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協同組合の資金調達方法から、資本主義経済のエコシステムを変えるかもしれないスマホアプリについて

コワーキング協同組合でもこれ使いたい

出だしは地味な話だけど、結構、これからの資本主義のあるべき姿について示唆するネタなような気もするので、書いておく。もう一ヶ月以上前だけど、こんな記事を読んだ。

Coop Exchange – the future of co-operative growth?

あ、OGP、出ない。これ貼っとこう。

ざくっと言うと「Coop Exchangeは協同組合の未来の成長を実現するか?」というようなタイトルで、協同組合組織に対して世界中どこからでもスマホアプリで投資できる、という話。

ぼくらは、後述するが、コワーキング協同組合という事業協同組合を運営している。だから「来た!」と思った。スマホで投資っていまどき珍しい話ではないだろうと思うかもしれないが、この話はそうではない。なぜか。以下、非常にざっくりと説明する。

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日本では、協同組合は協同組合法に則って、経済産業省の認可を受けてはじめて登記できる「認可法人」であって、誰でも勝手に設立することは出来ない。つまり、国のお墨付きをもらった法人組織だ。しかし、会社ではない。

株式会社なら、株主という出資者と事業を実行する社員は基本的にはその立場が分けられていて、そもそもその役目が違う。株主が資金を提供して、それを元手に社員が仕事する。

この場合、その会社は株主のものであって社員のものではない。中には、社員の持ち株制度を導入している企業もあって「ワシ、株主やで」という人もいるが、基本的には所有者と従業員は別だ。

持ち主である株主は、会社が業績を上げ配当(価値)がリターンされることを期待して出資する。あるいは株式の売却益を得る。これが株主資本主義の根幹であって、株主総会で業績悪化の責任を問われて経営陣が株主から怒号を浴びせかけられるのは、そのためだ。怖い。怖いけれど、それがルール。

ところが協同組合では、いささか事情が違う。組合はそもそも、メンバーである組合員が共同で保有(Own)し、自ら共同で運営(Operate)する組織であって、ここ大事なところなのでよーく聞いてほしいが、つまり組合は組合員全員のものである点がまず違う。

よく、この手の記事に"worker own cooperative(co-op)"という言葉が出てくるが、それまさしく「労働者自身が所有する組合」ということを意味している。

では、どうすれば組合員全員が持ち主になれるのか。これが実に簡単な話で、加入する際に出資すればいい。

組合の場合、「資本金」とは言わず「出資金」という。組合は、それぞれでこの出資金を「うちの組合は一口◯円、最低◯口からよろしくね」と出資金のルールを決めている。

組合員はその組合に加入する際、「ほんじゃ、わたしゃ◯口で◯円出すわ」というふうに組合員自身で出資金額を決めて出資する。ここも大事で、加入者が自分でその金額を決められる。組合はそれを合計して組合全体の「出資金」(会社の資本金にあたる)とする。こうしてその組合員はその組合の持ち主の一員になる。

当然、決算後、組合に余剰の利益が出た場合、この出資金の割合に応じて配当が支払われる。先の社員持ち株制度と似ている。また、組合脱退時には、その年度の決算後、総会の承認を得て全額返金される

さらにもっと違うのが総会などでの議決権の行使。例えば、株式会社の場合、出資額の多い株主が大きな株数を根拠に議決に影響を及ぼすことが可能だが、協同組合の場合、組合員は出資者だから当然議決権を持つものの、たとえ出資金額がいくらであろうとも誰しもが等しく1票の議決権を行使する。

というか、1票しかない

つまり、3万円の出資額でも、30億円の出資額でも、そのふたりは同じ1票しか投じることが出来ない。ここが肝心。

「そんなん、不公平やんか」と思うかもしれないが、それが協同組合の思想なのだから仕方がない。ま、30億も出して組合員になろうという人はいないと思うが。いたら、うちの組合に加入してほしい。

これが協同組合という、同じベクトルを向く者の共同体であることが前提の組織ならではのメカニズムであり、21世紀のいま、こうした組織が健全に機能することで世の中のいろんなモノゴトがうまく回る可能性は大きいとぼくは考えている。

で、先般もシェアリングエコノミーについて書いた記事で協同組合について触れた。

だが一方で、例えば組合であらたな事業を起こそうというときにその資金の調達に苦労するのも事実だ。

一般に、事業組織が資金調達するには、大きく次の3つ、

・銀行など金融機関からの融資
・投資会社、投資家からの投資
・行政などの補助金、助成金

を検討するが、協同組合の場合、株を発行できないので「投資会社、投資家からの投資」が事実上不可能であり、従って、金融機関からの融資か行政の補助金、あるいは寄付に頼るのが普通だ。

ちなみに、うちのような事業協同組合では出資金とは別に年会費にあたる「賦課金」を毎年納めることになっていて、これが運転資金になる。だが、どこの組合もそう高額にならないよう配慮している(フシがある)。

そもそも、事業協同組合とは事業規模が比較的小さい事業者が結束することで事業を行うことを本来の目的としている。なので、組合員となれるのは事業協同組合法によって、「個人事業者、または資本金の額または出資の総額が5000万円以下、または、従業員数が 100人以下の法人」に限られる。つまり、「なんぼでも出しまっせ」という豪胆な事業者は最初から想定外だ。

コワーキング協同組合も、その台所は極めて慎ましい。

まず出資金が一口1,000円で最低3口の3,000円から。年会費にあたる賦課金が月額500円で年額6,000円。月たったの500円て、子供の小遣いより少ない。(設立当初は、ゼロがひとつ多かったのだが、その後、組合員の要望もあり減額した)

