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マイ・インターン感想

なんで私は今までこの映画を見なかったんだと絶望するくらい良い映画でした…

あらすじ

70歳の男性がやりがいと居場所を求めてファッション通販サイト運営の会社で働くことに!しかし上司はとってもキツい女社長で…

というあらすじから凡人が想像する展開を全て裏切る

このあらすじとサムネを見た時、ああ老人と若い女が対立して老害ムーブや老化によるトラブルを見せられる映画なんだ…と思って避けていました。そんな己を恥じます。

「登場人物、全員善良」というファンタジー映画

逆アウトレイジ。
ここ10年くらいの言語化すらあまりされていない物語の傾向として「登場人物にあからさまな悪人がいない」ということが挙げられると思います。
そしてこの映画はその走りなのか…?もしかして。
みんな気づいてしまったんですね、「そこまで無意味に他人に対して悪意をばら撒く奴っていねぇよな」って。たとえば「あんたってムカつくのよ!イケメン君に好かれてて何様?!」みたいな勝手すぎる理由でヒロインをいびるヒール女は漫画に出てこなくなったし、「あいつは調子に乗ってる!」なんていう曖昧な理由で主人公をボコボコにする不良なんかも絶滅危惧種と化してますね。
逆に露骨に意地悪な人間や悪意を持って行動する人間はその理由が描かれる。そこがわからないとリアリティがなくてキャラクターとして見てもらえない。

そしてこの映画の登場人物、みんな善良!
主人公の壮年男性は決して老害ムーブしないし、40年のキャリアを活かすことはあっても振りかざすことはしない。
若い女性社長は年寄りが嫌いだと言いながらも率直に「私はキツいしあなたに頼める仕事はないから移動する?」と本人に尋ねる。ハイもうここでこの女性社長を好きになってしまいますね。
私はここで老人インターンが役に立とうと勝手なことをして「私は40年のキャリアがあるんだ!」とか言って会社に大損害を与えてしまう、みたいな展開を想像して予期共感性羞恥により途中で見るのをやめようかと思ったほどでしたが全然そんなことはなかった!本当にすみません。
人は自分が想像した安定の失敗行動を軽やかに超えていく姿を見た時にそのキャラクターを好きになるのかもしれないと思いました。

一方の老人ベンは、会社ではなれないながらも明るくふる舞っている。でも一方で、自宅の鏡の前で笑顔や挨拶の練習をし、めざましがなる前に出勤準備を完成させている。なんていじらしいのだろう。
要はギャップなのでしょう。
キツくて人当たりが悪く簡単に人をいじめそうな女性が率直に不器用でも他人を気遣う姿を見せる。
人当たりよくその場に合わせて完璧に振るまっているように見える壮年男性も家ではすこし緊張して挨拶の練習なんていういじましい努力をしている。
それが見えた時、一気に人はその人物を好きになってしまう。
それからカメラの角度なのか役者さんが意図しているのかわかりませんがベンが常になんとなく右に首を傾けているのがどことなく優しい印象で頭にのこりました。

これ最悪のことになるのでは…?というブラフがうますぎる

主人公が女社長にいびられたらどうしよう?に始まり、とにかく絶妙にハラハラさせられる展開作りがなんとも巧み!
社長の子供の送迎をするとなれば老人の運転で事故りはしないかとか、年齢差のある男性とのコミュニケーションでは老害扱いされないか?とか、若い女の子社員の助手になった時には説教をしてしまわないか?、とか。私が勝手に嫌な想像をたくましくしているだけなのか、脚本で意図されているのかわかりませんが…
浮気夫が会社のCEOについてベンに尋ねてきたときは、もしかしてこの夫がCEOを裏で斡旋して妻の会社を乗っ取ろうとしている、みたいなクライマックスが来たらどうしよう…?!なんて予想をしてしまったんですが本当に全くそんなことにはならず、ベンと社長が素晴らしい友情を築いて終わりました。
こんなこと起こったらどうしよう?!という不安をやさしく包んで優しい理想をそっと見せてくれるファンタジー映画だと思いました。
そういう優しい理想こそがみんな見たかったものなんですよね。
人間が全員善良なんてあるわけないので私はこの映画をファンタジー映画に分類します。

テーマは「世代間を超えたコミュニケーション」?

年齢がどんなに違っても、互いを思いやり尊重する心があれば良い関係は築くことができる、そんなテーマを感じました。
女社長ジュールズとベンが恋仲にならないことに心底安堵しました。
ジュールズがベンと夜の会社でピザを食べ、「こんな風に男性と仕事でも恋愛でもない大人の会話をしたのひさしぶり(意訳)」というシーンがとても印象的でした、だって共感したから。
確かに年齢を重ねるほどに、異性との会話は仕事か恋愛かでしか発生しなくなっていく。純粋な雑談を異性とするのってなかなか難しい。そしてそれができる異性の友人がいるというのはとても幸福で、たしかに万人が憧れることです。ヒーローやプリンセスや大金持ちになるような派手なことではないけれど、この映画は普段人間が言語化しないような形のない理想を提示するのが本当に巧い。

対立する女社長と壮年インターン男性

クライマックス直前、ベンはジュールズの「CEOを雇う」という決断に意を唱えます。
ベンが初めてジュールズに反対意見を述べる。構図だけ見たら二人の意見は対立しているのですが、ベンの反対はジュールズの本心を尊重してのこと。
なんて優しい対立なんでしょう。
ジュールズは本心ではベンにそう言って欲しいと思っていたし、ベンもそれをわかっていた。
相手を思い遣ったからこその対立というのはなんぼあってもいいですからね。なんぼもあったらだめか対立だし。対立を描くならこういう対立を描きたいですね。

落ち込んだ時にまた見ようを思います。
でも本当に底まで落ち込んだときは見られないだろうな。こんなに善良ではいられないことに対して落ち込みそうだから。そのレベルまで落ち込んだらミッドサマーを見ます。

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