6.ちぃからの贈り物
ちぃはその秋のある日、真夜中に家族とのお別れをしました。
あまりに静かな最期だったため、そばでぐっすり眠っていたれんは、ちぃの旅立ちに気付かず、そのまま朝を迎えました。
居間の日当たりのよい場所で静かに眠っているちぃが、朝なのにちっとも起きようとしないことに気付いたれんは、
「ちぃちゃん、ちぃちゃん起きて、起きて!」
と、ちぃに向かって吠えました。
私はれんに、ちぃはもう起きないんだよ、と言い聞かせ、れんは吠えるのをやめて静かにちぃを見つめていました。
ちぃがガンの宣告を受けたころから、れんの耳は快方に向かい、
「耳の奥の赤みもありませんね。ちぃちゃんが大変なときですから、このままれんちゃんの耳が維持できるといいですね。」
と、かかりつけの先生は言いました。
ちぃが亡くなってからも、れんの耳は落ち着いていました。
「れんの耳の悪いところを、ちぃが全部持って行ってくれたのかな?」
こんな風に考えたくなるほどでした。
その頃ちょうど、かかりつけの病院に鍼治療のできる先生がときどき来るようになり、れんの耳も診てもらいました。
その先生に、ちぃの闘病が始まってかられんの耳が落ち着いてきたことを話すと、
「興奮しやすい性格の子の場合、気持ちを落ち着かせることで体や耳の炎症がおさまることもあります。」
と言って、鍼治療とお灸を何度かしたあと、副作用も少なく、効き目のありそうな漢方薬を勧めてくれました。
今は、その先生も他の仕事が忙しくなり、かかりつけの病院には来なくなってしまいましたが、漢方薬(抑肝散加陳皮半夏)だけは今も処方してもらい、れんの耳の様子を見ながらほんの少しだけ飲ませ続けています。
今日も窓のそばで日向ぼっこをしているれんに、ちぃが空の上から
「耳が治って良かったね。れん。」
と、やさしく話しかけているような気がします。
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