またか)、

名前を見て思わずヤラレタと思った。Fairbnb。Fair(公正)なbnbてうますぎる。ただ、この洒落っ気がただの洒落ではなくて、トップページを見れば本質的にそうなのだとすぐ判る。

基本的には空いている部屋か家を旅人に貸す、というのは変わらないけれども、Fairbnbは以下の4つのアドバンテージを持つ。

1.データの透明性:自治体と連携して民泊の合法性を維持している
2.地元への価値の還元:手数料の50%を地元住民が選んだコミュニティ・プロジェクトに寄付する
3.民主的:地元住民がこのビジネスの成長に関わることで、Fairbnbが地元のコミュニティにおいてどのように運営するべきかを決める
4.リアルなシェアリング:どの貸主もひとつの物件だけをリストアップする

どうです、これ。実に民主的。

1はかねてAirbnbが世界各地で紛争を起こしているように、需要のあることをいいことにゴリゴリカチこんでこられると、地元(ローカル)にすれば不利益を被る人もやっぱりいるわけで。

それは何もビジネスする人に限らず、昨今叫ばれるオーバーツーリズムのような許容範囲を超えた旅行者がなだれ込むことで引き起こされるあらゆるトラブルに、自治体も住民もほとほとイヤになっていることに鑑みても良識ある選択かと。で、そこは連携しておきましょうと。

で、気が利いてるのが、2。このプラットフォームでの仲介で発生する手数料の半分を、その地元のコミュニテイが運営するプロジェクトに寄付する、それも、ここが肝心だが、「地元の人たちが選んだ」ものに限ってる。

つまり半分は儲けを棒に振ってる、という言い方は品がないかもしれないが、要するに放棄している。なぜか。協同組合としてこの民泊仲介ビジネスを地元住民とともに動かし、つまり全員がステークホルダーとなり、このシステムに参加する人全員がその成果を分け合い、利益を享受するよう、民主的に遂行することを望んでいるからだ。

普通の私企業がこんなことしたら、アホほど儲けがない限り、それこそ株主に吊し上げられるのは必至だろう。だが、組合の場合、全員が出資者であり当事者なのだから(前出、「協同組合の資金調達方法から、資本主義経済のエコシステムを変えるかもしれないスマホアプリについて」参照)、こういうことができる。というか、それが目的だ。

だから、さっきの放棄するという表現は実はそうではなくて、ローカルに再分配している、と言ったほうが正しい。それがまたそのコミュニテイを、ローカルを活性化することを知っているわけだ。

ただ、そうして地元住民と一緒になってこのビジネスが回るようにしていく過程で、いろいろ課題も出てくる。それを住民が単なる部屋を貸すためだけの利用者ではなくて、(しつこいが)誰もが当事者としてコミットすることで、Fairbnbもどういうふるまいがこのコミュニティに益するのか、そこが判ってくるし、継続するためには不可欠なプロセスとなる。これを、Fairbnbは「co-governance(共同管理)」と言ってる。まさに、協同組合。それが、3。

4は2の裏にある事情を反映している。ここまで民泊が流行すると、Airbnbというプラットフォームを利用すれば利回りのいい不動産投資になると考える人(企業)も、当然現れる。

そうすると、Airbnbで民泊ビジネスするために、不動産をわざわざ仕入れて貸し出すホストも出てくる。買う人がいれば売る人もいる。それが世の常。こういう人たちが、同じ地域でいくつもいくつも物件情報を載せてくる。でも、彼らは地元住民でもなんでもない。ただ、お金儲けの道具をその地域に置いてるだけだ。

一見したところAirbnbはそういう立場のユーザーを規制はしていない(みたい)。マッチングサイトとしては物件数の多いほうがゲストを呼び込めるから、そこは経済合理性が働いているのだろう。だが、地元にすれば「なんやねん、それ」だ。だから、Fairbnbでは掲載できる物件はひとりのホストあたり一つの物件のみとしている。これ、なんとなく「誰しもひとり一票の議決権」という協同組合の形に似ている。

現在、Fairbnbに参加しているホストはサイトに掲載されているマップを見る限り、ヨーロッパを中心に500件以上あり、イタリアだけでなんと200もあるが、実は現時点ではまだ不完全らしい。

これは参加を希望するホストが増えていることと(現在、マッピング待ちが4,000件あると書いてある)、この8月に施行された「オンラインで取引される短期間滞在物件には識別番号を振ること」という新しい法律に対処するのにてんてこ舞いしているからだ。でも、9月中にはオフィシャルにオープンするぞ、と決意のほどが延べられている。こういうオープンさは見習いたい。

Fairbnbは元々、バルセロナやベニス、ボローニャ、アムステルダムにいた8人が始めたワーカーズ・コレクティブだ。それがいま、急激にその規模を拡大しようとしている。

シェアリングエコノミーの方法は一つではないかもしれない。しかし、その根底にCooperativeという、共同あるいは協働の理念があり、それをもれなく参加者が共有しているという事業体が、「価値を分け合う=シェアリングする」という経済活動を最も効果的に駆動すると思う。で、また思ってしまうのだ。

これ、誰か日本でやらないのかな?特に地方都市でやるにはいいスキームだと思う。

余談だが、Fairbnbのドメインは「fairbnb.coop」と、ちゃんと「coop」ドメインを使っている。このドメインは、その事業体が本当に協同組合であることを公的文書で以って証明しなければ絶対に発行されない、非常に厳しい管理下にあるドメインで、イギリスに本拠を置くDomains.coopという団体が管理している。名前が安易だが、そうなのだから仕方がない。

実は、ぼくらのコワーキング協同組合も「coworking.coop」と同じ「coop」ドメインを取得しており、そこはちょっと誇らしくもある。そういえば先日、更新時期が来たので早速手続きした。これがなんと、$110もする。110円ではない。$110。毎年、$110。まあ、希少なんだから仕方ないのかもしれないけれど。うう。

ちなみに、このネタ、先日の東大でのこのイベントでも、Trebor Scholz氏が最近のPlatform Cooperative(プラットフォーム協同組合)の好事例として紹介していた。

そのイベントリポートも書こうと思ったけれど、またいずれ。

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ということで、最後までお読みいただき有難うございました。この記事は、先週のブログジェリーをスキップしたので、そのリベンジで今日開催したブログジェリーで書きました。次回はちゃんとその日に書こうと思います。

また、この記事は「ブログジェリーマガジン」にも収録しています。よろしければ、そちらもご覧ください。で、フォローなんぞしていただければ大変ウレシイです。よろしくです。

それでは、また。


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