私が可愛くない言い訳を聞いてくれ

自分が可愛くないことを知るのに16年かかった。

自分が可愛くないことを認めるのに5年かかった。

自分が可愛くないことを諦めるのにあと何年かかるんだろう。

可愛さとは守ってあげたいという庇護欲を含んだ愛情だと思う。

可愛いあの子は丸い目をして小さい顔をして細い手足をもっている。

可愛い子なんて誰だって守ってあげたいと思うのだから、本来保護の対象となるべきはあまり守られない私だってみんな気がついて欲しい。守って一人当たりのリターンが大きいのは間違いなく私であるのに。守らないどころか、可愛くないことを理由に攻撃の対象にするなんて一体どういう神経をしているんだ。そう憤っていたら、可愛い笑顔は脳の報酬を司る部分を強く刺激するという絶望的な研究結果を見た。可愛いことそのものが報酬であるなら私の出る幕はもうない。軍部とのつながりや石油の代理権より価値のある何かがそこにはあるのだ。

保護活動の盛んな絶滅危惧種は大抵みんな可愛い。いつか、ゴキブリが絶滅しそうな時、一体どのくらいの人が募金してくれるんだろう。

可愛いは「守るべき」ではなく、あくまで「守ってあげたい」なのだ。

可愛いは性格や言動にも適用される。

中身はなかなか珍しい奴だからきっと誰かが好きになるに違いないと思っていたのに性格も可愛くないとか言われて最初全く理解ができなかった。こいつらは珍獣なのかという感想しかなかった。

しかし、集団の雄あるいは雌の好みが一定に偏った時、その形質をもった個体しか配偶者として選ばれなくなることがある。これをランナウェイ仮説という。

大多数の好むものを好んでおけば、その形質が子孫に遺伝して最終的に自分の遺伝子を残せる可能性が高まるというものだ。

私の遺伝子は今まさに淘汰されようとしている。

可愛くない私が配偶者として選ばれないことは誰も悪くない。私が可愛くない人間に生まれたことには当然なんの責任もないし、遺伝子の乗り物である人間が私に惹かれないことも自然の摂理なのだ。

普通の子が好きだと振られた。常軌を逸した行動が好きじゃないと言われた。

なるほど、これが可愛くないの正体らしい。でも、言っておくが、お金の使い方が常軌を逸していると言ったって買ったのはお前のだっせえ高いパーカーだからな。人の善意をなんだと思っている。なんたる空虚。

それを差し引いても一理あるのは、「普通」であることは生物における可愛いの最低条件であるということ。普通であることが一番子孫を残しやすい。

それは容姿だったり、言動だったり、服装だったり。もちろん、容姿は可愛ければ可愛いほどいい結果を生みそうだから、一概に普通とは言えないけれど、平均顔が美しいとされるなら、それもひとつの普通なのだと思う。

私だってなんの努力もせずに可愛くないことを嘆き続けてきたわけではない。

確かに大学一年生くらいまで私はドブス沼に片足を突っ込んでいた。片足と言わず右半身くらい持って行かれていたかもしれない。最近は虚飾だろうが、偽装だろうがたまに小綺麗にあと少しで指先が触れるくらいまでになったと思う。

デパートコスメを惜しげもなく塗りたくり、三白眼をカラコンで覆い隠す。

食肉偽装と言われたら何も言うことができないけれど、それだけの努力をして可愛くないことを隠そうとする健気さに可愛さを見出して欲しい。

それでもやっぱり可愛いには入れない。可愛いは幼稚園か小学校からしか入学できないエスカレーター式の名門私立一貫校なのだ。あとはたまに欠員がでて数名補充される程度しか入れない。

生まれつき可愛いに振り分けられなかった女は努力を重ねて針の穴のような欠員補充を狙うか、それ以外の生き方を模索するしかない。

可愛い可愛いと持て囃されるパラレルワールドには未練タラタラであるものの、可愛い以外の何物かになろうと努力している。

セクシーや知的に入れれば御の字だが、この際、最強に怖い女とかでもいい。

誰よりも強く怖くなってビビらせてやりたい。言葉を忘れるくらいに強くなりてえ。

今日、家に元彼が好きだといった系統の、ダサめで清楚な服が大量に届いた。可愛くなろうと足掻いた残骸が布切れになって目の前にある。今の私にはチェックのジャンバースカートもグレーのプリーツスカートも赤いカーディガンも着る資格があるのかわからない。

ただ、それらの服は確かに私でもわかるくらいに可愛いのだ。

ジャンバースカートはあまりに似合わなかったから、誰か可愛い女の子にあげるか、記念にとっておくか迷っている。いつか全然似合わないジャンバースカートを堂々と着れる日がきたら、私は可愛いとは言えないかもしれないが、めちゃくちゃ怖いと思う。

私には夢がある。いつか私を可愛くないと非難した男達の誰よりも男らしくなって全員分合わせても届かないくらいの収入を得る。そしたら、私が可愛くないことなんて気にしないくらい肝の太い男と結婚して私の可愛くない遺伝子をたくさん残してやる。報復ではない。実は可愛くない遺伝子も必要なのだ。集団が同じような個体ばかりになると些細な環境の変化で一網打尽にされかねない。私が今可愛くないことにも意味があるのだ。現世を投げ打って種が絶滅しないためのスペアとして存在している私を愛してくれとは言わないから労ってくれ。

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