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「#紅茶のある風景コンテスト」雑感

コンテストって、不思議な場だと思う。
そこにあるのは作品だけ。肩書きも年齢も男女もこれまでやってきたものも、すべてが関係なくなる。
裸になって、むきだしになったその人の発する熱が、作品からダイレクトに伝わってくる。熱の出し方はそれぞれだけれど、やはり残っていくのは熱さがより感じられるものだ。残っていくというより、浮かび上がってくるというほうが近い。

先日、「午後の紅茶」とnoteのコラボ、#紅茶のある風景 についての投稿コンテストの結果発表があった。期間中の応募はなんと712作品。
このコンテストに審査員として参加し、大量の作品を読ませていただくことになった。公式の結果発表の記事にも簡単な評を出したが、せっかくの機会なので、印象に残ったことや作品について書き留めようと思う。

もともと作品の熱が高めな人というのはコンテストには有利だと思うのだけれど、「紅茶」がテーマであるこのコンテストでは、熱、あたたかさ、そうした要素はとくに重要だった。コンテストに有利なことが作品としていいかどうかは別として、今回については作品の温かさや熱は、プラスの作用に働いた。

審査員たちは、編集部があらかじめチョイスした40作品を読んで審査することになっていた。でも、応募期間中、私はちょこちょこ紅茶のある風景のハッシュタグを追っていたので、それ以外の作品も膨大に読んだ。そして、いいなと思ったものはやっぱり最終審査に残っていたので、みんながいいと思うものは案外変わらないことがわかった。(一作品、選外だったものから推薦した)

紅茶は、コーヒーと並んですごく「使いやすい」小道具だ。ドラマなんかを見ていても、さまざまなシーンでコーヒーや紅茶が出てくる。紅茶をふわっと無意識に使ってしまったというか、紅茶が中心にはない作品もあった。「紅茶」を「コーヒー」に置き換えてあまり違和感がなかったり。そういうのは残念ながら今回のテーマにちょっと足りなかったかなと思う。

熱と、紅茶の存在感、そして上手い下手を超えてその人のエッセンスが溶け出して、作品と一体化している作品を選ぶようにした。

さて、すごくいいなと思っていたら、みんなが「これよかったですね」あれよあれよと大賞に決まったのが、よるのねこさんの作品だ。

忙しい日々の中でほっとする時間を紅茶で過ごす。子どもの寝かしつけを終えた主婦がクッションで紅茶を飲むというだけなのに、絵柄と、作品に流れる時間や空間のバランスで、みんなを心地よくさせてくれる作品だった。作品がもう紅茶そのものだった。

テーマと、漫画という表現方法で似ていたmarshmarollさんの『#紅茶のある風景』も構図のちょっとした切りとり方などすごくセンスがいいなと思った。

紅茶と言えばイギリスで、海外留学や海外旅行と紅茶を結びつけた人はとても多かった。その中で準グランプリにこの作品が選ばれたのは、「雑ミルクティー」という素敵ワードが審査員たちの心をつかんだからだ。「雑紅茶、いいね」「私、雑ミルクティー入れてみました」と話題になっていた。
留学と紅茶がセットになるとなんだか気取っちゃうことが多いんだけれど、紅茶の日常性をよく捉えていたのがよかった。笑いの要素があるのも楽しかったし。

日常に紅茶を楽しむといえば、この作品も面白かった。

小豆アイスと和紅茶の組み合わせ、気になる。飲んでみたい!やってみたい!と思わせる作品は、やっぱり楽しい。ぎいぬさんの『氷砂糖と紅茶』のキャンディスも、つい検索してしまった。

あと、この作品はちょっと気になって推薦させてもらった。

高校生の恋愛を描いた小説で、甘い紅茶の好きな主人公が気になるのは、ブラックコーヒーの似合う同級生。コーヒーも気になるけど自分が好きなのは紅茶なの!ちょっと自意識高めの女子高生の感性も可愛い。完成度が高いというのではないけれど、素直さが心地よくて、作品を絞る中で残っていた。

コンテストに限らず、ネットが出てきて世に出る作品量がこれだけ増えると、皆いかに自分が個性ある表現をできるかということに関心を持つ。人と違うこと、差をどうつけるか。でも王道をてらいなく表現するのって、案外いいし、こういう時代だからこそ、青春ものとか、ベタなラブストーリーは目立つ。書きたくないものを書く必要はないけれど、実は似たような作品がすごく多かったから、ちょっとそんなことを思った。

有賀賞に選ばせてもらった mokosamurai/もこ侍さんは、紅茶の人ってわけではないようだ。むしろ普段はコーヒーの記事が多い。
コラムや小説の文章と、ノンフィクション系の文章はタイプが違って、沢山同じタイプの文章を読む中に、うんちく系の話が入ると楽しい。

うんちく系ではもうひとつ、ヤマシタマサトシさんの『ゴールデン・ドロップを知っているかい?最高の紅茶を淹れる五大原則』もよくて、普段noteも読ませていただいているだけに、役立つ情報をわかりやすく書かせたらヤマシタさんの右に出る人はいないな……とあらためて感心した。

ゴールデンドロップの記事は他の審査員が選ぶだろうとみんなが思ってた、みたいなところがあったが、もこ侍さんの記事は私が選ばないと誰も選ばないかもしれない(失礼)という気がして、選ばせてもらった。

うんちく系の話は硬かったり知ってる自慢が感じられると読む気がしないものだけれど、もこ侍さんの文章はやわらかくてとても読みやすかったし、紅茶にかぎらず食材のルーツの話はわくわくする。個人的なエピソードはないけれど、感情に訴えずに読ませるには力がいる。

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とにかく力作が多くて紅茶の魅力がたっぷり詰まっていて、当然ながら読んでいて紅茶が飲みたくなって、この期間は紅茶ばかり飲んでいた。

キリンの午後の紅茶のチームの方々が、毎日みんなが一生懸命仕事したり勉強したりがんばっている中で、ほっと心なごむ時間を午後の紅茶が作れるといいなと思っている、そういう作品を選びたいというような内容のことをおっしゃっていたけれど、まさにその通りの作品がちゃんと選ばれたなと思う。寒い季節にあったかくなれるような素敵なコンテストに参加させてもらえて、とても光栄だった。

審査員のひとり、テテリアの大西進さんからミルクティー用の茶葉をいただいて、今も毎日、煮出しミルクティーを楽しんでいる。


読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。