丁寧な職場ドラマ『わた定』輝く青春と秘めた苦悩の対比が心に響く『腐女子うっかり』感動に次ぐ感動を連続花火のように咲かせた『いだてん』

春クールの連続ドラマが軒並み最終回を迎えました。10作品ほど1話は通しで見ましたが今回はいまいち関心を寄せられるものが少なく、通しは3作品のみ。でも良いドラマが残ったと感じてます。

▼TBS火曜22:00『わたし、定時で帰ります。』(主演:吉高由里子 脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子)

丁寧に緻密に作られた、今の今ならではのお仕事ドラマ。お仕事キャラクタードラマではなく、働き方の見直しが問われる現在の職場における対立や葛藤や迷いを上手に描いた作品だったと思います。

特に好きだったのは第一話。シシドカフカ演じる三谷が風邪を引いても休まない、典型的な仕事張り付き無理しすぎ人間。休みたい時は休もうよ、帰ろうよと諭す結衣と真っ向から対立するわけですが、少しずつお互いの事情を知って「理解はできないんだけど」寄り添おうとするさまが良かった。違う人間同士が働く職場、完璧に互いを理解するなんて到底無理で、でもとにかく自分を大切にしよう、人それぞれだけど健康に働こうよ、みたいな超初歩的な第一歩をひたすら結衣が問いかけていくスタイルがテレビドラマとしては独特で面白かった。

何かに秀でた完璧超人的なところとは真逆の、手際が良くてそこそこ器用で人当たりもいい、「普通」な結衣が主人公に置かれているのも面白い。普通でありながらも冷静かつ温かく職場の皆を見守るさまは、『恋ノチカラ』の深津絵里演じる本宮藤子を彷彿とさせるものもあったかな、と思います。

ただちょっと「んなー。」と思ってしまったのは恋愛描写。「お仕事を軸にドラマがだれてきたら恋愛で引っ張る」が王道なのは分かるけど、あまりにもテンプレ的な使い方で興醒めしてしまった。そしてこのドラマの男女は、不思議なことに全員が全員、理屈で恋してる。向井理と別れたのはこういう理由。中丸雄一を選んだのはこういう理由。別れたのは浮気したから。自分に嘘をついていたから。最後には働き方への思いが変わったから向井理でオーケー。物凄いパズル的、直線な恋愛模様を描く人たちしかいないドライさが逆に物凄くリアリティを削っていると感じてしまった。

最後の中丸雄一の浮気だって、「何かようわからんけど結婚やめとこ」みたいな、もっと微妙な結末でも良かった気がする。何で好きなのか、何で付き合うのか、何で別れるのか、本当のところはよく分からないんだけどどうしようもない……みたいなのが恋愛じゃないのかな。もちろん全員がそうじゃなくていいんですが、逆に全員がパズル恋愛っていうのは非常に不思議でした。とはいえリアル恋愛ドロドロが見たかったわけでは全然なくて、恋愛さえも「働き方!」に集約させて解決しちゃうのもこのドラマらしかったのか、というプラスの捉え方もできますね。軸がはっきりしている!

▼NHK土曜23:30『腐女子、うっかりゲイに告る。』(主演:金子大地、藤野涼子)

心をぐさぐさと刺してくる、誠実で美しくて残酷で優しい青春ドラマ!タイトルの奇抜さに変な話を想像してたのが、こんなにも真面目で質の高すぎるドラマだったとは。

金子大地演じる、ゲイの安藤純を中心に描かれる彼の高校生活。第一話ファーストシーンが谷原章介とのベッドシーンだったのは何かもう、ちょっとした衝撃で色々と覚悟させられました。ふんわりしたゲイの幸福な話をしたいわけではない、ほら、今ちょっとびっくりしたでしょ?そういう裏を持ってる僕のお話なんだよ、ちゃんと聞けるの、と最初から問いかけられているような気分になる。

反転して日々の高校生活のシーンは「青春」の二文字そのものと言っていいようなキラキラした瞬間でいっぱい。じゃれつく男同士、男女一緒に遊園地行っちゃったりして、そこにはもちろん可愛らしい作戦があって、浴衣で温泉デート、水が跳ねて光る二人の笑顔……眩しくて見てられないわっ、とばかりにきらびやかな描写が連なる。この輝きと対をなすように、純のゲイとして生きていく苦しみが一歩一歩深まっていく。二人の人間を対比で描くことはあるけれど、このドラマは一人の人間の表裏を徹底して対比構造で描く。結果、彼がいかに内面での矛盾を抱えているか、徹底的に引き裂かれた心の叫びがぎりぎりとこちらの胸に迫る構造になっていて、これは本当に見事としか言いようがない。

