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美術の成績はいつも「4」だった

美術の成績はいつも「4」だった。

昔から「忘れないこと」が得意だ。
小さい頃車で聴いた音楽、観たドラマ、家にあったレーザーディスク…etc.
そのおかげもあって今日、周りの大人達との会話に困ることはあまり無い。

現在もトークスキルに一役買ってくれている記憶力、もちろん学生時代は勉強に活かしていた。(東大生とかと比べると辛いものがあるけど)
中学から高校、そして高校から大学、いずれも「学校の成績が良い」という理由での推薦進学である。
ただし「勉強が得意」な僕も絵を描くことには苦戦した。
うまく立方体を描くテクニックなどの勉強はした気がする、テストに出たし。
ただ「自由に描いて良いよ」と言われると何もできないのが絵だった。

そんな僕が美術で点数を稼ぐには「美術史」を必死に覚えるしかない。
今でも忘れない、中2の美術の定期テストで美術史部分は満点を取ったがデッサンで減点されまくって成績は5段階評価で「4」だった。
個人的にも絵がヘタな事に関しては諦めがついていたので、仕方ないとしか思っていなかった。

「仕方ない」の先を見せるブルーピリオド

さて、最近凄まじくのめり込んでいる漫画がある。
「ブルーピリオド」という美大受験漫画だ。

成績優秀かつスクールカースト上位の充実した毎日を送りつつ、どこか空虚な焦燥感を感じて生きる高校生・矢口八虎(やぐち やとら)は、ある日、一枚の絵に心奪われる。その衝撃は八虎を駆り立て、美しくも厳しい美術の世界へ身を投じていく。美術のノウハウうんちく満載、美大を目指して青春を燃やすスポ根受験物語、八虎と仲間たちは「好きなこと」を支えに未来を目指す!

ものすごく端折ると
「見た目はやんちゃで遊んでるのに、要領良く勉強はこなす主人公が『満たされない日々』を嘆いていたところ美術に魅せられ美大を受験する」漫画である。
主人公である八虎の美術の授業への取り組み方も物語当初は以下のようなものであった。

時間は有限だ 選択美術は出来ない奴にも比較的いい点をくれる
だから今日の美術は睡眠に当て残り1時間でいい成果をあげるには
あのおばあちゃん先生が好きそうな山とか海とか描くのが無難かな
(単行本1巻 一筆目)

美術の授業はあくまで「点を取りやすいもの」という扱いである。
(描けるだけ僕よりマシだ)

主人公である八虎が現在に思いを馳せるシーンから回想シーンを2つだけ引用するので、それを読んで「ああああああああああ」となったらブルーピリオドにのめり込めるであろう。

最近 気づいたが俺にとってテストの点を増やすのも人付き合いを円滑にするのも
ノルマをクリアする楽しさに近い
クリアする為のコストは人より多くかけている
そしてそれが結果になっている だけのことなのに
みんなが俺を褒めるたび虚しくなる (単行本1巻 一筆目)
いきたい大学もないし いってやりたいこともないけど
やっぱこの辺りが座りがいい
少し高めの社会のレールの上 (単行本1巻 二筆目)

引用したいシーンはいくらでもあるが留めておく。
こんな回想をするハイスペ高校生がドローイングに全力を懸けるまでを追った青春マンガ。ビビッと来たらとりあえず書籍を購入しよう、そして感想戦しよう。

八虎は天才?

さて、ブルーピリオド内での八虎は間違いなく「努力家」である。遊び更けて仲間たちが寝ている中でも、勉強に時間を割く描写が出てくる。
周りからすると見た目は派手だし遊んでるしタバコ吸ってるしでヤンキーなのに要領良く点数を取ってしまう八虎は「天才」に映るであろう。
でも、八虎からすると「天才じゃねえよ努力だよお前が努力してないの才能のせいにして棚にあげるな」って感じではないかと想像する。
そのわり他人にはすぐ「お前天才だな」って言っちゃうタイプとかじゃないかな〜…なんて別に誰かの話ではない、あくまで想像の話である。
努力の天才という便利な言葉があるが、それに近いのかも。

何を褒められるのが嬉しいのか

作中、虚しさを抱えていた八虎が自身の絵を褒められて嬉し泣きする場面がある。
褒められて嬉し泣きする出来事なんてあったかなぁ…嬉し泣きはしたことないけど、それが次への原動力に繋がったことはあった。
高校1年〜2年にかけてずっと音楽を作っていたし、歌っていた。その当時は「もっと聴きたい!」という感想を貰えたことが曲作りの原動力だった。
「すごい!」と言われるのも嬉しいが、「好き!」と言われた方が嬉しい。

クリエイティブ職をしている人ならば、テクニックだけでは超えられない壁にぶつかることがあると思う。作中でも八虎が技術だけでは評価されないということに気が付くシーンが。そういった、生々しいけど「あるある…」という部分まで描いてくれているからこの作品がこんなにも好きになったのかも知れない。
美大を志した人はもちろん、クリエイティブ職に就いている人はきっとハマる。
(あと最近の高校生もだし、若手社会人もだし、『乾けない世代』にはどハマりすると思う)

好きなことをやるって
いつでも楽しいって意味じゃないよ (単行本3巻 11筆目)

決して無敵の天才のマンガじゃないこの作品がとても好きだ。

そういえばブルーピリオドを読んでいて、デッサンの成績はダメダメだったけど、クロッキーの評価は小学校・中学校ともに高かったことを思い出した。
先生からは「味があって好き」というコメントを貰ったと覚えている。当時は下手な僕に対し気を遣ってくれてるのかなぁと思っていたが、今考えると「感性を貫け」というエールだったのかも知れない。頑張ろう。

ブルーピリオドは以下から一筆目の試し読みができる。

2019/5/9現在、電子書籍版ならなんと単行本1巻が無料DLできちゃったりするのでAmazonなどからどうぞ。

作中では様々なスタンスからの「無い物ねだり」が描かれているので読み手と重なるキャラがいるかも。

なんでも持ってる人が美術(こっち)に来んなよ
美術じゃなくても良かったクセに・・・!
※主人公が掛けられた言葉(単行本2巻 八筆目)

ちなみに、八虎がピカソの絵に対し「よくわかんない 俺でも描けそうじゃない?」という回想からこの漫画は始まるが、10年前に彫刻の森美術館で全く同じことを呟いたのを思い出してちょっと笑った。
いやー、熱いマンガだ。はやく4巻買おう。

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