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九月さんと「リディクラス!」

2024年4月26日から27日のツイートまとめ。ピン芸人「九月」さんのお悩み相談アカウント「九月の『読む』ラジオ」の投稿が実に鮮やかだったので、思わず連投した。まずは、発端のポストを読んでほしい。みんなに読んでほしい。

読んだ? ここから下は当番の感想ツリー。

相手の言った「つまんねー」は、ほぼほぼおばけの「呪い損ねたー」なんだと思う。

「九月の『読む』ラジオ」2024年4月26日の回答ポストより

すごいな、この譬えはすごい。呪い損ねた、カモを喰い損ねたあやかしが言うセリフ。「ブス!」とか「アバズレ!」とかもソレだよね。「口惜しや、あと少しでワンチャン取り殺せたのに」だ。

自己愛者(※自己愛性パーソナリティ障害の傾向がある人)が作戦失敗したときの「ケチ!」「ずるーい!」「意地悪!」の捨て台詞も「呪い損ねた」「奪い損ねた」なんだろうなと思う。

一夜明けてもうひとつ思い出した。「チッ、ノリ悪いな!」も「チッ、うまく呪えなかった!」の一種だな。よくいる、他人に無礼な発言や態度をぶっぱなすことを小粋なジョークだと勝手に思い込んでいる人間が、その「ジョーク」だと思っているものが「ウケなかった」ときに拗ねて言いだすやつ。

「(その中ではオレ様アタシ様が主役で大注目バカウケ劇場という)領域展開ができなかった」「固有結界を張れなかった」みたいなものなんだろうな、「チッ、ノリ悪いな!」「つまんねーやつ」「バーカブースアバズレ売女!」みたいな「他人が自分の思い通りに動いてくれなかった」ときの捨て台詞。

「領域展開」は九月さんも使っていた言葉だね。

「相手の言った『つまんねー』は、ほぼほぼおばけの『呪い損ねたー』なんだと思う。」

何度でも書くけど↑ここがすごく好き。これね、当番は九月さんの放った「リディクラス!」だと思う。

「リディクラス!」は『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』に登場したボガート対策呪文ね。「相手が最も恐れるもの」の姿をとり、恐怖を与えるシェイプシフター(変身)妖怪がボガート。そのボガートに有効な呪文が「Ridiculus!」※。この呪文はボガートの姿を馬鹿馬鹿しいものに変えることができる。

※Ridiculus は英語の ridiculous リディキュラス(馬鹿げている)を呪文っぽく(擬古文っぽく、ラテン語っぽく)したものと思われる。日本語だったら「たわけ!」みたいな感じかな

ボガートは「これがお前の恐れるものだ、どうだこわいだろう!」と示して相手の足を竦ませる。その「恐怖による足止め」に「ワロスワロス!(リディクラス!)」という呪いをぶつけ返してボガートの呪縛を解除する。解呪、相手のかけてきた呪いの無効化とは、実のところ「別の呪いをかけること」である。

京極夏彦の百鬼夜行シリーズでも見てきた、「憑き物落としとは実のところ『別の憑き物を憑けてやる』ということだ」という、アレだ。レイ・ブラッドベリの『何かが道をやってくる』でも、邪悪な存在への究極の武器は「笑い」だった。鉛の弾丸に爪で刻んだ笑顔の印が魔物の呪縛を打ち砕いた。

「『マッチングアプリ経由で会ったなら、当然性行為をするものだ』という一方的なルールで動いていて、性行為を拒絶されると『つまんねー女』と言い放つ男」を「おばけと同じ」と表現し、「相手の言った『つまんねー』は、ほぼほぼおばけの『呪い損ねたー』なんだと思う。」と評するのは鮮やかな呪い返しだ。

「最も短い『呪』とは『名前』だ」という夢枕獏の『陰陽師』も思い出す。名付けにより、相手を縛る。「定義のしなおし」により、場の主導権を握る。件のマチアプ男は、先手で相談者を「つまんねー女」呼ばわりして呪いをかけようとした。思い通りに性行為ができないなら、せめて罪悪感か恥辱を与えたい。

そして相談者は、そのマチアプ男が放った呪詛を喰らってイヤな気分になってしまった。そこで「呪われ」て、心の足が竦んでしまった。それがたとえ、思い通りにならなかったときに幼児が放つ「チッ、バーカ!」に等しいクソザコ呪詛だったとしても、解呪法を知らなければそれは心に刺さってしまう。

幼稚な呪詛「バーカバーカ!」の解呪魔法は「バカはお前だwww」という笑いの呪詛返し。「バカ」の定義をしなおすことで、主導権を取り戻すこと。「つまんねー女」だと? お前が「つまんねー男」なんだよ呪詛ヘタクソか? リディクラス!

塗られたら塗り返す。「呪詛」と「呪詛返し」は名付けと名付けの言葉スプラトゥーンだ。当番はこの、九月さんの鮮やかな「塗り替え」を見たくて「九月の読むラジオ」をフォローしているようなものです。本日も見事な塗り替えでした。

そして九月さんは、こうして「塗り替え・塗り返し」をしてみせることで相談者や読者に「ブキ」を手渡しているんだよね。「他人から不本意な色で塗りつぶされそうになったら、こうやって塗り返すんだよ」「自分で自分を塗り潰して雁字搦めになっているようだけど、ちょっと別の色で塗らせてもらうよ」と実演つきで。いちど「塗り替え」「塗り返し」ができると知ったら、「塗り替えたり塗り返したりしてもいいのだ」とわかったら、人はもう一方的に塗りつぶされるだけの存在にはならない。

(と、このように「スプラトゥーン」の比喩を使っている当番ですが、当番自身はスプラトゥーンプレイヤーではありません。フォロイーさんがプレイしているのをSNSで受動喫煙しているだけです)

覚えておきたいので、noteにまとめました。「九月の『読む』ラジオ」はいいぞ。アカウント名  @kugatsu_readio でも read と radio の掛け合わせになっているのに今気付いた。いいね、readio 



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