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通常非公開の日本庭園で、初冬の紅葉と伽羅の香りを楽しむ。

<次回開催のお知らせ>

2019年11/23(土・祝)東博にて、お香と蘭奢待をテーマにした香道体験会を開催します。詳細・お申し込みは以下のPeatixページにてご確認ください。

【2018/12/8(土)香道体験会 東京 開催レポート】
「香筵 伽羅の香りを聞く会」@東京国立博物館(東博)茶室 転合庵

<目次>
・ご挨拶とお礼
・御池の秋の名残を愛でる庭園拝観/遠州ゆかりの茶室「転合庵」
・香筵(聞香:三種の香木の鑑賞香)
・香筵(後座:本日のお菓子+源氏香の図カレンダー)
・参加された方のご感想をSNSからご紹介
・最後に

ご挨拶とお礼

2018/12/8(土)開催の初心者歓迎の香道体験会「香筵 伽羅の香りを聞く会」にご参加頂き、誠にありがとうございました。
晩秋から初冬にかけて、今年は驚くほど暖かい日が続いたおかげで、香筵当日も東博庭園は穏やかな陽気に恵まれ、暖かく過ごしやすい一日となりました。

「香筵(こうえん)」とは、香会(お香/香道を楽しむ会)のこと。

“初心者の方でも手ぶらで気軽に、正座なしで参加できる本格的な香道体験の機会を作りたい”という思いから、この香道体験会「香筵 伽羅の香りを聞く会」は生まれました。以来、東京都内で年に1〜2回の香道体験会として継続開催し、今年で3年目を迎えました。

香筵の記録を元に、当日の雰囲気を少しでも御楽しみ頂けましたら幸いです。

御池の秋の名残を愛でる庭園拝観と、
小堀遠州ゆかりの茶室「転合庵」のご案内。

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東博(東京国立博物館)の専用出入口にお集まり頂き、受付と簡単なご挨拶を済ませ、いよいよ庭園へ。

都心にこんなところがあったなんて…と驚かれるお客様も居られるほど、緑豊かで、のびのびとした空間が広がります。

通常は一般非公開の、見事な紅葉の錦に彩られた美しい日本庭園を歩き進むと、御池のちょうど目の前に、本香筵の会場となる転合庵が現れます。

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「転合庵(てんごうあん)」は、小堀遠州が皇族から下賜された茶入れを御披露目する茶会のために京都に建てられた茶室です。(昔の人はやることが豪快ですね!)

後にこの地に移築されて東博に寄贈された、大変由緒ある御茶室です。
ちなみに、その下賜品の茶入「於大名(おだいみょう)」も、茶室と合わせて東博に寄贈されているので、機会があれば是非ご覧になって頂きたいと思います。この日ご参加頂いた方は、茶室の中に入り、ゆったりと寛いだ心地でお香を聞いて頂きました。

香筵(聞香:香木三種の鑑賞香)

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お申し込みページでは「白檀・沈香・伽羅」の三種の香木とご案内していましたが……
今年はこの会が唯一の開催で、師走という寒くて多忙な時期にわざわざ足を運んで頂いたこと、御代替わりを控えた平成最後の香道体験会となるかもしれないといった背景がございました。
そこで、今回はサプライズとして、二種の伽羅と白檀の計三種を聞いて頂くことにしました。

お香(香道)の遊びには、聞香、組香の他に「炷継香(たきつぎこう)」(流派によっては炷合香、焚組香などとも)と呼ばれる、銘をつけられた香木を炷き継ぐ遊びがあります。
連歌(れんが)と呼ばれる和歌の御遊びのように、香名で季節の言葉や雅語をつないで、四季を旅する香の御遊びです。

現代の香道ではあまり用いられていない遊びですが、私は鑑賞香(一つの香木の香りを聞香形式でじっくりと聞く遊び)の次にこの「炷継香」が好きなのですが、これは香元以外も参加者一人一人が連歌のように香を出して自分で香木を炷く必要がある事から、中級〜上級レベル以上の香道習得者向きの遊びです。
そこで、このエッセンスを取り入れて、初めての方でも香りを聞くだけで季節を旅する炷継の感覚を味わえるように香を炷くことにしました。

