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心が壊れるか壊れないか、が何よりもスリリングと感じさせる心情描写の精緻さ(「anone」第7話レビュー)

次々と繰り出される新展開と、重たい過去を視聴者に振りかけた第6話と打って変わって、淡々とした静かな緊張感が全体に張り詰めた第7話。

第5話で描かれた疑似家族のあたたかさに暗い影が忍び寄るティザーが第6話だったとすれば、第7話はその影に侵されながら何が守られて何が捨てられるのか、じっと息を殺して彼らを見守るような気持ちで過ごした。(このドラマに関して、各話の初見ではいつも「観る」ではなく「過ごす」と表現した方がしっくりくる)

大袈裟に描かれない自身の寿命と「何も残せなかった」過去の人生に、中世古(瑛太)と偽札という刺激物が与えられたことで心を大きく揺り動かされる持本を軸に、4人それぞれの心の動きが恐ろしく繊細に描かれたのが第7話だ。度々出てくる持本(阿部サダヲ)とるい子(小林聡美)との偽の痴話喧嘩は、これまでと違い、今回は時に真剣味を増している。この二人の心が壊れて離れてしまうのか、そうではないのか、シーンごとに多大なるスリルを感じながら見てしまった。

亜乃音(田中裕子)とハリカ(広瀬すず)の関係性も同じ。偽札作りに参加するハリカを止めようとする亜乃音と、参加を熱望するハリカとのぶつかり合いの中で、この愛にあふれた関係性が崩れ去ってしまうのではと、文字通り息を呑んで見入ってしまう。そしてぶつかりあった結果として、それぞれのより根源にある欲求がお互いに顕わになる展開にも心動かされた。

この第7話には分かりやすくドラマチックな出来事が少ないにも関わらず、心と心の関わり合いを描写するだけでこちらをハラハラさせてくる力を持っていた。

最終的に全員が心を開いたまま話を進めていく展開にも新しさがある。主に第3話で描かれた「ドラマあるある」を決して踏襲しない姿勢が地味ながらここにも現れているように思う。残り3話を残した時点で登場人物どうしのすれ違いが起こり、最終話に向けて修復を図るのが通常ドラマ展開と思われるが、この第7話では私たちの心配に反して「全員で裏メニューを仲良く食べる」という変わった進行に落とし込んだ。だからこそ引き続き先の展開が読めず、不明な展開の鍵は一話から継続して中世古が握っている。執拗なまでにラストシーンに中世古が出てくる演出と展開には流石に慣れが出て驚きは無くなったものの、前回の火事の告白に引き続いて鍵を握る中世古がいつそれを表に明け渡すのか注目だ。第5話以降、少ないシーン数の中でも存在感を露わにしてきた火野の存在の重要性も、今回の亜乃音の職場シーンをもって確実となった。

細かいが、4人が偽札の成果を試す、海辺の自販機がサンガリアを模した社名(シャングリラ)だったところにぐっときた。あの場所で海風に晒され、偽札テストを繰り返される自販機はコカ・コーラでもキリンでもサントリーでも確かにあり得ない、間違いなくサンガリアなのだ。


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