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ビルシャナ戦姫 ~源平飛花夢想~―プレイレポート

あけましておめでとうございま……した。
新年こそは積みゲーと向き合って推しと出逢いたい、カリンと申します。

2018年9月。
オトメイトさんが新作発表を届けるオトメイトパーティーの会場にて、オトメイト×REDさんから新作が出るというが飛び込んできました。
内容は源平合戦。あの十三支を彷彿とさせる歴史物。これは続報をチェックしなければと思ったことを覚えています。

それから2年。ビルシャナは想像以上の期待を詰め込んで、ついに手元に届きました。
いやもう十三支が好きなら間違いなく楽しめるだろうという確信がありましたが、期待通り、ビルシャナは新しい源平合戦の世界をみせてくれた作品でした。

このノートは、プレイ当時にこんなことを思いながら遊んでいたんだなっていうのを後日読み返すことを目的に残す備忘録です。

★ 「ビルシャナ戦姫 ~源平飛花夢想~」とは

通称「ビルシャナ」。
2020年9月17日にオトメイトから発売された Nintendo Switch のソフトです。

▼ 公式サイト

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▼ プレイ前の印象

結果、「ここには落ちないだろうなー」って油断していたところに突き落とされました。油断大敵……。


プレイ前のSS導入システムは最高でした。本編はどうしてもヒロインの目線で進みがちなので、同じ場面やヒロインが存在しない場面を切り取る試みはぜひ、いろいろなタイトルでもやってほしい。

別タイトルの発売前限定公開SSも絶賛追いかけておりましたが、プレイ前にじわじわと世界観が身体に馴染んで本編に備える体勢が整えられるので、プレイ前のSSシステムは大変よいシステムです。


信じてやまないREDさんクオリティ。

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ネタバレを含めない全体的な所感としては、こんな感じです。

※以降のノートは、ゲーム本編のネタバレを含む箇所があります。ゲーム本編未プレイの方、未クリアの方が読む際は、予めご了承ください。


■ 平 教経を振り返って

遮那ちゃんとの出逢いで運命を狂わされた男枠その一。

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十三支を通ってきた身一つでビルシャナに挑んでいるため、彼の第一印象といえば、「ぺろっ。これは……立場上は敵側にいる世間知らずなお坊ちゃんが、遮那ちゃんと勝負していくうちに遮那ちゃんの人柄に惚れこんでいく話ッ!!!」と踏んでいたのですが……教経さんは、いい意味で、一番期待を裏切ってくれたという印象です。

『ビルシャナ戦姫』の物語が始まったばかりの頃、序盤の遮那ちゃんのセリフがこちらです。

「(源氏であることを関係なく)ありのままの私でありたい」

ビルシャナの序盤は共通ルートなので、ほぼすべてのルートの遮那ちゃんは、この想いから始まります。 ビルシャナのそれぞれのルート分岐はまさに、遮那ちゃんが何を思いどのように生きていくのか、まさにその生き様の分岐を描いた作品とも言える作品です。

しかし、この時点で我々プレイヤーは遮那王が後の源義経とイコールであると知っているので、遮那ちゃんが史実を辿るのであればどのような運命を迎えることになるのかを、ある程度予想することができます。
もしも、ビルシャナが歴史通りの物語をなぞることになれば、遮那ちゃんは将来『ありのままの私』から『源氏の義経』として、源氏の再興を願う兄、源頼朝の助けとなる未来になっていく……まさに「源氏」としての未来を選択することになるわけです……遮那ちゃん……。

そんな遮那ちゃんの『ありのままの自分で』という言葉に、人生を揺るがすほどの大きな衝撃を受け運命の歯車が狂い始めたのが教経さんです。
いやもう、遮那ちゃんは教経さんの【運命の女】なんですよね……いや、この時点では性別バレはしていないので【運命のライバル】でしょうか。

