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書籍データの二次利用 その1 〜序文〜

このnoteについて

初めはなんてことなかったWebがいつの間にか世の中の主流になり何年たったでしょうか。
以降、紙の書籍の立ち位置はメディアから消耗品に変わりつつあるように感じます。
紙の書籍制作の一部を担当してる僕としては、この状況を少し寂しいなと思いつつも、少なからずWebの恩恵には預かっていて、時代には逆らえないのかなとも考えます。

制作側から見て書籍は1冊で完成されたコンテンツだと思っています。
そして、書籍は必ずしも紙である必要はありません。
書籍は読者のニーズに合わせて、紙と電子の2つが主流になりつつあるように思います。


電子書籍の登場と時期を同じくして、書籍をアプリケーションに転用したいというご依頼やご要望をよく聞くようになりました。
書籍は紙に印刷される前まではデータで作成されます。また、アプリケーションもデータで作成されています。
発注側は同じデータだから相性が良いはずだと思ったことでしょう。
僕は前職で、書籍の作成側として、アプリケーション開発の一部に携わることとなりました。
印刷用データを作成することを仕事としていた僕は、開発開始当初、大変苦労したことを覚えています。

一言にデータといっても書籍用のデータとアプリケーション用データは全く異なる作りをしていたからです。
ただ、手探りで作業を続けていく中で、徐々にですが突破口を見つけることができるようになってきました。
書籍データもデータです。そのまま転用することは難しいのですが、あれこれ工夫することにより、印刷物以外への転用することが可能でした。

このnoteでは組版を行う人間の僕が「書籍データは印刷以外にも活用することが可能ですよ。」という提案をご紹介したいと思います。
書籍データを有効活用することにより、書籍に新しい広がりが生まれ、出版業界に新たな需要が生まれてくれたらいいなぁと思っております。

僕が経験したアプリケーション開発の実情

僕は前職では主に学習参考書(以下、学参と表記)の組版を行う会社に勤めていました。学習参考書とは教科書や問題集なんかのことです。
主なクライアントは学参関係の専門の出版社で、ユーザーは学習塾や学校の教師の皆様です。

僕はここの業界で学参書籍を活用したアプリ開発に関わる経験をしました。
学参業界をご存知の方ならお解りになっていただけると思いますが、通年版(1年を通して使われる教材)の学参書籍は4月にはユーザーの元にお届する必要があります。

書籍の校了は基本的には4月に合わせるようなスケジュールで作成されています。そして、アプリのリリースももちろん4月となります。

基本的には書籍の作成でいっぱいいっぱいです。もちろんアプリ作成にかけられる時間はほとんどありません。

多くの場合、アプリ開発は開発会社に丸投げで請け負ってもらっていると思います。
ただ、この業界では開発会社にアプリ開発を丸投げししていたら、とてもじゃないけど間に合いません。
よって、制作期間を短縮するためには、書籍データを活用する必要がありました。

InDesignデータの活用

書籍データの二次利用を行うにはAdobe社のInDesignが効果的です。
一般的にInDesignは印刷用のデータ作成を行うアプリケーションとして知られています。
InDesignで作成したデータは書籍が完成したら用無しとなり、保管はされるが他に活用されることは基本的には無いと思います。
実にもったいないです。
そこで、このデータを二次利用をしませんか?というのが提案です。

このInDesign、あまり知られてはいませんが、電子コンテンツ向けのいくつかの機能が搭載されています。
ただ、印刷には全く関係の無い機能なので組版の人間には見向きもされていないように思います。
また、InDesignはJavaScriptを用いいることでアプリをコントロールすることが可能となっています。
これらの機能を活用することによりInDesignで電子アプリ風のコンテンツを作成することが可能です。

ただ、InDesignで作成した電子アプリ風のコンテンツを独自アプリケーションとして配布するのはちょっと無理があります。
なぜなら、InDesignでできる電子コンテンツ向けの設定には限りがあるからです。
つまり、中途半端なんですねー。
だからあんまり浸透しないのかな〜、
と思ったりもしますが、そこは使いようです。