香木は、右から順に「残紅(伽羅)」「白檀(老山白檀)」「友千鳥(伽羅)」の順に焚きましたが、実はこの順にも意味があります。一つずつ解説を加えて、その意味を紐解いていきましょう。

「残紅(伽羅)」
咲いて散り残る赤い花を意味する雅語。当日はお庭の紅葉もまだまだ見頃でしたので、ここから冬枯れの景色に向かって行く様をイメージしてご用意致しました。

「白檀(老山白檀)」

白檀はお線香やアロマ、香水、扇子などの工芸品でも使われるので、最も馴染みのある香りかもしれません。白檀はインド、オーストラリアなど様々な地域で採れる香木ですが、その中でも最高品質を備えたインド南部地域産出ものは特に「老山白檀」と呼ばれます(老山の方が、香りに奥行きと気品があります)。
流派によって白檀を使う/使わないという違いもありますが、白檀の香りは(伽羅も含む)沈香とは異なる魅力を備えており、聞き比べることで香りの違いがより分かりやすくなります。また、炷継香では箸休めならぬ花休めのように焚く香もあり、ここでは老山白檀にその役割も担ってもらいました。

「友千鳥(伽羅)」

冬の季語である「千鳥」に「友」と付くと、群れを成す千鳥の様子を表す言葉となります。過ぎ去りし秋の名残の後、冬枯れの野を越え、新しい年に向かって力強く飛び立つようなイメージを託す香りとして継ぎました。
ちなみに、この香木は遠州流茶道の家元附銘の伽羅。本香筵の会場となる転合庵とも所縁のある香木です。

香筵(後座:本日のお菓子)

「後座(ござ)」というのは、お茶やお香の後に飲食を伴って行われる語らいのひと時のこと。
古くはこの後座のひと時も含めての会だった(しかも酒宴が多く、後座の方が目的になることもあった)のですが、現代の香会・茶会では軽視され、時間がかかるものとして省略されてしまうことがほとんどです。

しかしながら、香筵の豊かさは、香を聞くその最中ばかりによって成るものではなく、そこに集う人と人との心の交流の豊かさが折り重なってこそ、本来の輝きを得るもの。
そのため、この会では後座も含めてお楽しみ頂くようにしています。

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「冬の福寄せ」
様々な木の葉が風に吹き寄せられ、ひと所に集まる様子を表した「吹き寄せ」は、四季折々の品を盛り合わせた和食や和菓子で良く扱われるテーマのひとつ。

今年は秋と冬の境が難しく、紅葉も美しい頃合いでした。そこで、香りの旅と合わせて、晩秋の名残を惜しみつつ、冬を越えて新しい年の幸いを呼び込むような「冬の福寄せ」と題するお菓子の盛り合わせをご用意致しました。

かごのような変わった形の器は「箕(み)」という農具をモチーフにしたもの。箕は、収穫した穀物をふるい、殻や塵を分けるための道具として作られたものですが、これが転じて「大切な物を掬い、福を残す縁起物」として扱われるようになりました。

福箕皿に盛るお菓子は三種。

●信州産市田柿の干し柿の発酵バターサンド、ミルフィーユ仕立て。
茶会などで頂く御菓子といえば、甘い餡をたっぷりと用いた主菓子を想像されるかもしれませんが、実は今ある主菓子は砂糖の生産技術が大きく発達した江戸時代頃から普及したもの。その昔は餅や麩焼、干し柿や胡桃・栗といった木の実などが茶菓子として供されていました。あとはお饅頭、南蛮菓子なども好まれていました。 
中でも干し柿は平安時代には既に祭礼用の菓子として用いられ、利休時代の茶の湯の菓子としても登場する、古い歴史を持つ御菓子です。
そんな歴史ある干し柿ですが、実はバターとの相性がとても良いのです。
しっとりと柔らかな干し柿に、コクのある発酵バターを挟んだ現代風のこちらのお菓子は、日本茶だけでなくコーヒーやワインにも良く合う逸品です。
●丹波産黒豆の抹茶黒豆・しぼり黒豆
丹波黒豆の本場・夜久野で作られた黒豆菓子。ここの「しぼり黒豆」は、余計なものを加えず、素材は砂糖と黒豆のたった二つだけで作っているのですが、これが絶品なのです。中はしっとり、柔らかすぎず固すぎず、外皮には薄氷のような絶妙な歯触りが楽しめる、後を引く美味しさ。
「抹茶黒豆」は、カリッとした軽快な食感が楽しく、口に含む度に、抹茶の風味がふわりと広がります。
●旧嵯峨御所大本山 大覚寺 菊御紋ふせん(御製 京菓子司 千本玉壽軒)
御代替わりを数ヶ月後に控え、今年の年越し・お正月は、平成最後の機会となります。そこで、今年は嵯峨天皇の宸翰の写経を60年ぶりに公開して話題となった、旧嵯峨御所大本山 大覚寺のみで取り扱われる御紋付きのお菓子を一緒にご用意しました。
麩焼煎餅も古くから茶席で親しまれているお菓子。中央に十六弁の菊御紋がついた大きな麩焼煎餅は、軽やかな食感とほんのりとした上品な甘さが特長的です。