自分が求める遮那ちゃんとの真剣勝負をするためには、源氏や平家であることが『足枷である』と。
何不自由ない平家のお坊ちゃんとして育てられた環境であるにも関わらず、それらを【教経】ではなく【平家】で在らせる『足枷である』と、これまでの自分の一因であった要素をバッサリと斬り捨ててしまうのですよね。
それがいったい、一門の中ではどれだけ異質なことであるのか……それはもう平家に出入りする商人が語った通りであると思います。

しかしそうは言っても、彼は平家の育ちであることは変わらず、温室育ち平家のお坊っちゃまである過去もまたその通りです。
行く先には苦難の道のりになるだろうし、世界を目を向けて来なかったのだから、現実を知って挫折するのかな。

……と、思ったらこれです。

「わからぬことはこれから知ればいい」

すごくないですか???
このセリフがまさに、ただ、甘やかされて育ったお坊ちゃんや、地位を大事にしている人には決していえない言葉です。

 序盤で遮那ちゃんが

「きっと彼は今までに何かに迷ったことはないのだろう」

と評していた場面があったと思います。
最初は悩むことすら知らない箱入りのお坊ちゃんだから迷うようなことがないなのかと思っていたのですが、実際はこうして己の信念をまっすぐに貫き通せるからこそ、苦悩はするけれども悩むことはなかったというわけでして……真っ直ぐすぎる人柄がこんなに序盤から表されているわけです。

一方で、遮那ちゃんは「本当はありのまま生きてみたい」という誰にも言えない想いがあるにも関わらず、覚悟が持てず平泉で自分を見つめ直している最中です。
そこに、自分と同じ願いを持っていた男がまさか京から追いかけてくるし、自分が思い悩んでいることをあっさりとやってのけるし、しかもその理由が『俺と勝負しろ』なのですから、遮那ちゃんにとっても彼が無視できない特別な存在になっていたのではないでしょうか。
まだ全然序盤なのに、すでにこの時点で推しの気配しかしていない。

さて、遮那ちゃんに人生を狂わされ教経さん「出家すれば平家からは解放される」と少しの間は思っていた教経さんですが、ここで「出家したところで周りが平家であることを強要する」という、遮那ちゃんが味わい続けてきた苦しみを知っていくことになります。

「だから、私は不思議なんだよ。家を捨て、広い世を知ったはずのそなたが沈み行く平家にわざわざ戻ってきたことが」

などと遮那ちゃんと出逢えなかった知盛さんが言っていますが、教経さんは、広い世を知った上で、遮那ちゃんが源氏として生きていく覚悟をもったのと同じように平家として生きる覚悟を決めて戻ってきたのですよね。

「戦おう、教経。本来の私たちの宿命のままに。源氏と、平家の者として」

まあその『平家としての覚悟』ってやつも、人生を狂わせた遮那ちゃんという女に教えられたものなのですけどね!!!

教経さんの素晴らしいところは、遮那ちゃんが理想の女性だから狂ったのではなくて、己の人生を狂わせた存在がたまたま女性だったっていうところがですよ。
「実は女だとは知っていた」という告白をさらっとしているところがですよ。
それどころか、女だと知ったからといって軽んじられると思われるほうを怒っているので、自分が遮那ちゃんを認めているように、遮那ちゃんにも同じように武人として認めてもらいたい一心なんだというところですよね認められたい男はいいぞ。

一方で遮那ちゃんも、自分を認めてくれる教経に、性別に関係なく「ありのままの自分」を認めてもらうことが嬉しいと思うわけで……この……お互い大切にしたいものが一緒なんだ……ありがとうビルシャナ。この時点で、ビルシャナの評価がもう満点です。(※まだ一人目)

何より教経さんの推しポイントはあれです。平家に身を寄せた遮那ちゃんが平家にいることを迷っているときにですね。

「ここにいろ」

という、このシンプルにかつダイレクトに、遮那ちゃんに一番必要な言葉を掛けられるところですよね。
ここでこんなに満点を超える解答を提示してどうするんだ?
スタートダッシュを張り切りすぎじゃないだろうか。このあとのプレイレポートを無事に書き終えることができるのだろうか???

