桜咲く公園のステージからギターの音と歌声が聞こえた。
友人の蓮れんが言う。
「『春とギター』っていう音楽イベント、行こうよ」
「えっ」蓮は渋る僕の腕を引いて入場した。

音楽は好きだった。
でも高3の文化祭の時、弾き語りで大失敗して恥をかき、ギターも歌も嫌いになった。
他校だった蓮は知らないだろう。

女性デュオのステージが終わり、司会者が出てきた。
「次の『林ファミリー』、今朝お父さんがケガをしてギターが弾けませんが、10歳の娘さんがぜひ歌いたいそうです。
『ひまわりの約束』弾ける方いらっしゃいませんか？」

なかなか手は上がらない。
蓮がこちらを向く。
「拓海。俺あの文化祭見たんだ。弾けるよね？」
「大失敗した」
「失敗したのは別の曲だろ。あの子泣きそうだ、歌わせてあげようよ。拓海ならできる」

女の子の満面の笑顔と、舞台袖で深く頭を下げたお父さんの姿以外、あまり覚えていない。
でも今まで半分眠っていたような僕が、春ギターでやっと目を覚ました。

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