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詩 「 死ぬまでにもう一度」

久し振りに手紙を送る。 元気だろうか?

お前の街でも梅雨が明けたことを知った。
梅雨明けは悲しい。
俺たちのオシマイがそれから始まったから。
お前も知っているとおり。

お前は、自分の中から色が抜けていくということを経験したことがあるだろうか。 両手の先が透明になり、空の青さが写る。
輪郭だけを残す。
その中を雲が流れていく。

俺は夏に「節」を作る。
お前と愛を交わしたのも、夏。 7月の熱帯夜だった。
そしてこの夏もまた、俺は自分の一部を欠落し、 新たな俺に変わった。

俺の中のお前は変わらない。 あの頃のまま、俺の前で笑っている。
あれから30回以上も梅雨明けを迎えたというのに、お前は変わらない。
俺一人、あの時代から遠く離れていく。

それは麗しい彼岸。
麗しいほど、沖の俺はお前から離れることになる。

先日、マグリット展を見た。
あの頃、お前と新宿のデパートで見た作品もあった。
覚えているだろうか? あの絵を。
俺は得意になってシュールレアリズムを語り、お前は笑顔で黙って聴いていた。
そこにはすでに、オシマイが蹲っていたのだろうか?
あの喫茶店の椅子の横で、コーヒーの湯気の中で、ランプシェードの裏側で。

色が抜け落ち続けているいまの俺は、 いつの日にかお前との思い出も 闇の溜まりに落としてしまうのだろうか。
それは悲しいことだけれども、 それは正しいことでもあるのだ。

ではまた。
来年また、梅雨が明ける頃に手紙を送る。
元気でいて欲しい。 そして、また会いたい。
死ぬまでにもう一度。

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