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あん

戸井勝海さんが出ていらした劇団朋友さんのお芝居「あん」

このわたしが、劇場に見に行けなくて、冗談じゃなく枕を涙で濡らしていたら、アーカイブがあって見ることができたの。「観劇三昧」さんにお歳暮送りたい。


わたしが大好きな戸井さんが出ているってことしか知らないで見たの。

そしたらちょっとわたしの人生変わっちゃうようなお芝居だった。

どら焼き屋さんのお話なの。戸井さん演じる千太郎は学校の近くにあるどら焼き屋さんの店長をしていて、どら焼き屋さんには商店街の人や高校生が来るの。そこに、おばあさんが、どら焼き屋さんにアルバイトとして雇ってほしいってやってくる。千太郎はけんもほろろに追い返しちゃうんだけど、おばあさんが持ってきた手作りの餡子が美味しくて餡子を作ってもらう要員としておばあさんにきてもらうことにするの。

戸井さんの千太郎はちょっと世の中を斜めに見てて、社会の中に取り込まれるのが上手じゃなくて、外から見てる感じ。最初とっつきにくいのに、不思議に人懐っこくて、おばあさんでも高校生でも手加減なしに人間として対等に付き合っているの。おばあさんともすぐに最強タッグの相手になっちゃうの。

高校生へのぶっきらぼうな喋り方も、世の中を斜めに見ている感じも、戸井さんの声とか仕草とかがぴったりで、千太郎さんの性格の詳細な説明なんてなかったけど、そういう人なんだろうなってピッタリはまって見れたの。

おばあさんは吉井徳江さんって言って、益海愛子さんが演じているのだけれど、徳江さんが話すと、空気がゆったりするというか、ふんわりするの。訥々と喋って、でも餡子のことだと店長の千太郎相手でも引かなくて、時々チャーミング。

人生のことも餡子のことも、最初から投げてる・・わけじゃないけどちょっと捨ててる感じの千太郎さんを、徳江さんが優しく後押しして諦めさせないのが、千太郎さんこういう人に出会えてよかったねって思っちゃう。

お店に来ている高校生たちの中で、家庭に事情があって、まっすぐすぎる性格がクラスで浮いちゃうわかなちゃんへの千太郎さんの接し方も、やっぱり子どもだからって見くびらない接し方だし、徳江さんも、わかなちゃんが気づいていないわかなちゃんのよいところを教えてあげて、コミュニケーションを助けてあげる。それぞれに親子ほども年が離れている他人の、三人の関係が、暖かくて素敵なの。

徳江さんがハンセン病に罹患したことがあるってことが知られて、お話が展開していくのだけれど、ライ病って聞いたことがあって、ちょっと恐怖感を持っている千太郎さんの世代と、もともと治る病気だって知っているわかなちゃんの世代の受け止め方の違いも大きいんだなって思ったの。

千太郎さんは徳江さんがハンセン病にかかったことがあるってわかっていても、徳江さんを見る目は変わらなかったし、ずっと一緒に働きたいって思ってたの。でも商店街の手前なかなか難しかったし、やめるって言った徳江さんを止められなかった。この時にわかなちゃんが千太郎さんを責めて、千太郎さんが言い返せなかったことが、まさに今の時代の構図なのかなって思ったの。

現実として、ハンセン病は感染力が弱くて、治った後もうつったり、いつまでも隔離しなきゃいけない病気じゃないし、発症してもすぐに治るって大人みんながわかっていたのに、1996年(!)までずっとらい予防法が廃案にならなかったし、差別が続いたのは、大人たちの責任だなって。差別に根拠なんてないことがわかっていたのにちゃんと守れなかったっていう負い目があるなって。


どら焼き屋さんを辞めることになっても徳江さんはずっと優しくて、千太郎さんを息子のように気にかけてくれていて、わかなちゃんも徳江さんの言葉をたくさん受け止めることができた。差別の当事者の徳江さん、差別を止めることができまかったその一つ下の世代の千太郎さん、差別なんて!って息巻いて徳江さんのために泣けるさらに一つ下の世代のわかなちゃん。

こうやって、世代を重ねて、ハンセン病の差別にきちんと目を向けることができていくのかもしれないし、下の世代のためにも、この、ハンセン病の謂れのない差別はどうあってもなくしていかなければいけないし、同じような立場に置かれた差別を受けている人をちゃんと守れるようにならなきゃなって思いました。


穏やかな会話が続いて、大きな場面転換も、大きな言い争いも起きないお芝居の中で、淡々と語られるハンセン病療養所での壮絶な生活に息を呑んだし、合間合間にさし挟まれる塔和子さん(自身もハンセン病を患った詩人)の詩が心を抉るようだったの。

お芝居としても本当に考えるべきことがたくさんあって勇気をもらえたの。

そして、わたしが弁護士になった後、平成15年に起きた熊本でのハンセン病療養所入所者に対する宿泊拒否事件があって、同業者が色々頑張ってたのは知ってたけど、自分のこととして全然受け取ってなくて、へえくらいに思ってたのが恥ずかしいなって思いました。

ちゃんと知るところから始めたいし、塔和子さんの詩が素敵だなって思ったから、詩集も買ってみた。本当に素敵だし、高潔な詩。

奇しくも弁護士会のメーリングリスト(神奈川県という田舎の弁護士会なもので、みんなでメーリスで雑談的なことをしたりもするの。)に投稿されてた、国立ハンセン病資料館に、年始行ってみようかな。

こうやって考える機会を与えてくださってありがとうございました。でした。



で、ここまで真面目に書いといてあれなのですが、一個だけ言い残したことがあるので言っていいですか?戸井さんの背中が、背中が!!かっっっっっっこいい!!


以上。




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