私は綺麗でも可憐でも話上手でもないままテレビに出る

なんでこんなことになったとテレビに出る度に思う
見たこともないような美しい人が綺麗な声で上手に話す
どんな話題でも明瞭な言葉を当意即妙に返せる人がいる

私はいつもひどく場違いな気持ちになって、楽屋挨拶に行く度に異物混入してごめんなさいと思いながら、よろしくお願いしますと言う
そこそこ若い女だけど、綺麗でも可愛くもない
学歴はあるけど、ピカイチとは言えない
本もはちゃめちゃに売れているとは言えない
毎回滑舌を注意される
話が回りくどいことがある
専門家でもない
明るくない
人の目を見られない
少しの期間、不登校だった
シンプルにただのオタクだ

本気で宝塚に憧れてダンスや演技を習った愛おしい黒歴史があるくらいだから華やかな世界への憧れはない訳ではないと思う

でも、私はただ文章を読んで欲しかっただけだった
宝塚に入ることがない人間として生まれた私は作家になりたいなあと思っていたから

たまにテレビに出ると本は少しずつ売れた
そのうちテレビの依頼が増えてきて、請求書を送ることが人生の中でも指折りの苦痛になってきたのを感じたので今の芸能事務所に入った
もうすぐ2年が経つ
テレビを見ることがないからずっと芸能界での夢を聞かれると困っていた
歌手なら紅白出場、女優なら大河ドラマ出演、お笑い芸人ならM-1優勝
きっと何かあるのだろう
私はなんとなく歩み始めた道の先に何があるのか全く分からなかったのだ

2年やってようやく私は芸能界での目標が見えた

私はかっこいい人になりたい

2年間熟考した結果がこれかと拍子抜けするかもしれないが、突き詰めた結果これが全てだった

私は綺麗じゃない、肩書きも強くない、喋るのも上手くない、明るくない
それでもかっこいい人としてこの華やかな世界に存在してみたいと思う

聞き取りにくいことを何度も注意されるから滑舌は頑張る
出来るだけ人の目も見て話そうと思う
分かりやすく話せた方がいいし、せっかくなら私なりに綺麗にもなりたい
そして、もっともっと色んなことも考えていこうと思う。何かを言葉にするために

私は少しずつ変わって行くけれど、いつまでも私のままでかっこよくテレビに映ってみせたい

24歳の私は初めてテレビに出た16歳の時と比べて格段に綺麗になった
それでも、テレビに出れば必ず知らない人がブスという
私は今後そうとうな天変地異が起こらない限り、万人にとっての可愛い女の子にはならないのだろう

だからいいのだ

‪美人でもない、芸がある訳でもない私がかっこいい人間としてメディアに出られたら私は誰かに未来を見せられると思う‬

‪人は何もかっこいいものを持って生まれなくても、かっこいい人間になることを諦めなくていいと私には伝えるチャンスがあるのではないかと思う‬

‪美しさやスマートさや強さや色々なかっこよさがあるけれど、世界には言葉の種類以上にたくさんのかっこよさがあると思う‬

‪私は日常レベルの人間関係においてすら、時に滑稽さを求められるし、素で少し間抜けなのは否めない‬
‪気軽にマウントされるし、電車をまともに乗れた試しがないし、部屋は魔窟だ‬

‪世界はまだオタクに奇人変人めいた滑稽さを求めている‬
‪そうしなくても許されるのは美人やイケメンなのに実はオタクであるというギャップくらいだ‬

‪まだ、世の中に容姿のふるわない女性のかっこいいロールモデルは少ない‬
‪特に日々、姿を見せる仕事にはとりわけ少ない‬
‪渋いおじさんより渋いおばさんの方が少ない‬

‪それでも私をかっこよく見せてくれようと尊重してくれる人達もいる‬
‪私はこれからそれに相応しいかっこよさを身につけていきたい‬
‪そのかっこよさを作るのは思考であり、言葉であり、責任であり、生き方だと思う‬

私は綺麗じゃない、私は華がない、私はスマートじゃない
少し前までそういう女には滑稽で面白おかしいという椅子しかなかったかもしれない

でも、属性という呪いの装備を外すのは今だ

呪いの代わりにテンプレのイメージを打ち破る強さをもつ祝福を

精悍な身体や聡明な頭脳を持った男性が強者として振る舞うことを決めつけられない祝福を

‪美し‬く可憐な女性が誰かに搾取されたり、誰かを搾取していると思われたりしない祝福を

生まれ持ったもので自分の人生はおおよそこんなものだろうと諦めるのが賢いとされない祝福を

私には羽根を背負って劇場の大階段を降りる人生はない
どちらかというとバックパックを背負って山をかけ降りる可能性の方が多い

見た目はまるきり違うけど、同じくらいかっこよくなってやると闘志を燃やしている

私組私役トップスターの篠原かをりですと思える日まで