熱い夏、五輪とともに走ったポタージュ・マラソン:2016.8月 スープラボ・レポート(前半)

すっかり熱はひいてしまいましたが、この夏はリオ五輪、盛り上がりましたね。選手たちの熱戦に、私も何か参加したくなりました。そこで(なぜか) “ポタージュ・マラソン”を決行。体力の限りポタージュを作り、ゲストとともに食するという、スポーツとはぜんぜん関係ないけど体育会系な企画です。スープの歴史も勉強しつつ、ポタージュの奥深い世界に触れていこうと思います。では早速、準備体操から!

■えっ、コンソメもポタージュ?

長距離を走る前に必要なウォーミングアップとして、ポタージュのおさらいをしておきましょう。

普通みなさんが「ポタージュ」と聞いて連想するのは、コーンポタージュのように、野菜の形がない、とろみのついたスープですよね。でも実は、フランスで「ポタージュ」というと、スープの総称なのです。クリアなコンソメや、ポトフ、ブイヤベースもポタージュと呼ばれます。

もともと庶民が食べていた、素材をただ水で煮込んだだけの名もなきスープ。それと区別するように、貴族たちは料理人たちに作らせるより洗練されたスープをそれとは分けて「ポタージュ」と呼びました。ポタージュの分類はその流れを汲んだもので、以下の4つがあります。

1.ポタージュ・クレール
澄んだポタージュ。いわゆる「コンソメ」と呼ばれるものがこれにあたります。あたたかいもの、冷たいもの、ジュレなどがあります。コンソメについては、作り方うんちくもどうぞ!

2.ポタージュ・リエ
とろみのあるポタージュ。普通、私たちがポタージュと呼んでいるのは、このポタージュ・リエのことです。今回のスープラボで研究するのも、このポタージュ・リエです!細かい分類はこの後で。

上のふたつ、クレールとリエは、ポタージュの“状態”による分類です。

3.ポタージュ・スぺショー
スぺショーは、スペシャル。特殊なポタージュ、という意味ですが、最近ではあまり使われない言葉のようです(あるいは、ポタージュ・リエの中に「スープ」として組み込まれている)。田舎風のスープ・ペイザンヌ、ガルビュールなど地方のスープや、ポトフ・ポテなどの煮込みなども「スペショー」に当たるそうです。郷土色の強いスープがここにあたります。
(なお、ラボ開催時点でこの部分の調べが浅く、参加された方には2つのスープを組み合わせたものがあるようだ、という説明をしたのですが、そのことは結局調べの中ではみつからず、訂正しておきます)

4.ポタージュ・エトランジェ
フランス以外の国のポタージュ。イタリアのミネストローネ、アメリカのクラムチャウダー、スペインのガスパチョや、ロシアのボルシチ。日本の味噌汁も、ポタージュ・エトランジェに分類されます!

スぺショーと、エトランジェは、スープの状態というよりは、ルーツによる分類です。

今回作るのは私たちがポタージュで思い浮かべる、写真のようなポタージュ・リエ。ここからは、ポタージュ・リエをポタージュ、と呼ぶことにします。作ったポタージュを紹介しながら、解説と試食をしていきたいと思います。

■いよいよポタージュ・マラソンのスタート!これ、何の野菜?

若干重めのウォーミングアップが終わったところで、いよいよポタージュマラソンのはじまりです。今回、私が作ったポタージュがこちら!

赤、青、オレンジ…着色料なんて一切使っていません。すべて、野菜が生み出した色!ポタージュの大きな特長は、この色の美しさではないでしょうか。何の野菜だと思いますか?ここからは、この9つのポタージュを次々解説していきます。

●みんな大好き、ヴィシソワーズ
思いつく限り、日本で「○○ポタージュ(かぼちゃポタージュとか、コーンポタージュとか)」以外で呼び名が広く定着しているポタージュは、ヴィシソワーズぐらいですよね。じゃがいもの冷たいポタージュと解釈している方が多いと思いますが、実はポロねぎ(リーキ)のポタージュです。じゃがいもはむしろ脇役。ポロねぎは手に入りにくいので、今回は長ねぎを代用しています。

長ねぎの青い部分も使うので、白ですが、ねぎの緑がほんのり。

ポタージュの中で、野菜が本来持つでんぷん質を利用してとろみをつけたものをピュレと呼びます。このヴィシソワーズは、じゃがいものとろみを利用する、典型的なピュレのポタージュです。(今回のラボでは進行上、熱いままでご用意しました。9つのポタージュ中央)