さすがに管轄である近畿経済産業局からは「ほんまにこんな金額でやれまんのか?」とチェックが入ったほどだが、事務所もうちのコワーキング内に置いてる格好にしていて家賃も発生しないし、それに恥ずかしい話だが役員も(ぼくも含めて)無給で構わないという奇特な組合員が務めているので、まあ、なんとかなってる(が、いつまでもこれではいかんな)。

なお、誤解のないように付け加えておくと、うちの場合、組合自体が仕事を受けた際には組合員でその仕事をするチームを作り、その売上のほとんどが仕事をしたその組合員に渡るよう、組合の手数料は最小限にとどめている。組合はそれ自体が利益を組織内で留保することを目的とせず、仕事をした組合員にできるだけ還元するのが旨と考えているからだ。

しかし、新しいビジネスアイデアが生まれて、それを組合で起ち上げたいという場合もないわけではない。事実、過去にもいくつかあったが、そのための資金調達に活路を見いだせずに組合での実行を諦めたケースがほとんどだ。

せいぜい、サイトの構築や改修、組合員同士の仕事案件の情報交換システムの開発に全国中小企業団体中央会の助成金を使わせていただいた程度で(これは助かった)、いま、まさにその情報交換システムのバージョンアップのための資金をどうするか思案しているところだが、もっと大きなプロジェクトを動かすとなったときにはたと困る。

そこへ現れたのが、このCoop Exchangeだ。

Coop Exchange

Stephen Gill氏が開発したこのスマホアプリは、組合が事業資金を非組合員から調達するというもの。その出資者には利益の分配(配当)は行うが、議決権は与えない。しかも、世界中から投資を募れる。まさに画期的。

もしその組合のビジョンや経済活動が投資家のそれとマッチするならば、組合は柔軟かつ広範囲に資金調達できるし、投資家は組合をサポートしながら資金運用できる。

つまり、ただ儲かりそうというだけで投資するのではなく、その組合の目的なり理念なりに共感し、自らもそこにコミットしたいと考える投資家とマッチングする

その際、少額でも、そして誰でも参加できるように設計されているこのシステムは、まさに協同組合の思想を具現化している

組合には、ワーカーがその主な構成メンバーとなる場合と、消費者がなる場合、あるいはその両方がひとつの組合の組合員になる場合があるが、これはそこに新たに出資者(投資家)というポジションを生み出したとも言える。

もちろん、組合は各国それぞれの法規制のもとで運営されているから、それに準拠する必要があるのは言うまでもない。

しかし、そのことを踏まえた上で、創業者、生産者、従業員、顧客、サービスのユーザー、そして投資家をひとつにするこのアイデアは、言ってみれば資本主義経済の新しいエコシステムを駆動させる破壊的なパワーを秘めているとも考えられる。

Coop Exchange自体がマルタに本拠を置く協同組合だが、International Cooperative Alliance (ICA:国際協同組合同盟)の公式文書では「高度なテクノロジーによってオンラインプラットフォームを簡単に提供でき、プライベートな電子市場を構築する」として賛同の意を表し、早速、ワーキンググループが作られた。

Coop Exchangeのサイトではこう宣言している。

我々はCoop Exchangeを1%の富裕層だけではなく、世界中の人々のために開発した。
ある研究では、貧困層が貧しさから脱却できないのは仕事がないことだけが理由ではない、彼らにも投資の機会が必要であり、投資した資金を成長させることが必要だと報告している。
1セントから投資できるようにすることで、そうした貧困層を含むすべての人々を我々は受け入れ、スタートアップ時の組合にも円熟期の組合にも同じように多くの恩恵をもたらす。
我々は残りの99%の非富裕層を、施しではなく、経済の中心に持っていきたい。

実に素晴らしい理念だと思う。

で、ちょっと脱線するが(またか)、このアプリが実現するものをツラツラ考えていて思い出したのが、渋沢栄一だ。

彼は幕末時、徳川慶喜に仕え、フランスで開催される万国博に赴き、パリで先進的な社会システムを見聞して日本に持ち帰り、明治維新後の日本の発展に数多くの業績を残した偉人だが、「株式会社」の概念もそのひとつと伝えられている。

渋沢のことを思い出したのは、彼自身は「合本主義」と言っている、より数多くの人たちから少しずつ資本を集めて事業を起こすという思想に、このCoop Exchangeの言葉がオーバーラップしたからだ。本来、資本主義ってそうだったんじゃないか、と。

渋沢栄一のなにがどうすごいかを知りたい方には、こちらをオススメ。長いけれど実にオモシロイ。

それはともかく、Coop Exchangeが今後どうなるのか、いろいろ解決すべき課題はあるだろうけれど、ぜひ実用化してほしいので、その動きは注視しておきたい。

できることなら、日本でのローカライズをうちの組合でできれば、なおいいな。で、その開発資金をCoop Exchangeで調達するってのはどうかな?いいアイデアだと思うのだけど。

と書いてきて、ああ、そういえばとクラウドファンディングのことを思い出した。組合がクラウドファンディングしても一向に問題ないことは中央会でも確認してるんだった。株式に変えるクラウドファンディングもあると聞くので、そのへんも研究してまた書こうと思う。

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ということで、最後までお読みいただき有難うございました。この記事は、毎週水曜日にカフーツで開催しているブログジェリーで書きました。

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ではまた。


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