そして、源氏と平家として戦う覚悟を決めた二人の集大成として、源平最終決戦【壇ノ浦の戦い】が待っているわけですが、これ……この教経さんの成長は、他のルートをプレイすることで初めて映えるところでしたね。
一度は自分には意味がないと言って遮那ちゃんとの戦いで命を捨てようとしていた教経さんですが、遮那ちゃんと出逢うことで多くを知り、その結果、将として兵にかける言葉が「命を大切にしろ」。
かたや、遮那ちゃんに出会わずに武人として狭い世界しか知らずに生きてきた教経さんが将として兵に命じたのが「命を捨てろ」。
 あまりにも……あまりにも、遮那ちゃんとの出逢いが運命が狂わされている……。

この最終決戦で、ようやく誰にも邪魔されずに戦うことが叶います……長かった! 物語でいえば最序盤からの約束ですからね!

遮那ちゃんがルート序盤の一番最初に望んでいた「何者でもない自分として」を選ぶと、仲間や家族を全て捨てて、時折眠れない夜を過ごしながら二人で新しい人生を過ごしていくことに。
「源氏・平家として選んだ自分として」を選ぶと、最初の約束が果たされて悲恋エンドになるところも完璧でした。ありがとうございます。教経ルートは本当に素晴らしかったです……ありがとうございます。

あっ、最後に。
ビルシャナならきっと、「お前を殺して俺も死ぬ」という心中エンドが存在してくれると信じていたのですが、まさかそれを、自分は無力であると絶望した教経さんが、遮那ちゃんを圧倒して斬った後に自分も自刃するという、見ようによっては心中ルートを彼が担っているとは思わずに変な声あがりました。遮那ちゃんがいない世界に何の未練もない男だ……。

■ 武蔵坊 弁慶を振り返って

何がすごいって、この宣言通り、弁慶ルートの遮那ちゃんは観測した限りでは命を落としていないというところですよ。

 *

すんなりルートに入れた教経さんと違い、10回くらいやり直してもルートに入れなかったのが弁慶ルートです。
向かってくるバッドエンドをちぎっては投げちぎっては投げながら、最終的に禁断のフローチャート機能を駆使して全てのパラメータを上げることで、なんとかルートを始めることができました。それにしても共通ルートのバッドエンドの数が思ったよりもたくさんあるのでびっくりですね。遮那ちゃんは蜘蛛の糸を歩くようにフラグを回避していたんだな……命懸けすぎる。

察しの良い方はお気づきの通り、フローチャートで全てのパラメータを「高」にした結果、待ち受けていたのは知盛さんによる遮那ちゃんお人形バッドエンドです。ここはバッドエンド地獄巡り会場か。

さて、弁慶ルートで特筆すべきは、やはり得体の知れない圧倒的恐怖の象徴であった知盛さんが舌舐めずりしながらアップを始めたことと、その恐怖に唯一対抗するために必要な人材こそが、弁慶さんだったのではないかということです。

牙を剥いてきた知盛さんの恐怖に屈してしまいそうな遮那ちゃんですが、一人では膝を折ってしまうであろう恐怖も、このルートでは「弁慶がいてくれるのなら」と遮那ちゃんが思うだけで立ち向かえるようになるというのが、武蔵坊弁慶という男のすごいところで……あの得体の知れない恐怖を知っても「このひとがいるなら大丈夫」と思える人が、いったいどれだけ存在するのか。そんなことを思わせた武蔵坊は、はたして本当に人間だろうか?? ……と、思わず疑ってしまいます。
並の人間では到底無理です。まず、知盛さんを前にしたら逃げ出すことが証明されています(※知盛ルートのモブ参照)。