●じゃがいものとろみを利用した、ほうれんそうのポタージュ
ポタージュの性格は、主になる野菜+とろみの素材の組み合わせで決まります。じゃがいもがポタージュのレシピの副材料としてよく加えられているのは、じゃがいものでんぷん質がとろみづけに利用されるからです。次に紹介するのは、美しいグリーンの、このポタージュ。

ほうれんそうは、もともとでんぷん質が少ない野菜。単独ではミキサーにかけてもポタージュのようなとろみが出にくいこと、また、苦味やえぐみが強すぎてしまうので、何かでのばします。ベシャメルを加えることも多いのですが、今回は、じゃがいもポタージュをベースに、ゆでたほうれんそう、そして生クリームをたっぷり使ったポタージュを作りました。

今回、少し緑を濃くしようとほうれん草を多めに入れたところ、やや苦くなってしまったんです。するとゲストから「はちみつを入れるとおいしくなる!」という素晴らしいアイデアが。やってみると確かにマイルドになります。ほうれんそうのポタージュを鮮やかに、しかも美味しく作りたいときにはぜひやってみてください。

●クレソンのポタージュは、ヴルーテでさらりと爽やかに
もう一つ、緑のポタージュをご紹介します。クレソンのポタージュです。これは、ポタージュ・ヴルーテと呼ばれるもの。小麦粉を使ったルーをブイヨンで伸ばしたヴルーテを、とろみ付けに使っています。

この後で紹介するクレームよりも軽い口当たりで、味も穏やか。クレソンの鮮烈な味わいを引き立てつつ、リッチなポタージュになります。クレソンは独特の苦み、香りが加熱で飛んでしまうので、ヴルーテを作っておいて、そこに生のクレソンを入れてミキサーにかけました。

●ポタージュの王道、とうもろこしのポタージュ
あなたの好きなポタージュは何でしょう?そんな質問をしたら人気ナンバーワンは、間違いなくコーンポタージュではないでしょうか。ここでご紹介するのは、ポタージュ・クレームです。どうです、このなめらかさ!

ベシャメルソースで素材をつないで生クリームで仕上げるリッチなポタージュ。今回は昭和35年のレシピ本『スープの本』(鈴木博・村上信夫著・婦人画報社)に載っていたレシピそのままに作ったクラシック・スタイル。煮たとうもろこしをミキサーにかけて裏ごし、別に作ったベシャメルソース(ホワイトソース)を合わせて再度裏ごし、生クリームを加えます。バター、牛乳、クリームと、乳製品を贅沢に使った、なめらかなポタージュは、至福の味です。

●新感覚!お麩を使ったにんじんポタージュはベルベット食感
ヴルーテ、クレームと、ポタージュのつなぎのお話をしてきたところで、こんなポタージュをひとつ。にんじんはつなぎなしでポタージュになる野菜ですが、今回はあえてつなぎを使いました。

写真で後ろにコロコロした丸いものが見えますね。これは、お麩。そう、煮物やお吸い物に入れる、麩の一種です。これをつなぎに使います。

ポタージュのつなぎには、紹介してきたじゃがいもや、ヴルーテ、クレーム(つまり小麦粉)のほかにも、豆、米、麦などの穀類が使われることが多いのですが、麩もつなぎになります。
お麩は他のつなぎと比べてスープの状態が比較的持つこと、味があまりせず主食材の味を消さないところがお気に入りです。

●夏向きのポタージュはピュレで!なすとトマトのミントポタージュ
スペインのガスパチョは、夏ポタージュの典型的なものですが、今日は夏野菜ふたつを掛け合わせた爽やかなポタージュ2種をご紹介。まずは、なすとトマトのミントポタージュ。

なすとトマト、少しのたまねぎをオリーブオイルで炒めて煮込み、ピュレにして、生のミントの葉を一緒にミキサーにかけたものです。なすがとろみになって、つなぎはなくてもかなり濃厚。でも味はさらりとして夏でも喉を通りやすい。ハーブはバジルや青じそでもOK。冷やすとさらに、爽やかです。

ポタージュというと、秋冬のもの…とイメージする方も多いかもしれません。確かにぽってりとしたクレームやヴルーテのポタージュは夏にはちょっと重たい。でも、夏野菜をピュレにしたポタージュは、夏ならではのもの。なすのうまみが増す今、一押しのポタージュです。