歓談を交えつつ、和やかに聞香の記憶をふりかえったり、今年の記憶に思いを馳せたり。多福なひと時を御過ごしました。

御暦奏にちなんで、屏風型「源氏香の図2019年カレンダー」のプレゼント

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今年は来年の祝日がなかなか決まらないと話題になっていましたが、実は開催前日12/7は旧暦十一月一日で、昔は「御暦奏」という帝に翌年の暦を奏上する行事が行われる日でした。
そこで今回は、屏風型のオリジナルの源氏香の図カレンダーを作成し、小さなお土産としてプレゼントしました。

四曲一双の屏風のようにも並べても、二枚重ねて一隻風に省スペースに飾っても良い卓上タイプのカレンダーです。
*祝日は今月2018年12月に可決された内容(GWが祝日と国民の休日により10連休になるもの)でお作りしています。

源氏香の図は香道の遊び「源氏香」で使われる意匠で、和のデザインとして、着物や和菓子などにも取り入れられています。お香の魅力を日々に楽しんで頂けますと幸いです。

参加された方々のご感想

この会は撮影OKです。プライバシー保護のため人間と御道具(香道具など)のみ撮影をご遠慮頂いていますが、お庭やお茶室、香道体験後の後座の写真はご自由に記念撮影ができます。
SNSに多数投稿して頂いたご感想の中から、その一部を掲載いたします。


香道体験を大いに御楽しみ頂けたご様子、大変嬉しく思います。
ご参加誠にありがとうございました。

最後に

2018年の今回は師走(お寺の師が走り回るほどの忙しさから名付けられた12月の異名)と呼ぶほどの忙しい時期ながら、午後の部は追加席も用意し、初めての方からリピーターの方、和文化全般全く初めての方から香道入門者まで、年齢性別も様々なお客様にご参加頂き、一同和やかに楽しく香を聞く機会となりました。

一方で、12月という時節柄、お仕事など何かと慌ただしく、風邪や体調を崩される方も多い季節、次回こそはというありがたいお声も多数頂戴いたしました(来年は温暖な春〜初夏に東京都内にて開催を予定しています)。

私の香道体験会シリーズでは、ありがたいことに過去の開催に来てくださった方が気に入って繰り返し参加してくださることや、お友達やご家族、パートナーなどご一緒にきてくださることも多いのですが、今回は同じ会に居合わせた方々とお話が盛り上がり、あとでご一緒に食事を頂き、上野巡りに行かれるほど意気投合された方々もおられました!
お香は香りを楽しむのはもちろんですが、それだけがお香の良さではなく、共に坐する人同士の、緩やかな一期一会の交流も楽しいものですね。

次回は2019年春〜初夏を予定しています。このnoteや主催のTwitterをフォローして頂くと、次回のお知らせや香りに関する様々な文章もご覧頂けますので、どうぞお楽しみに。

香筵当日は温暖な過ごしやすい一日でしたが、あれから一転して、冬らしい寒さを感じる日々になりました。
風邪など召されませぬよう、お体どうぞ大切に。

平成丗年 師走 吉日 madoka拝

<次回開催のお知らせ>

2019年11/23(土・祝)東博にて、お香と蘭奢待をテーマにした香道体験会を開催します。会場は本記事掲載の2018年版と同じ「転合庵」です。
詳細・お申し込みは以下のPeatixページにてご確認ください。


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