InDesignで出来る箇所はInDesignで作成し、できない箇所は独自開発する。作業を分担することが可能です。

この手のアプリ開発では、全てを開発会社にお任せにしたために開発費が莫大になり、確保していた予算と合わずに頓挫する、みたいなケースがあるのではないでしょうか。
書籍データを最大限に活用し、他に必要な箇所を開発で補うような形を取ることにより、開発に必要な費用や時間を抑えることが可能であると思います。

どんなことができるか

ここで簡単にサンプルを紹介したいと思います。

紹介する物はInDesignの機能を活用し書籍データにボタンを付けたものとなります。ボタン機能は全てInDesignで作成しています。
元データはこちらです。

インタラクティブPDF

サンプルはこちらです。(AcrobatかReaderご確認いただけます。)
上記のようなデータを電子黒板アプリに利用しています。
インタラクティブPDFの制作はDTPオペレーターが行います。
開発会社には専用ビューワー、認証機能、アカウントやコンテンツの管理機能の開発を頼んでいました。
アプリの使用目的は書籍内容を電子黒板に投影することにより教師の板書の手間を軽減する、また、紙では表現できない音声や動画や補助的な教材などを画面を使って生徒に参照させる、など、授業の補助を行うアプリです。
インタラクティブPDFを使用する理由は、PDFに認証をかけるシステムを取り入れているためです。
専用ビューワーでのみ、その認証を解除し、コンテンツを閲覧できるようになっています。(上記は前職で現在も運用されています。詳しい内容にご興味がある場合は前職をご紹介いたします。)


ePub(固定)


サンプルはこちらです。(ビューワーは「bib/i」を使用しています。)

上記では解答が表示される際、少しふわっと表示されるように設定しています。
ePubだとアニメーションの設定を行うことができるため、上記のような表現をすることが可能となります。

ボタン設定は「ボタンとフォーム」という機能を使用します。

場所:ウィンドウ→インタラクティブ→ボタンとフォーム
まず、オブジェクトをボタン化します。
アクションから「ボタンとフォームを表示/隠す」を追加し、ボタンが押された時にどのボタンの表示と非表示を行うかを設定できます。
この機能をちょちょっと設定するとトグルのボタンが出来上がります。

設定自体は単純です。
ただ、1つ1つ設定を行う必要があるため手動で設定を行うのはとても大変です。
また、確認作業もとても大変となります。
書籍の二次利用が可能でも制作に時間がかかってしまっては導入には至らないと思います。
そこで、スクリプトを使用します。
ボタンを作成するためのスクリプトを作成し、ボタンの設定を行います。
ボタンやスクリプトの詳しい内容は次回のnoteに書きます。
また、上記以外の二次利用のご提案も以降のnoteで書きたいと思っています。
よろしければご参照いただければと思います。

まとめ

いつの頃からかワンソースマルチユースという言葉が世の中に現れました。
世の中的には実現できそうな理想で、目指すべき目標だったのではないでしょうか。
実現できれば業務の効率化や新たな事業の展開など、様々な形で利益が得られたことでしょう。
組版データは印刷が終了すると特に使い道はありません。このデータを何かに活用できるのであれば活用したい、と誰もが思われるでしょう。
ワンソースマルチユースという言葉は日本人の「もったいない精神」とマッチしてしているような気がします。

当時、会社からの要請で組版データの二次利用ができないかを調査しましたが、技術的な制限もあり、大変難しい課題でした。
調査を続けていく中で、技術の発展もあり、アイデア次第で組版データの二次利用は可能だということがわかり、実現することが出来ました。
学参系アプリの開発は、大手の印刷会社や出版社のみが莫大な開発費用を投入して行っていたことでしょう。(憶測ですが。)
組版データを上手く活用していただくことで、新しいサービスや商品の提供が可能になるのではないかと思っております。
そして、書籍の新しい時代に組版の側からもご協力させていただきたいなと思います。

最後に軽く本音を申すと、このまま組版のページ単価が下がり続けたら業界がヤバイっぽいので、なんか他のことをするしかなくね?といった思いがあります(笑)。
今まで頑張ってきて、これからも頑張らなければいけないDTPオペレーターの皆んなのためになればいいなと思います。

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