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映画『破門 ふたりのヤクビョーガミ』を観た。

 

 本物の、生きる元気が湧いてくる

 佐々木蔵之介、横山裕W主演のヤクザ映画「破門 ふたりのヤクビョーガミ」を観てきた。

 原作は黒川博行のシリーズもの、で今回はその5作目で直木賞の受賞作。原作を読んだことはなかったが、とても良かった。

 実は佐々木蔵之介のシブいヤクザ姿を観たくて映画館に行ったのだ。あの長身で端正な姿とさっぱりした性格なら、イケイケ・キレキレのヤクザ役はぴったりだろうと思ったのだが、全くその通りで、佐々木演じる二蝶会の桑原が終始かっこよかった。眼光鋭く、喧嘩は強くて、時に情を見せて、チャーミングだった。  横山裕演じる相方(バディー。になってしまった)は、堅気だがヤクザと仕事をしている うだつの上がらない32歳の二宮。この二宮のダメな感じもいい具合だった。

 今回、桑原と二宮の二人は、映画プロデューサーの詐欺に引っかかり、桑原の組・二蝶会と系列の組・滝沢組を巻き込んで、大金をめぐって、大阪からカジノの舞台マカオへ、四国の今治へと追走劇を繰り広げる。 あまり「派手な」活躍をしない二宮だけど、頭脳派で肝が座ってる桑原と、気合は入ってないけどなんとなくスッスッとその場で行動していく彼は、ちょうどいい塩梅で物語を回していく。つかず、離れずの関係もいい距離感。 


 ところで わたしは三浦しをんの代表作『まほろ駅前多田便利軒』シリーズが大好きで、映画も一作目がとても好きだ。「まほろ」も男性W主演で、こちらは二人ともパッとしないアラサー男子なのだけど、「まほろ」は結構心情ドラマも描いていて、ちょっと笑って、愛があって、ホロリと涙が出たりする。人生っていいなって思ったりする。

 二宮の事務所があるアメリカ村の風情はまほろ市(町田市)を思わせた。「まほろ」も星をはじめヤクザが何度も出てくる。そして事件に巻き込まれるのだが、「破門」は相方がそもそもヤクザの桑原。なんとなく似た印象の二つの映画なのだけど、「破門」は観終わってとてもスカッとした。それに背筋が伸びて、なんだかまっすぐな気分になったし、「また明日から頑張ろう!」という元気をもらった。

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 ヤクザの世界なんて全然知らないのだが、なんだろう、桑原がとっても「全う」だったのだ。すぐキレて暴力振るうけど、言うことに筋が通っているし、仲間思い(二宮も仲間に入っている)だし、よく物事を見ている。そしてよく仕事する(行動に無駄がなく小清水をどこまでも追いかける!)。昼近くまで寝ている二宮を「いつまでも寝てないでさっさと働け」と叱ったりもする。これすごく健全で、「いいな」と思ったのだ。そして自分の「ヤクザ」という立場をよく理解して、そして潔く一生懸命仕事しているその姿に感激してしまったのだ。二宮は自分の生活とヤクザと関わるちょっとグレーな仕事をなんとなく回していて、しゃきっとしない「フツーの」若者だったのだが、桑原と行動していくことで「ちょっとだけ」肝が座ってくる。大人の男に少しずつ なっていくのだ。

 この二人がそこまでベタベタと馴れ合わないで、ストーリーは絡み合いながらも、お互いに別々に自分のドラマを進めていくところがこの映画の見どころかもしれない。カラッとして、さっぱりとしてかっこいい。どこまでもどこまでも執拗にお金を取り戻そうと追いかける、しぶとくしぶとく自分のシノギを削る。ほっこりしたり、感動の涙なんて流さないけど、本物の生きる底力が湧いてくる気がするのだ。

 桑原が二宮に改めて物申したいときに「・・・二宮くぅ〜ん」と静かに呼ぶんだけど、これがかなり好きで佐々木蔵之介の桑原のあの冷たい笑みと一緒に何度も思い出される。


 ・破門 (画用紙、不透明水彩絵の具、色鉛筆、マーカー 2017)

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