しかし、弁慶さんが知盛さんに立ち向かうことができたのは、彼が誰よりも『人』としての強さを備えていたからではないでしょうか。遮那ちゃんが人外の力に頼らずに、『人』として強く在りたいと思っていたので、きっとそういう意味でも弁慶さんは遮那ちゃんにとって憧れで、素敵な男性像だと思っていたに違いない。
知盛さんと弁慶さんの対立は、そのまま遮那ちゃんの行く末を『人』で在らせるか、『人ではないもの』に在らせるかになっているところも、揺れ動く遮那ちゃんの心と連動しているようでした。
他人ルートの恋路を娯楽にしている知盛さんも、弁慶さん相手では軽口を叩く様子もなくげきおこぷんぷんな様子でしたので、本当にお互いが嫌いなんだなと。二人して「あの男を遮那ちゃんの目に入れたくない」とか、おんなじこと言っていましたしね。

ところで、この手の人と人ではないものとしてのお約束ですが

「拙者の気を喰らってください」

系のイベントをきちんと入れてくれるところ、百点満点ではないでしょうか。
「拙者の気を喰らってくれてありがとうございます」というセリフはきっとしばらく見ることができないはず。噛み締めておこうと思っています。

それにしても、知盛さんの恐怖を象徴するためなのかは分かりませんが、遮那ちゃんのいないところで「この傷口を義経に見せよう」と意気揚々としている知盛さんを我々に見せたあとに、実際に遮那ちゃんの前で有言実行している知盛さんという一連の流れを見せられた我々の気持ちたるや。仕留めた獲物を見せて褒めてもらいたい猫ちゃんですか?

弁慶さんの隣にいる遮那ちゃんは、弁慶さんという人柄のおかげで「ありのままの自分」を肯定した上で、その一歩先の自分になれるところが、教経さんの隣にいる遮那ちゃんとはまた違った強さを見せてくれたところが大変良かったポイントです。
全体を通してまさに家臣の鑑ともいうべき人柄が伝わってくるのが弁慶さんだったのではないでしょうか。家臣としておいしいところを全部持っていってしまったので、似ている立場の春玄さんのルートを心配してしまったくらいです。

あと、こんなにスペックが高いのに、立ち位置が『遮那ちゃんの従者』なので、何がどうあっても遮那ちゃんの意向を汲んで行動するんですよね……自分から告白をしないし、遮那ちゃんが嫌がることはしない……この強さと優しさの両立は他のキャラクターには真似できないポイントだなと思います。
恋人になったら、立ち位置は『遮那ちゃんの従者』と『遮那ちゃんの恋人』をどうやって両立させるのですかね??? 早く続きをください。

最後に。
弁慶ルートの悲恋エンドですごいなと思ったのが、恋愛エンド軸にて、弁慶さんは「自分の気を喰らった遮那ちゃんが手加減をした」ことが勝利の秘訣だと言っていたところを、悲恋エンドではなんと遮那ちゃんが弁慶さんの気が美味しすぎて喰らいすぎてしまう展開があるところでして。
恋愛エンドを先に見ていたので、悲恋エンドでは「遮那ちゃんが弁慶さんの気を喰らいすぎたせいで動けなくなってしまうのだな」とか思っていたのですが……。
まさか遮那ちゃんが元気すぎて知盛さんを倒してしまったから、重衡さんを止める人がいなくなってしまい、弱った弁慶さんが海に落ちるという展開になるって……こんな……こんなの予想できますか……。
これはあくまで想像ですが、弁慶さんは自分が死んでしまったら遮那ちゃんの心を傷つけることになると、分かっていたはずです。
だからこそ、自分の死因を気を喰らいすぎたことではなく海に身を投げたことにしたし、それに海に身を投げて生死不明にしたことで、遮那ちゃんの心を……最期まで護ったのではないだろうかと、思うわけです……本当に……本当に完璧に、遮那ちゃんをお守りしているんですよ……。

■ 春玄を振り返って

では、もしも遮那ちゃんが死んでしまったらどうするのか?
というアンサーを示した悲恋エンドがやばすぎる。

 *

「俺もお前も源氏に関わる全てを棄てて、ただの人として生きる――そんな道もあると言っているんだ」

「お前につきまとう『源氏』が、これ以上、お前を苦しめて傷つけるならいっそのこと……!」

……これです。
いやいやこれです。これですよ!!

