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最後の味噌汁

今日から息子は社会人になる。それと同時に家を出た。引っ越し荷物は彼の愛用の自転車を積んでも、車に一台分の量しかなかった。

旅立つ朝に作るスープは、豆腐の味噌汁と決めていた。長期の合宿やキャンプに出かける朝、あるいは受験や就職の面接など、少し緊張を伴う朝は食べ慣れた味噌汁で送り出すのが、わが家の、というか私の決まりごとみたいになっていた。それに息子が気がついていたかどうかは知らない。

思えばどれほど、豆腐の味噌汁を作ってきただろう。離乳食をスタートしたばかりのときは小さな口に入るよう細かく切った豆腐を薄味の味噌汁に浮かべてやったが、やがてすぐ、家族と同じ味噌汁になった。

ときには木綿ときには絹ごし、ちゃんととった出汁、だしパックや顆粒だし。味噌は大体いつものだけれど、たまには麦味噌や白味噌を混ぜて変化をつける。わかめ、油揚げ、ねぎ、みょうが、ほうれんそう、豆腐に合わせるパートナーも季節ごとにさまざまだ。
うっかり煮過ぎてすが入ったり、煮干しが顔を出しているのもご愛嬌。春夏秋冬そんな風にして23年、息子は家で豆腐の味噌汁を食べてきた。うまいねも、まずいねもない。当たり前のものとして食べてきた。

旅立つ朝の味噌汁は、昆布かつおだし、木綿豆腐、自家製味噌の合わせ味噌という組み合わせ。湯気までがいつもの朝。息子は黙々と、味噌汁の椀に口をつける。

社会人になれば、もう親は何も手伝えない。道を拓くことは自分にしかできない。それでも、これから続く道を歩き抜くだけの基礎体力だけは大丈夫、母が毎日の食事でしっかりと作っておいた。だから何も心配せずに自分のやるべき仕事をやればいい。

と、言いたくて、でも味噌汁を食べる息子を前にうまくまとまらず、言いそびれてしまったことをこんなところで書いている。

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読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。