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Come From Away

わたし、今まで見たミュージカルの中で多分この作品が一番好き。どうしてだろう。お衣装もセットも最低限だし、派手ではないのだけど。

911の同時多発テロの時のお話し。アメリカ領空が閉鎖されて、アメリカに着陸するはずの飛行機38機が、カナダ、ニューファンドランドのガンダーっていう、人口8000人の町にある空港に緊急着陸するの。

乗客は7000人以上!ほぼ人口とおんなじ!
ガンダーの町の人たちがてんやわんやしながら、不安な乗客たちを町に受け入れる。飛行機の人たちがガンダーに滞在した5日間のお話しなの。

出演者12人が、ほぼ舞台上に出ずっぱりで、ガンダーの町の人、飛行機でやってきた人たちを、1人何役もくるくる演じるの。ジャケットを羽織るだけ、帽子をかぶるだけ、時にはそういう外から見えるスイッチなしに、立場も人種も全く異なる人を次々と演じていく。すごいの。

曲も本当に素敵だし、ニューファンドランド特有の楽器も使いながらちょっと懐かしい感じがする音楽が素敵なんだけど、たぶん、舞台上に生を受けている人格全員に物語があって、全員が主人公の物語が一気に描かれるのがすごくわたし大好きなんだとおもう。

映画でも本でも、一つの瞬間に画面の中や文字列の中には主役が1人しかいられないでしょ?画面が切り替わって敵が映ると敵のストーリーも描かれるけど、全くの同時には二つのストーリーが一つの画面の中にはないと思うの。混乱しちゃうもん。
だけど、舞台って、舞台上で何個もの物語が同時進行されてて、主人公が今死んでいくその時も、上手ではカップルがキスをしたり、下手では主人公の思いをつぐ息子が決意を新たにしたりするじゃない。全く同時に。舞台のそういうところが好き。リアルじゃない?
わたしも主人公だし、あなたもあなたも、物語の主人公だねって!!

カムフロムアウェイはまさに、一人一人の物語が同時に進行していって、全員に感情移入して、全員が大好きになるの。舞台にしかできない表現だとおもうの。実際にインタビューして聞き取った事実を下敷きにした物語だから、よりひとつひとつのストーリーがビビッドなんだろうな。

スト中のバスの運転手、ガースが「会社は気に食わないけれど、飛行機の人たちは助けなきゃ」って、バスを出して、乗客を宿泊施設になってる学校に運ぶんだけど、
乗客はアフリカの人たちで会話がつうじない。どこに連れてかれるのか、不安そうにしてることだけわかるの。でも、ガースはアフリカの人が持ってる聖書をみて、言葉はわからないけれどきっと目次は同じだと気づいて「おもいわずらうことなかれ」って書いてあるはずの場所を開けてみせたの。
安心した顔と、「そうして僕たちは同じ言葉を話し始めた」っていうセリフで、なんかもう、こうやってわたしたち、言葉がわからなくても「同じ言葉を話す」ことができるじゃん!!ってなった!!

自分ちにしらないひと呼んでお風呂を提供して、自分と違う宗教の人がゆっくり人の目を気にせずにお祈りできる場所を作って、ベジタリアンやユダヤ教やイスラム教の人たちが食べられるご飯をみんなで作って、イライラしてる人をバーベキューに連れ出して、ほぼ寝ずにお世話し続けるの。そしてそれはただただ、不安な状況の中で自分たちの町に降り立っちゃった人たちを安心させるためなの。それが当たり前のように次々と機知とユーモアを片手に行われていくのを、観客の私は奇跡を見るみたいに見てた。

「あなたも同じ立場にやったら同じことをやるさ」
って軽々と言ってのけるのをみて、キラキラの宝石を見てる気持ちになった。

飛行機に乗ってやってきたゲイのカップル、ケビンとケビン(別れちゃったけど)にも、911で殉職した消防士のお母さんハンナにも、ガンダーで出会って結婚したダイアンとニックにも、ニューヨーク出身でこんな親切にされるなんていつかお財布取られるんじゃないかって疑心暗鬼になってたボブにも、市長さんにも、警察官のボブにも、アメリカン航空の最初の女性パイロット、アネットにも、動物愛護協会のマーサにも、新人記者のジャニスにも、やってきた乗客をほんとにあったかく迎えたビューラーにも他にもいっぱい出てきたみんな全員、一生しあわせになって欲しい。

これがほぼ実話だっていうこと自体がわたしにとっては奇跡だし、この物語は、ただ、「今」のお話しとして消費されるんじゃなくて、レミゼラブルみたいにずーーーっと上演され続けて、先の時代の人たちにも見せたい物語だなって思いました。






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