先ほど、「弁慶が従者として完璧だったために春玄のルートが、どのような話運びになるのか不安になった」などと言いましたが、これこそ弁慶にはできなかった展開。
従者や部下というポジションに収まってしまっては決して見られない、遮那ちゃんとずっと付き合いのある幼馴染にしかできない展開ですありがとうございます。

遮那ちゃんが納得して自分が耐える幸福ではなく、遮那ちゃんがこう在ってくれることこそが彼女の一番の幸福を願う幼馴染としてのエゴ。これです。これが見たかったんだ。

ビルシャナの攻略キャラクターのなかで彼だけが、遮那ちゃんが「源氏」であることに密かに苦しんでいるのではないかと、そう思わせてくれるのが春玄さんです。最高か?

鞍馬での平穏な生活を心の中ではずっと望んでいる遮那ちゃんは、けれども己の正義のために剣を取って戦うことを選びたい女の子です。
対して、鞍馬での平穏な生活を遮那ちゃんに送ってほしいと望んでいる春玄さんは、遮那ちゃんの願いを叶えるために剣を取って遮那ちゃんの隣にいることを選んだ男の子です。

二人とも、望んでいるものは同じものだけれど、それ以上に優先するものが違うからこそこんなにもすれ違ってしまう……幼馴染おいしいよ党員としてはなまるをあげたい二人です。惜しむべきは、他ルートの春玄さんの影が薄かったことか……。とはいえ、遮那ちゃんは戦に出てしまうので、戦では幼馴染として大きい顔ができなくなってしまうのは致し方のないことだし、その辺りになってくると各攻略キャラクタールートにいるので、春玄さんもあまり見せ場がないのだ……くっ。

また、他ルートに行くと、運命というか見せる顔というかががらりと変わる攻略対象が多数存在している中、春玄さんだけは見せる顔があまり変わらず、どのルートでも遮那ちゃんは春玄さんに変わらない信頼を寄せているところも、幼馴染であるが故の歴史を感じるおいしいポイントでした。
特に、知盛さんルートにおいて、事あるごとに春玄さんの名前を呼んでしまう遮那ちゃんを見ることができたことが大変大きな収穫です。
隣にいることが当たり前のことであるように過ごしてほしい……そしてそれが当たり前すぎて特別なことだと気付かないでいてほしいし、壊れることを何よりも恐れて欲しい……春玄さん才能の塊のような幼馴染でした……。

また、頼朝ルートの春玄さんは特に、遮那ちゃんが不幸になるんじゃないかと度々気にかけているところも、キャラクターの相性がよく顕れているなという印象でした。

ざっくりとした史実では「無実を訴える義経の嘆願を頼朝は受け入れずに命を奪おうとした」とありますが、仮にビルシャナの歴史が頼朝と春玄を兄弟として進めていれば、遮那ちゃんを駒扱いしている頼朝と遮那ちゃんを守りたい春玄の相性は最悪かと思いますので、もしうっかり間違えれば、頼朝さんと春玄さんで殺伐とした展開を迎えることもあるかもしれない。

さらに、春玄さんの悲恋ルートを頼朝さんの視点から見ると、【家族】に手をかけることがトラウマになっている頼朝さんが、実の弟である春玄だけでもと生かして逃したものの、結局源氏として春玄さんには恨まれてしまう……という、頼朝さんにとってはどう足掻いても何も救えなかった結果になるというとんでもなく恐ろしいルートになると思うので、次回作では頼朝さんと春玄さんと遮那ちゃんの三人でハッピーになるエンドを、どうぞよろしくお願いします。

■ 源 頼朝を振り返って

このセリフを見たときは、いったいどんな攻略キャラクターになるのか想像もできなかったことを思い出します……愛する……愛する妹……。

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攻略対象のしかもメイン扱いのキャラクターが、ルートによっては共通ルートで一言ほどしか姿を見せない――そんな展開だって十分あり得ますよね。なるほど。
自ルートなのに、遮那ちゃんの前に姿を見せるのは共通といっていいのだろうかという共通のほぼ終盤である4章からだ――そんな展開だって十分あり得ますよね。なるほど!!

