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きつねと傘ときのこと-Standard Japanese Name-

山を歩いていると、ふと目を下に向けるとキノコが生えていることがあります。図鑑を広げてみると似たような見た目のキノコが並ぶけれども、名前を見ると「◯◯タケ」という名前ばかりだけれども特に法則性もなく、中には「サルノコシカケ(猿の腰かけ)」なんてものもあります。調べようとしても調べ方が分からなくて諦めるなんてこともしばしば。

今日は、キノコと変わった標準和名についてのお話していこうと思います。


標準和名について

生物の種を調べると、名前の後ろにローマ字でなにか書いてあるかと思います。これがいわゆる学名というもので、ラテン語で命名されます。
命名のルールは国際藻類・菌類・植物命名規約(International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants; ICN)に則って決められます。

では、マツタケやシイタケのように一般的に日本語で呼ばれている名前は何かというと、これを標準和名と言います。これは学名に対して1対1で紐付けられる名称で、日本国内では学名に準じて扱われます。

この標準和名、実は命名規約はなく、法則性も定義も存在しません。
魚類や哺乳類に関しては現在では定義のガイドラインが各学会より出されていますが、菌類に関しては特に命名にルールは無いようです。分子系統分類が発展することで学名の統廃合が進み、今まで違うものとされていたものが同じとなったり名前はぜんぜん違うのに科は同じというような例もあります。

菌類に関して、一つ名前に法則性があるとしたら「タケ」という言葉がつくものが多いことが挙げられます。ではこの「タケ」とは何なのかと調べてみると、以下のような情報が出てきました。

古くは「きのこ」のことを「タケ」と言っていました。平安時代に作られた『和名類聚抄』という辞書では、「きのこ」をあらわす漢字「菌茸」に「多介(タケ)」という和名がついています(※2)。室町時代になると、「キノコ(木の子)」という語が生まれ、単独の「タケ」は使われなくなりますが、シイタケ、マツタケなどの個別の名前の中に「タケ」が生き残ったのです。

方言を味わう 第4回 | みつむら web magazine | 光村図書出版 (mitsumura-tosho.co.jp)

また、キノコを表す漢字に『茸』という字がありますが、語源を調べてみると以下のような情報が見つかりました。

”茸”を漢字語源辞典(藤堂明保著)に見てみますと、『茸は、きのこの 類の総称に用いられ、その柔らかくて、粘りけのある点に着目した命名である。 茸は「艸+耳」の会意文字で、「耳」は柔らかいものをあらわす意符として加 わったものである。柔らかく茂ったクサを意味し、辱(ジョク)の対転に当る。 ふつうは柔らかいきのこの意にもちいる』とあります。

なばの語源 (shiitake.co.jp)

つまり、「きのこ」という名称が生まれる前に、「たけ」という名称が存在して全国に普及し、地面から草のように生えているものを「◯◯タケ」と呼んでいるようです。

筆者の住む地方では、キノコのことを「こけ」と「みみ」と呼びますが、中南部では生えているジメジメした環境に生えることから「こけ」と呼ぶそうですが、北部では「みみ」と呼ぶのは先の引用の内容による由来かも知れません。
これらに関しては出典が曖昧なので、今後文献調査を行い誤認は随時更新する予定です。

狐と傘

キノコの和名の中には、◯◯タケではなく可愛らしい名前がついているものが存在します。大抵色や臭いに関する情報がありますが、その中でも度々登場するのが「キツネ(狐)」と「カサ(傘)」です。

傘はなんとなく形状から想像できます。キノコの地上部に出てきたときに形成するものを学術的には「子実体」と呼びますが、普通は傘と呼ばれています。

謎なのは狐です。おそらく色(淡い黄色)から名付けられているのかと思われますが、必ずしもそうではないようで、由来については調べることができませんでした。

では、そんな可愛らしい名前のキノコについて紹介していきます。

ベニヒガサ(Hygrocybe cantharellus)

Fig.2 Hygrocybe cantharellus

紅色の日傘なのでこの名前がついたのだと思われます。かなり小さいキノコですが、スギ林に生えてることが多く、木漏れ日の下で小さな日傘として立ってます。
Hygrocybe属は他にも鮮やかな色をしているものが多いのですが、海外では生息地が減少傾向にあり保護が懸念されているようです。

キツネノカラカサ(Lepiota cristata)

Fig.3 Lepiota cristata (https://picturemushroom.com/)

狐の唐傘です。狐さんが唐傘を持っている姿を想像すると可愛らしいですね。芝生などの草地に生えてきます。
可愛らしい名前と外見ですが猛毒のものが多く、テングタケ属(Amanita)と同様にペプチド毒のアマトキシンと含みます。

キツネノハナガサ (Leucocoprinus fragilissimus)

Fig.4 Leucocoprinus fragilissimus

狐さんが今度は花笠を持ちました。このキノコも草地に生えますが、薄くて弱いので非常に儚くも美しい姿をしています。傘が開いているのも数時間程度で、すぐに萎れてしまいます。

キツネノエフデ(Mutinus bambusinus)

Fig.5 Mutinus bambusinus (https://www.hokto-kinoko.co.jp/)

狐さんも筆を持つようです。中国では「竹林蛇頭菌」と呼ばれているそうですが、狐の絵筆のほうが可愛らしいです。
しかし、スッポンタケ科なので先端に非常に臭いグレバがあるので、あまり近づかないほうが良さそうです。

キツネノロウソク(Mutinus caninus)

Fig.6 Mutinus caninus (https://www.1101.com/)

狐さんも蝋燭を使うようです。絵筆と比較すると、蝋燭のほうが色的にもそれっぽく見えます。同じMutinus属なので、臭い匂いがします。
根本に白い袋がありますが、これを「ツボ」と言いスッポンタケ科は皆ツボの中から出てきます。出てくる前の幼菌状態を食べるらしく、油で揚げると魚のような味になるそうです。

タヌキノチャブクロ(Lycoperdon pyriforme)

Fig.7 Lycoperdon pyriforme (https://picturemushroom.com/)

狐さんがいれば狸さんもいるようで、狸さんが茶袋を担いでいる姿を考えると可愛らしいですね。なお、同じホコリタケ(Lycoperdon)属のホコリタケは別名キツネノチャブクロと言います。狐さんと狸さんが仲良く茶袋を担いでるのは楽しいですね。
ホコリタケなので中身は粉のような胞子が詰まっていますので、むやみに開けると胞子が物凄い飛び出します。

番外編:タヌキノショクダイ(Thismia abei )

Fig.8 Thismia abei  (https://www.um.u-tokyo.ac.jp/UMUTopenlab/)

キノコではなく、植物です。見た目はキノコのようですが、光合成を行わないギンリョウソウと同じ菌従属栄養植物です。菌従属栄養植物(腐生植物)についてはまた別の記事で取り上げようと思います。
大変希少な植物ですが、狐さんが蝋燭を持つなら狸さんは燭台を持つようです。


いかがだったでしょうか。
キノコには不思議な外見も多く、それに伴い不思議な名前がつけられていることもあります。ぜひキノコの図鑑を開いた際は、変わった名前がないか、変わった見た目だけどなんて名前かなんてことで興味を持っていただけると幸いです。

ご清聴ありがとうございました。

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