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怪しい世界の住人〈狐族〉第六話「狐憑きの対処」

⑦ 狐憑きの対処について

 昔の人は、どうやって狐憑きに対応したのでしょうか?
 これについて『反古ほごのうらがき』と言う書物の中に狐憑きの人の対処の方法が書いてありました。
 その本には、

——鎗術師範の伊能一雲斎は、私の先婦の叔父であった。これはその叔父の話である。
 叔父は新宿の筑土つくど八幡宮の辺りに住んでおり、たくさんの門人がいた。その中に旗本の門人がいて、その若者も旗本に仕える門人のひとりであった。彼は剣術も相応に出来た人だったが、ある日、突然に狂気して太刀を引き抜き、当たるを幸いに切りまくる不祥事を起こした。主人もしかたなく奥口を引き締め、門を閉ざし、狂人ひとり玄関より奥座敷の中の口のあたりで狂いながら誰ひとり手出しすることも出来なかったと言う。
 この屋敷の主人より使いの者が来て、叔父の家で申すには、
「ご存知の家来、狂気致し、白刃を振り廻し、手に余りそうろうなり。主人より願いはべる」
 と狂人を取り押さえて欲しいとの願いを聞き、叔父は、
「これは存じもよらぬお頼みなり。それがし、これまで鎗術師範はいたせども、人を相手に無手取りをした心掛けもなし。しかしながら、折角のお頼みならば、それがし、まず、切られに参り申すべし。各々方おのおのがた、それがしが切られている内にすかさず取り押さえなさるべし」
 と常の衣服に一刀を帯びて、使いの人と共に門より入り、玄関に案内を乞うと、狂人はその声と共に走り来て玄関で大声を出し、
「誰にても、この内へはいらん者は、まっぷたつにするべし」
 と叫び、白刃を掲げて玄関の敷台に腰掛けた。
 叔父は、素知らぬ顔をして玄関を通り、右の狂人と推し並べて、むんずと座った。しかし、狂人は思いのほか叔父に斬り掛かると言うこともなく、

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