他ルートであれば冷酷非情な将として描かれており、史実も弟である義経の命を奪おうとすると伝えられていることから、どのようなキャラクターになるのだろうかとわくわくしながらプレイを終えましたが、総じて誰よりも優しい人であったな、という印象です。 もしくは、機会に成ろうとしたけれど自分を棄てることに失敗した男……。

肉親から向けられる無条件の愛に飢えている遮那ちゃんと、誰も愛さなくて済むように己を殺して生きていく頼朝さん。
最初こそ歯車が上手く噛み合っていないように思えるものの、頼朝さんの生来ある優しさを垣間見た遮那ちゃんが「支えていきたい」という想いを強固にしたことで、己を殺して冷酷に見せていた仮面が剥がれ、頼朝さんがどんどんどんどん人間へと氷解していくところがですね……わくわくでしたね!

これは遮那ちゃんが頼朝さんからただ愛されたいと願うだけではだめで、たった一人の肉親だからとか適当な理由をつけてでも側にいたいとか、支えていきたいとか、そういう健気さというか粘り強さの勝利だったと思います。高綱さんが懐くわけです。

頼朝さんがハイライト消失するタイミングって、愛する【家族】を失った時なので、一度懐に入れてしまったらもう最後のはずなのですよね。

だからこそ、

「私は……お前の方こそ、怖い」

であり、

「誰かを愛せば、私は捨てられぬ」

だったのだなぁと。
こうして、他ルートではただただ実の弟にも家族の情を持たない男だと思われていたのに、実際は情に脆い男だということがあっという間に暴かれていくわけです。恐ろしい。 実際、好感度が上がる選択肢のほとんどは、遮那ちゃんから頼朝兄上に対する愛と尊敬ってところが隠し切れていないわけですよ。

こうして丁寧に【家族】へのこだわりを見せていた頼朝さんに、ある日唐突に「遮那ちゃんは実の弟ではない」という事実が襲いかかるという、この急展開ですよ。天才か。
遮那ちゃんへの想いは肉親への【情】ではないのだよと思い知らせることで、頼朝さんから遮那ちゃんへの気持ちがどういったものであるのかを認識させるという、あまりにも丁寧な恋愛切替スイッチであり運命分岐でした。

また、春玄ルートでも同じように、遮那ちゃんが実の弟ではないと明かされる場面があったかと思います。
このルートとの違いと言えば、遮那ちゃんが頼朝さんの支えになりたいと思って遮那ちゃん自身が奮闘していた頼朝ルートと違って、春玄ルートでは遮那ちゃんのために春玄が奮闘し、それを推薦する遮那ちゃんの図になるので、頼朝ルートで彼が感じる「血縁だから感じていたであろう絆」が薄くなる。

つまり春玄ルートでは

「本当の弟になど興味はない」

これが……【家族】を大切にしていたが故に血縁の情、すなわち愛を恐れていた頼朝さんに、この言葉を言わせることがなくなるということですよね……!!! 

遮那ちゃんにとっては最愛の『兄上』であり、同時に尊敬できる上司でもある。
【家族】として無条件に愛されたい……というのは、頼朝さんが【家族】であれば求めないようにしようと思っていたけれど、それ以上の愛情を向けられてすくすくと育っていく……という、とんでもないルートでした。

■ 平 知盛を振り返って

びっくりなことに、遮那ちゃんが宿命に抗えなかったら最序盤でバッドエンド突入という極端さ。 

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知盛さんルートの特筆すべきところは、やはり他ルートと自ルートでの大きな変化でしょう。
遮那ちゃんに愛してもらえた知盛さんと、遮那ちゃんに執着することしかできなかった知盛さん。同一人物ではありますが、恐らく二人が出逢ったら血で血を洗う戦をしてくれると思います。これはもう、最後に攻略するからこそ違いがより際立つというものでしょう。まさか「遮那ちゃんの涙が見たいな」とか言っていた男が、自分のルートでの締めの言葉に「笑顔が好きだよ」を持ってくるのが狡すぎる。

