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■2020/1/18・19 センター試験 えー、私、JK3年、西本ヒトエ言うんですけどね。 いやね、最近うちのオカンがヤバいんですよ。 どうもね、私が大学受験でセンター試験受けるもんやからか、スベる、いう言葉に敏感でね。年末年始、あれだけお笑い番組やっとったのに、全部、見たらアカン、て。芸人がスベってるの見てもうたら縁起悪いやろとか言うて。もうね、フィギュアスケートなんかもってのほか。オトンが見たい、なんて言おうもんなら、えらい剣幕で怒るんですよ。 それから、何故か
■2019/12/22 冬至 「また眠れないのか」 父の声に、エマは「うん」とだけ言葉を返した。焚火の炎は後ろから父を照らしていて、真っ黒な影が喋っているように見えた。 炎を見ると、エマは新年の前日、前夜祭のことを思い出してしまう。巨石に囲まれた神殿に建てられた、大きな鳥籠のような木の檻。野菜や果物と一緒に、中に詰め込まれた家畜の鳴き声。そして、幾人もの人間の叫び声。 檻の中には、エマの幼馴染のグウィンも入れられていた。貧しいグウィンの家は賢者たちに捧げ物を差し出
■2019/11/15 七五三 十一月は戦争である。 この時期、「フォトスタジオ・チョリス」には、七五三の記念写真撮影の予約が殺到する。どこの家も子供のかわいい姿を写真に残そうと必死だ。 新人アシスタントの私は、まだ子供の扱いに慣れない。大泣きされた日にはこっちが泣きたくなるほどだ。チョリスには「笑顔保証」というサービスがあって、笑顔の写真が撮れなければ撮影料を無料にしなければならないのである。そんなことになれば、店長にこっぴどく叱られることになる。 ベテランの
■2019/10/22 即位礼正殿の儀 女衆が乗る舟に、徳子の兄である中納言・平知盛がやってきた。源氏との決戦の最中、兄は船上の要らぬものを棄てるよう侍女に言いつけると、母・二位尼の前に首を垂れた。二位尼の膝上には、幼き帝が抱かれていた。 知盛は多くを語ることなく、ただ「珍しき東男をお目にかけましょうぞ」と大声で呼ばわった。徳子は、嗚呼、と嘆息する。即ち、敵の慰み者になる前に女共は自決せよ、との意であろう。 戦の大勢は決したのだ。 血刀を下げた知盛が舟を去ると、
■2019/09/20 ラグビーワールドカップ開幕 アタシ、ラグビーが好きなんだ。 こう言うと、大抵の人はきょとんとする。ガチムチ男子が好きでさ、と続けると、ああなるほど、という顔をされるのが不本意だが、それもまあ、間違いではない。 悲しいのは、日本ではまだまだラグビーがメジャースポーツではないということだ。ラグビー男子と出会いたいのに、経験者の絶対数が少ない。たくましい重戦車系フォワードだった人となると、さらに数が減る。 そんなアタシに、今一人、気になる人がい
■2019/08/06 夏の高校野球開幕 汗を滴らせながら、背番号1を背負った男は頷く。大きく一つ息を吐くと、投球に入る。エースが投じた渾身の一球。だが、剛速球にはもはや力がなくなっていた。キン、という澄んだ金属音とともに、打球が三遊間を抜けた。三塁ランナーが生還し、試合が終わる。エースは、マウンド上で力なく崩れ落ちた。 そして、そのまま立ち上がらなかった。 二十年前の夏の一日を、俺は今でも覚えている。当時、高校三年生の俺は一軍のキャッチャーとしてあいつの球を受けて
■2019/07/27 テーマ「土用の丑の日」 恐怖で震える体を押さえながら、僕は誰もいない廊下を走っていた。だが、銃で撃ち抜かれた脚の激痛で、思うように動けない。ひたひたと、こちらに向かってくる足音が聞こえる。消音器付きの拳銃を携えた暗殺者。研究施設で一人作業をしていた僕に、いきなり発砲してきた。初弾はそれたが、慌てて逃げたところ、後ろから太腿を撃たれた。血が止まらないし、もうだめかもしれない。 「観念したか」 「僕が何をしたって言うんだ」 「邪魔なんだよ、君は」