また、ストーリーの中で、彼だけに起こりうる特別な出来事っていうのは全校集会のシーン以外はほとんどない。本当に普通の高校生活の、ちょっとキラキラめの高校生活の中で交わされる何気ない会話が、彼を少しずつ少しずつ刺して刺して引き裂いていくのが感じられるのが凄い。あと、QUEEN楽曲のマッチングが奇跡的に完璧でいいですよね。良質なテレビドラマファンの方には必ず見てほしい作品です。

▼NHK日曜20:00『いだてん』(主演:中村勘九郎)

何かもう、私は前半ラスト4話のことを考えるだけで泣けてくるんですけど、皆さんはいかがでしょうか。

泣けるドラマって色々あります。苦しさが胸に来る、ハッピーエンドで嬉し泣き、大好きな人が亡くなって悲しい。『いだてん』にはその全部があるけれど、涙の最高峰なんじゃないっていう『感動した!!!!とにかく感動した!!!!!』が詰まってる。先週はひどく悲しくて悲しくて泣いてた涙が、今週は「うわあでもこの悲しみの先にこんな世界と未来」って言葉にする最高に陳腐だけど本物の感情になって爆発する。って何のこと書いてるか見てる人にはすぐ分かると思うんですが。

ちょっと凄すぎて本当に言葉が上手く選べないんですが、前半最終回を見て、ああ私もこの半年間走ったなあ、って気持ちになりました。あれ何ですかね?全然走ってないでテレビの前でぼろぼろ泣いてただけなんですが。でも間違いなく金栗四三と一緒に走っていたわけです。全力疾走ではなくて、少しずつ少しずつ、息を整えながら、そして最後の歓声が聞こえてくる。あの歓声、やっぱり女子スポーツ萌芽の瞬間だったと思うんですよ。黒島結菜が靴下を脱いで、旗を上げて声をあげた瞬間。ここもまた泣けるんです、ああとうとう女子の力がぶわあああっと湧き上がったんだ、と思った瞬間にぶわあああっと泣きます。そしてここからがラストスパート、でした。

関東大震災を真っ直ぐに捉えて、悲しみとか他者への攻撃とか、酒を飲んじゃう奴とか、逃げちゃったのかなあ、とか、色んなものをぐるっと巻き込んで復興運動会へ。シマの話はしはじめると泣いちゃうからしないでおきたいんですが、「いつかは諦めなきゃいけないんでしょうか。……もう、半分、諦めかけてるし」は凄い台詞だった。凄い本当に凄い。そして人見絹枝の走りに繋がっていく。凄いですよね。凄いなー。大竹しのぶが「いだてんは韋駄天!」とテーマど真ん中をがぶつけてきて、こっちはぐっときてんのに、いいえあれは「ただの馬鹿です」と打ち返す義娘、スヤ。どっちもぐっときてる私って一体なんなんだあーれーと思ううちにまだ走るよいだてん。

もう語彙力が無くなってきたのでやめにしますが、あの復興運動会は、信じて金栗四三と一緒に半年間走ってきた我々へのご褒美みたいな回だったと思います。回は戻りますが駅伝回のラスト、今までオリンピック反対と言っていた岸が涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら「こんなにいいものなんだ。こんなに感動するんだ。出ようよオリンピック!」と叫ぶ瞬間があったけど、最終回を見ている私ってまさにそれだ。まさかこんなにいいものだと思わなかった『いだてん』に感動で顔をぐしゃぐしゃにしている私達と岸清一はぴったり同じだ。こんなに感動するんだもの、こんなにいいものなんだもの、って思えるのはドラマ『いだてん』そのものでもあり、スポーツでもあり、人の生きる力であり、芸能の力であり。単なるテレビドラマにとどまらない沢山の分野に感動を撒き散らしてるのが『いだてん』なんですよ、分かりますがこの凄さが!!!!

そしてやるべきことは後半戦の「喋りのいだてん」についていくこと。まーちゃん本当にうっせー!けど本当のラストに何を用意してくれるんだ『いだてん』。今からワクワクが止まらないな……

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