足し算のフレンチ、引き算の和食

今週更新のcakes「スープ・レッスン」は、鯛のアラで作る、スープ・ド・ポワソン。新鮮な魚のアラやトマトをふんだんに使った濃厚なポタージュで、南仏のビストロ料理です。アイヨリと呼ばれる、にんにく風味の卵黄ソースを添えたりします。

cakesのレシピは、手のかかるスープ・ド・ポワソンをトマトジュースでシンプルに作るという試みですが、このスープのレシピを作る過程で、フレンチと和食の違いを感じたので、noteに書き留めてみます。

フレンチの考え方は「足し算」

本来このスープ・ド・ポワソンには、多くの食材を使います。一般的なレシピをまとめると

にんにくをはじめ、たまねぎ、セロリ、フヌイユ(フェンネル)、リーキ(ポロねぎ)などの香味野菜をたっぷりのオリーブオイルで炒める
魚介を加えて煮詰めていく
トマトやトマトペーストを加える
④タイム、ローリエ、サフランなどのハーブ類を加え、さらに煮る
⑤できたスープをシノワで漉し、調味する
アイヨリルイユなどのソース、チーズを添える

鍋に食材をひとつずつ足し算していき、複雑な風味を出しています。魚もしっかり煮込み、絞るように漉します。それだけに魚のうまみだけでなく雑味も出てしまうところを、にんにくや香味野菜、ハーブ、オイルなどで緩和し、味をかぶせることでバランスをとっているのです。

こちらが、鯛と鮪のアラで作った、本格的なスープ・ド・ポワソン。

ハーブはタイム、ローリエ、サフラン。きれいに漉すので具は入りませんが、アイヨリや薄切りにしてカリッとトーストしたバゲットも添えて、ボリュームは十分です。

和食の考え方は「引き算」

さて、海の幸といえば、私たち日本人の十八番でもあります。魚介類にさまざまな工夫を加えてだしをひく文化と技術は、世界一と胸を張ってもいいのではないでしょうか。

和食のベースには鰹節やいりこ、貝や昆布など魚介の加工品でとっただしを使うことが多いですが、もちろん鮮魚で作る汁物もあります。魚介を水から煮出して塩味をつけただけの潮汁(うしおじる)は、その代表です。

鯛のアラの潮汁。下処理した鯛のアラを水と塩で煮出すだけ。

あさりの潮汁。砂を吐かせたあさりを洗い、こちらも塩で煮るだけです。どんな魚介でも、レシピは極めて簡単。

魚介の下ごしらえをする
で煮出す

レシピによって昆布などだしの補助や、あしらい、他の具を入れる場合もありますが、魚と塩だけでも十分なのです。
和食で生魚からだしをとるときは「鮮度の良い魚で下処理をしっかりする」「長時間煮出し過ぎない」「できたものはすぐ食べる」が鉄則。シンプルな素材だけに、魚の生臭みがないよう、細心の注意を払います。

アラの下処理についてはcakesの記事で詳しく説明しました。もちろん下処理をしないで煮出しても魚のだしはとれますが、スープ・ド・ポワソンでハーブやにんにくを加えるのと同様、ねぎや生姜などを加えたり、醤油や味噌、あるいは酒で味をつけて臭み消しをしたくなります。

もちろん、それも美味しいものです。

ただ、和食の目指すところは、どちらかといえば「すっきり味」「きれいな味」なのかなというように見えます。そこで下処理によって魚の雑味を洗い流し、味の引き算をしています。

和洋折衷なスープ・ド・ポワソン

うまみの濃い複雑なフレンチの足し算スープ。すっきりクリア和の引き算スープ。タイプが違うだけで、どちらもおいしいことに変わりはありません。

今回のcakesで紹介したスープ・ド・ポワソンのレシピは、和の手法で、洋風仕立てにしたものと考えていただければと思います。
なるべく素材を減らして材料費は抑えつつ、魚のうまみを最大限に味わえるレシピにしました。「下処理なんて面倒…」と思う人もいるかもしれませんが、沢山の材料を揃えてそれぞれ下ごしらえをするよりずっと楽です。

魚のスープは、手作りする価値のあるスープです。難しく考えず、魚屋でさばいてあるものを買ってくれば、初心者でも美味しく作れます。cakesの記事を読んで、ぜひトライしてくださいね。

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そうそう、cakesではマヨネーズを使った簡単アイヨリソースを紹介しましたが、本格的に卵から作ると気分が上がります。こんな風にしてみてください。

卵黄1個ににんにくのすりおろし1片分と塩ふたつまみ、カイエンヌペッパー少々を混ぜ、オリーブオイル50mLをよく混ぜながら、少しずつ加える。

とても簡単ですよね。魚のスープをとっている間にささっと作れますので、ぜひお試しください。


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スープ食べてく?
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有賀 薫

スープ・レッスン

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コメント7件

ぶんちゃん、ご指摘ありがとうございます!修正しました。読んでしまった人のためにコメントは消さずにそのままで^_^
スープ・ド・ポワソンはブルターニュ地方のものでは?というコメントを@na2me3さんからいただきましたので、コメント欄でちょっと補足します。

フランスの北部海岸沿いのブルターニュ地方は、魚はもちろん、オマール、ホタテ、ムール貝など甲殻類や貝の産地として有名です。ビスクという甲殻類から作るポタージュもありますね。誠文堂新光社『ヨーロッパのスープ料理』には、ムール貝をスープ・ド・ポワソンに入れたスープがブルターニュのスープとして紹介されていました。
一方、今回参考にしたのは同じ誠文堂新光社刊『フランス郷土料理の発想と組み立て』ですが、こちらでは南仏料理の章でスープ・ド・ポワソンが紹介されていました。

スープ・ド・ポワソン自体はおそらくどちらにもあるはずですが、どちらのものがレシピとして確立されたかまでは追い切れずです。ネットでは南仏料理として紹介しているものが多いのですが、これは基本的に日本では南仏(とくにプロヴァンス)料理自体が有名だからで、ブルターニュはそれに比べてメジャーではないからではないかなと思っています。
おおおー、調べていただいてありがとうございます。ブルターニュで食べたやつはかなり濃厚で、蓋つき容器であつあつで出てきました。漉しきれてない魚の何かのザラッとした舌触りがしたりして、漁師料理!みたいなイメージ。冬に行って凍えてましたから余計美味しかったです。ブルターニュの記憶、ホットワインとスープ・ド・ポワソンが8割ぐらいですw日本に帰ってから「これだ!」っていうスープ・ド・ポワソンになかなか出会えてないのは、北と南の微妙なレシピの違いなのかも。今度は頼むとき、どこの地方の料理なのかも意識してみようと思います。
プロヴァンスはオリーブオイルだけど、ブルターニュはバターって気がするなあ。濃厚さは甲殻類だと思います。いやあ、フランス行きたくなりました。あちこちでスープ食べてみたいです。
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