■2019/05/01 テーマ「新元号」 ゲンが腕時計に目を落とすと、「1158」という数字の並びが目に飛び込んできた。あと二分か、と独り言が口をついて出るが、海鳴りのような音にかき消されて空気に溶けた。音の正体は、サーバーの冷却ファンだ。 ゲンがいるのは、深夜零時前のデータセンタだ。ここには、ゲンの会社が運用を請け負っている会社のセンターサーバが置かれている。SE、つまりシステムエンジニアのゲンは、障害起きた場合の対応要員として、誰もいないデータセンタのサーバルームに
■2019/02/11 建国記念の日 レイ君というのは、小学校時代の同級生だ。彼と話すようになったのは、給食の時間に牛乳が苦手で飲めずにいた僕がいじめられていたところを助けてくれたからだ。 レイ君は変わった子だった。将来何になりたい? という質問には、必ず「王様」と答えた。なんでも、王様になって自分の王国を建国するのが夢なのだという。僕を助けてくれたのも、家来にするためだったそうだ。 王になるためにはどうすればいいか。レイ君は、馬とお妃が要る、と考えていた。王に美しい
■2019/02/03 節分 陸上自衛隊・新井場三等陸尉は、深泥池の向こうに鋭い眼差しを向けた。二月、食料が足りなくなるこの時期に「鬼」はやってくる。 御殿場・東富士演習場での総合火力演習の最中、新井場率いる戦車中隊は突如時空の歪みに呑まれ、平安時代の京都にタイムスリップした。当初、魔物と勘違いをされて護衛部隊に包囲されたが、現れた「鬼」によって護衛部隊は四散した。鬼たちの目的は、平安京を襲って人を殺し、女や金目の物を奪い取ることだった。つまり、「鬼」とは山賊のことだった
■2019/01/14 成人の日 目の前にある「成人式式場」という立て看板を蹴り飛ばすと、神室は唾を吐いた。後ろには、四人の仲間たち。全員羽織袴姿で、髪型は威圧感が出るように仕上げてきていた。 「じゃあ、行きますかねえ!」 成人式? くそくらえだ。やつら大人は、社会の犬を量産しようとしているだけだ。文句を言わずに働いて、税金を納めるだけの家畜。それを幸せだと信じ込まされて、牙を抜かれる。大人の都合で作られた儀式などブチ壊して、小さくまとまろうとする同年代のやつらに思い
■2019/01/01 元日 車のヘッドライトが消えると、思った以上の暗闇だ。ざざ、という波の音だけが聞こえてくる。少し先には、デザイン性のかけらも感じられない地味な灯台の影が見えた。海の方向に向かって歩きながら、時刻を確かめる。日の出まではまだ少し時間がある。 「よう、ニイチャン」 どきりとして顔を上げる。目を凝らして見ると、灯台の根元に人の影が見えた。 「な、なんすか」 「こっちに来て一杯やらねえか」 男は、持っていたライトの光でチューハイの缶を照らした。
■2018/12/24 クリスマスイブ ああー、という奇声を上げながら、向かいの席の黒須が机に額をぶつけて突っ伏した。無理もない。毎日終電どころか始発で帰り、その数時間後には出勤するという生活が一ヵ月続いている。残業時間は過労死ラインを楽々超え、目がうつろな社員も多い。 「おい大丈夫か」 「ダメに決まってますよ、三田さん」 そうだよなあ、と、僕も天を仰いだ。顔は脂でべたべたするし、股の間が痒い。冬とはいえ、二日も風呂に入っていないのだ。 「二十四日までの辛抱だぞ」
■2018/11/11 ポッキーの日 ――届かない。 四十二・一九五キロ。走り抜いた先には、ゴールテープなどなかった。記録は、二時間二十一分七秒。一位の選手がゴールテープを切ってから、十五分近く経っていた。オリンピックへの参加標準記録にすら到達しないタイムに、俺は言葉を失った。 俺は中学で陸上競技を始め、大学の時には箱根を走り、区間賞も獲った。三年前、鳴り物入りでマラソンに転向したのだが、そこから結果がついて来なくなった。当初はマスコミの取材も殺到したが、記録が出な