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プラトニックな関係性の重なりが生み出す、文学的な世界観が美しい作品だった(「Nのために」最終話レビュー)

最終話。出だしから全ての謎の回収。そこからは登場人物一人一人の思いに焦点を当てていき、最後には希美の生涯をなぞってラストシーンを迎えた。

「Nのために」は安藤がとにかく切ない話だったということが分かった。同じ時間軸上に安藤・希美・成瀬という三角関係が出来上がったのはようやく第9話になってからで、切なさが色濃くなるのも第9話から。ただクリスマスイブの事件の帰結と、10年後、余命宣告を受けた希美とのシーンを見ていくとただただ報われない想いを目の当たりにすることとなる。

「あの時、杉下が考えていたのは安藤さんのことだったと思います。あなたを守ろうとしていました。」という成瀬の台詞が唯一の彼の想いの救いである。成瀬グッジョブ。だがしかし!成瀬安藤のシーン短すぎないか!?杉下を想う男二人が出会って、言葉にならないようなお互いへの思いを抱えながら、何を語るのか、語らないのかという超ウルトラ重要シーンであるにも関わらず、これはもういただけない、というか編集が悪い。こんな素晴らしいシーンで「あ、しょうがないよねだってテレビドラマっていうのは尺っていうのがあってこれは最終回で伏線の回収もいっぱいあるから大変だもんね!おつかれ!」なんて聞き分けの良いこと言えるわけねーだろバーカ!という思いである。台詞の量は良い。喋る量は二人とも少なくて、外から聞いたら空気を掴むようなやりとり。でも言わない先に、二人とも同じ人のことを考えていることがただただ伝わってくる、はずなのだ、だが何だか知らないが異様にテンポが早い。ちゃっちゃっちゃっと済ませてくる。ちゃっちゃっちゃ、「じゃ帰るわ!」「会えてよかった。」いやいやいやいや。今までの行間シーンの美しさをどこにほっぽっちゃったのよ?

わざわざ比較するが、高野と夏恵のシーンは超弩級に素晴らしかった。確かに役者がシンプルに上手いというのもあるが、心の捉え方が凄い。ただただお互いを想う気持ちと夏恵の声にならない声、何十年ぶりに耳にする彼女の泣き声、愛おしさ、と大変に静かなシーンながら感情が爆発する。このクオリティで来てほしかった安藤と成瀬。役者は全然悪くないと思う、とにかく尺が短すぎる。30点!

最終回、連れ込んだ愛人といつの間にか再婚、ハワイに移住するという父親は流石に登場しない。(話聞いただけで見たくもない。)一方で何十年ぶりの母親との再会シーンが印象的。社会復帰を果たして自分を取り戻した母親とのわだかまりが融け、病気の告白をする希美。すごくいいシーンだった、すごくいいシーンだったというのは大前提に置いてその上で、やっぱりあのバスで目を逸らし、そのまま上を向いて母親とさよならする最終回であって欲しかったという気持ちが2ミリほど。

「ティピカルドラマ的展開」をどうにか避けて欲しい、と考えがちな私としては最も冷たい別れを望んだとはいえ、そこまで冷酷な必要はないかも知れない。ないかも知れないが、流石にわだかまり融けるの早すぎと思う。これも尺不足というか、尺が決まっているならその尺で可能なレベルの心の接近に収めてみては、と感じる。何しろ母親に挨拶もせず、見つからないように去ろうとした娘です。バスの中でも振り向くな振り向くな、と自分に言い聞かせるような表情で、母親を無視しようとした娘です。普通に考えたら母娘の絆0%、様子見に来たんだから流石に0じゃないというなら3ぐらい。「何でも話してみなさい」と言う母親の胸で泣くってもう絆100ですよ、そこまで突然跳ねるかなあ。信じようとしても、どうやってもやっぱり絆55ぐらいで気持ちがせめぎあってしまう希美ちゃんが私は見たかった。以上。でも母役素晴らしかった、全編通して出演しているわけではないのに圧倒的存在感。

全話見終わった感覚としては、ほとんどの関係性が極端にプラトニックなのが特徴的と感じた。実際の肉体関係がどうということ以前に、それよりもライトな恋愛的触れ合いさえも極端に少ない。いわゆる「ロマンチックな恋愛関係の描き方」や男女の生々しさを徹底的に排除している。唯一あったのが西崎と奈央子のシーンで、これが逆に極端にエロティックに描かれていた。安藤は希美に、恋人というプロセスを踏むこともなく結婚を申し込もうとするし、成瀬と希美に関しては、キスシーンさえも(安藤と希美にも事故的にあったのに)無い。むしろ物理的に距離が近いシーンがほとんど存在しない。物理的な距離感の近さや触れ合いを排除したまま、心の繋がりだけで想いが重なるさまは、多分ちょっとリアリティに欠けていて、だからこそ文学的で美しい世界観を「Nのために」にもたらしているように思う。

そして今までのタイトルバックを伏線とするようなラストシーン。良い。


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