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金の10倍以上の価値があるものと、それ以上に「価値」があるもの。

香りが素晴らしい、雅である、詩的であるなど、香道とも呼ばれるお香の魅力は、実に様々なものがあります。

しかし近年は伽羅の高騰もあり、金の10倍を超えるほどの価値を持つ香木には、雅遊を求める人だけでなく、ただの転売目的の「心なき人」の注目まで集まっている哀しい現状もあります。

お香の、香道の奥底にある本質的な魅力とは一体何か。

何かの機会に、文章で残しておきたいと思っていました。

そこで、時の天皇が銘を付けたとされる勅銘香を含む名香鑑賞会と、その香筵の後日談を通して感じたことを、香道を嗜む人に限らず、芸術文学を大切に思う人達に向けて書くことにしました。

お香/香道に関するエッセイを寄稿し、Webで本文を読めるようにしました。

去る2016年11月に発売された文芸誌『草獅子(そうしし)』に、お香に関するエッセイを寄稿しました。

香道に関する随筆のご依頼を頂いた際に、一定期間経過後に私のブログ等でも公開するお約束をしており、その期間終了から充分な時間が経過しましたので、本文をこちらにも掲載いたします。

豪華執筆陣とプロ編集者の参画により、注目を集めた本屋初の文芸誌
掲載先の本誌は「カフカ特集」として、 京都大学のカフカ研究者・川島 隆さん、カフカやゲーテの翻訳も手掛ける文学紹介者・頭木弘樹さん(@kafka_kashiragi)らによる素晴らしいカフカ特集記事に加えて、短歌や俳句、書評や随筆など、多様な作品による彩り豊かな文芸誌として刊行されたものです。

テレビ東京の看板番組「WBSワールドビジネスサテライト」の下北沢の本屋B&B@book_and_beer)特集でも、売れ筋の本として紹介されるなど、多くの文学ファンや書店関係者から注目を集めました。

(画像:『草獅子』 告知サイトより引用)
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冊子掲載版はプロの編集の方々により綺麗に紙面を組んで頂いていますが、こちらのWeb版では、横書きの通常テキストでの掲載となります。
そのため、紙面とは少々異なる部分もございます。以下は簡易版としてお楽しみくださいませ。


『音連香(おとづれこう)』  madoka(香人)

春雨の細やかに散る朝に、桜柳の着物を纏い、お香の道具を携えて、御屋敷へ向かうその途(みち)すがら「雨と雪の日は香を聞け」という、古き言の葉を思い出す。

いつからかそう伝えられてきたのは、しっとりと清められた空気が、香りをよく運ぶからだろうか――学に於いての仔細はさておき、何とも言えぬ風情が匂う。

お堀の中にある其の御屋敷は、或る公爵家の本邸であり、師の御母堂のご実家である。今では博物館として、国宝を含む収蔵品と共に公開されている。

この日は、心ある御方々のご厚意とご協力により、御屋敷の一部を非公開とし、内々の香筵が開かれた。

勅命香を含む名香と源氏香を聞き、筝の調べに耳を傾け、予め用意して頂いた伝来の香道具や香木等を拝見し、とくと心を遊ばせた。日本文化の粋とも言える優美に浸る時を過ごした。

このまま真っすぐ新幹線で東京に帰るのも惜しく、京都で数日寄り道をすることにした。それが人情であると同時に、雅遊こそ人の使命でもある。先生も寄り道をされると聞いて、それならば、と京都御所からほど近くにあるホテルのラウンジに待ち合わせて、お茶をご一緒することにした。

先生は私の祖母よりもずっと目上の方ではあるが、気さくで優しいお人柄と、深い泉のような知性から、お話するのがいつも楽しい。寄り道組は首尾よく集い、温かい紅茶を頂きながら、先の香筵を振り返る。思い出話に花が咲くうちに、先生はふと、こんなお話をこぼされた。

先生は成人される前、若くして御母君を亡くされている。それからもう何十年もの時を経たこの香筵の折に、妙(たえ)なる香りに満ちた奥の間で、筝の調べを聞いているうちに、不意に、お香やお筝を楽しんでいた亡き御母君の面影が(まるで其所に現れたかのように)ありありと浮かび上がったという。

「子どもの頃の母のお葬式でさえ、一度も泣かなかったのに、今ごろになってつい涙が零れそうになってしまってね……」
と、穏やかな声で囁くように、その時のお気持ちを語られた。

夢か現(うつつ)か、馥郁(ふくいく)たる香りと音は、懐かしき人の御魂(みたま)を連れて、束の間の邂逅を叶えてくれたのであろうか。

この香筵の旅の経験は何れも素晴らしいものであったが、気紛れな寄り道に語られた「一個人(わたくし)」の奥からこみ上げる小さな声に、静かに耳を傾けて聞く、あの余白のようなひと時にこそ、お香という御遊びの本質の光が滲んでいるように思い、このお話を記憶に留める縁(よすが)に和歌(うた)を詠むことにした。


春雨の霑(しお)るるままに香満ちて音連れるてふ恋し箏の音

御高覧いただき、ありがとうございました。
今後とも様々な形でお香(香道)の魅力をお伝えできましたら幸いです。

直近の香筵/香道体験会のお知らせ

全く初めての方でも参加できる「初心者歓迎・手ぶらでOK・正座なし」のお香会です。
ちょっと良いレストランに行くような感覚で、気軽に本格的な香道体験会ができる機会を作りたいと企画し、今年で開催3年目を迎えました。

東博の通常非公開エリアの庭園にある、小堀遠州ゆかりの古いお茶室で、ゆっくりと伽羅の香りをお楽しみ頂けます。

年1〜2回の限定開催ですので、ご予定の合う方は是非。

2018年12月8日(土)開催・初心者歓迎の香道体験会
「香筵 伽羅の香りを聞く会」@東京国立博物館 茶室「転合庵」
詳細・お申し込みはこちら→https://kaori20181208.peatix.com/

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大吉
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madoka(香人)

香人。香道研究家。東京を拠点に訪日外国政府要人や美術関係者・文化人、職人向け香会の香元、香道レクチャー、異分野コラボ等。年に1〜2回、初心者歓迎・正座なしの本格的な香道体験会を開催。 E-mail:kohdo@hotmail.com Twitter:@madoka_kohdo
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