知盛さんの印象としてはなんとなく、彼はこの世界に希望を見出していないからこそ遮那ちゃんという特別な存在に自分を終わらせて欲しかったのかなと思っているのですが……。
この世界に未練を持てない知盛さんを、人間にさせた遮那ちゃん、という構図がとても好きです。

「ならば、この先私だけを見ていろ」

ありがとうございます……。

特別な人に特別に愛されたかった遮那と、生きる目的がなくて虚に生きていた知盛さんに差した一筋の光明。
遮那ちゃんの遮那ちゃんらしさに触れることで、彼に徐々に心を植えていく二人だった、という印象です。種を植えたので、あとは水を遣って耕して綺麗なお花を咲かせるだけだよ。


個人的には、御座船に乗った遮那ちゃんがここにはいない知盛さんのことを思い出したときと現実に知盛さんがやってきたときが重なるシーンが一推しでして。
記憶の中の知盛さんはいつもの穏やかな知盛さんだったのに、実際には源氏についてまで公達とは思えないほどがむしゃらに走り出してそれでようやく呼んだ遮那ちゃんの名前の違いが、リアルに『熱』を持っていて最高でした。

そんなふうに世界に根付いていた知盛さんにですよ。
悲恋エンドでは絶望の、知盛さんを置いて一人で逝ってしまうという展開ですよ。
これ、ちょっと前に「死ぬのは生き方に反する」と言っていた遮那ちゃんとは真逆のことをしているわけで、知盛さんにとってはこれ以上ない裏切りに感じたかも知れないし、根付くことができなかった悲恋だったなと思います。
遮那ちゃんがいなくなったのだから、それはもう、この世界に見るべきものはなにもないですよね……。

ところで、この知盛さんのバッドエンドですが。
かたや弁慶さんは気を喰われても遮那ちゃんの目の前では命を落とすことはなかったのに、知盛さんは命を落とすっていう展開になるのが、この二人の相性の悪さをここでも示しているなとしみじみしています。
弁慶ルートの遮那ちゃんは「あの人が愛した世界だから」生き続けるけど、知盛ルートの遮那ちゃんは知盛さんが命を落としてしまったから、後を追って笑顔で自刃するんですよね……本当に……遮那ちゃんがどこまでも真逆の道を歩むことになるので、この二人あまりにも相性が悪い。

■ 蓮月さんと遮那ちゃん

家族からの愛を知らず、みんなからの愛とは別腹で、【家族】という唯一無二の存在から愛されるものこそ特別なものだと思っている二人。

物語の序盤、遮那ちゃんが頼朝さんに「家族として愛してくれるかもしれない」という淡い期待があったので、もしもその頃に遮那ちゃんと蓮月さんが出逢っていたら……?

もしも序盤と同様に家族からの愛に飢え、もしも誰からも特別な愛を注がれなかった遮那ちゃんに、蓮月さんという母から娘だからと家族の愛情を注ぐ蓮月さんから愛されてしまったら……??

知盛さんルートの遮那ちゃんは、身内『だから』蓮月さんを止める、と言っていましたが、遮那ちゃんが愛情に飢えていたら、その天秤が傾くこともあったかもしれないな……と、思ってしまいます。もしも遮那ちゃんが蓮月さんに育っていた未来があったら、きっととんでもないことになっていたでしょうね……遮那ちゃんには絶望堕ちの才能がある……。

ところで、蓮月さんの……というよりも徳子さんの顔をした蓮月さんの笑い方が、個人的に作品中でも随一の好き表情でして、もしも遮那ちゃんが世界の敵になったらさぞ美しく微笑んでくれるのではないかな、という期待がありますこんなに伸び代に溢れる世界があっていいのだろうかありがとうございます。

■ 総評


ビルシャナ戦姫の平泉編をください!!!



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