●真っ赤な情熱、グリルドパプリカとトマトのポタージュ
もう一つ、赤いポタージュを。トマトが少し入っていますが、色も味も、主役は赤のパプリカです。真っ黒になるまでグリルで焼いてから皮をむくととっても甘くなります。赤とうがらしを、ピリリと効かせて。

スープラボでは、サワークリームを添えて、混ぜながら。味が濃いポタージュなので、少し和らげる意味で入れました。色が夏を感じさせます。夏は実野菜が主なので、でんぷん質は少ないのですが、それでもピュレにしてトロッとしてくればそれでいいわけです。ねぎ類などを少しベースに使うと、とろみの助けになります。

●驚きのブルー!紫キャベツのポタージュ
最初に並んだポタージュを見て、いちばん目を引いたのは、多分このポタージュではないでしょうか。ブルーベリー?紫芋?

これは、紫キャベツのポタージュなんです。

紫キャベツとたまねぎを炒めて、ピュレにしたもの。ブイヨンで少しのばします。この時点ではまだ美味しいポタージュ、という感じではないので、ゲストのみなさんと一緒に、何をプラスしようかあれこれ談義。
「塩が足りない」「クリスピーなものが合いそう」ベーコンビッツや、黒ごまペースト。あれこれアイデアが生まれます。じゃがいもポタージュとマーブルに!などという意見も出ました。

あんまりきれいに出来なかったけど、その場ですぐにやるのがスープ・ラボ。

●秋深まった頃に作りたい、ごぼうと舞茸のポタージュ
今回は季節柄夏野菜のポタージュがメインですが、秋冬こそポタージュに向く野菜はたくさんあります。今回はごぼうと舞茸、長ねぎをチョイスしました。

材料の野菜を切って、多めのオリーブオイルで、じっくりと煮るように炒めます。コンフィほどオイルは使わないし長時間はやりませんが、それに煮た感覚です。塩もしっかり効かせ、完全に火が通ってから水を加えてミキサーにかけると、だしを使わないでも濃いうまみがある、野趣あふれるポタージュに。粗びきの黒胡椒を効かせたり、素揚げしたごぼうを入れるとアクセントになります。

●デザートも、ポタージュで。桃といちじくのポタージュ
さて、写真の9つのポタージュのほか、デザートスープもひとつ、作りました。ひんやりつめたいポタージュは、桃と、いちじく。

桃は少し渋みがあるので砂糖を加えて加熱します。皮も一緒に煮ると、ほんのりきれいなピンクに。そして、加熱すると色があせてしまういちじくは生で使います。
きれいな淡いピンク色のポタージュに。青ゆずの皮を香りづけにちょっぴりトッピングしました。

いろんなポタージュを味見中!ゲストが自分たちでテーブルの上の塩や胡椒などをあれこれ使いつつ味を変えてみるのも、いつものラボの風景です。

フランスでのポタージュ・リエに含まれるものはここに紹介した以上にもっと幅広く、野菜のほかに甲殻類を使ったビスク、また野菜の形が残った田舎風の煮込みスープなど(最初の分類でポタージュ・スぺショーにあたるもの)も含まれています。今日はその中で、ピュレ、クレーム、ヴルーテといった、どろっとしたタイプのポタージュをご紹介しました。

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さあ、ようやくマラソンの折り返し地点にやってきました。レポート後半は、コーンポタージュの食べ比べ!究極のコンポタはどこにある!

スープの撮影してたら、知らない間に撮られてた。エプロンの紐のねじれ具合半端ない。

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スープラボ♯13 ポタージュ
2016.8.22(月)17:00~20:00 湯島イワシハウス

写真協力:大谷りえ子さん、田上理香子さん

※ポタージュついての記述はこちらの書籍を参考にしています。
『ヨーロッパのスープ料理』(誠文堂新光社)
『サーヴィスの演出』(柴田書店)
『スープの本』鈴木博・村上信夫著(婦人画報社)
『ビストロ仕立てのスープと煮込み』谷昇(世界文化社)
『フランス料理の学び方』辻静雄(中公文庫)
『フランス料理の本①オードヴル・スープ』辻静雄編著(講談社)
『スープ大全』(旭屋出版MOOK)



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有賀 薫

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