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播磨陰陽師の独り言・第454話「会社を潰すような人」

 ゲーム会社に入った新人の頃、会社にいた上司のH氏は、いかにも昭和な感じの人でした。パワハラはもちろんのこと、その日の気分で仕事をし、部下に嫌がらせをするわ、憂さ晴らしをするわ……な人でした。
 そんな上司がいる会社は、毎日が、たいへんでした。企画会議と言っても、上司のご機嫌取りばかりなのですから、ヒットする筈もありません。
 普段はこの上司、企画室にあるゲーム機で遊んでばかりいました。
——いったい、何を、参考にするんだろうね?
 ゲーム開発が仕事とは言え、ゲームで遊んでしまえば仕事にはなりません。ゲームはあくまでも仕事なのです。
 ビルの上の階に企画室がありました。階は仕切りもなく窓が広がっていました。だから雷がなると、見応えがありました。広い窓の全面に雷鳴が轟いて光るのです。そんな時は、仕事は休みです。全員、コンピュータの電源を切って、ケーブルまで抜きました。そんな時でも、かの上司は動じません。引き出しからマンガ本を取り出して、読みながら笑うのです。
——どこから持って来たんだろう?
 と思いました。
 ある時は、その上司の機嫌が極めて悪く、朝からイライラしていました。暴言は吐くわ、差別的なことも言い続けるわで、皆、地獄にいる気分でした。
——こんな上司の元では働けないな。
 とその時に思いました。それで、彼に辞めてもらうつもりで戦略を立てました。
 まずは、すべての関わった仕事の詳細な手順をメモすることからはじめました。このメモの中身のほとんどは重要なデータです。今ならUSBメモリに書き込むか、パソコンに入れっぱはなしにして、社外持ち出し禁止にするような種類のものです。
 しかし、この時代、まだパソコンは10キロ以上の重さがあるし、ノートパソコンは存在すらしていません。会社で使っているのは、一度、机に載せると、机すら動かない重い重いワークステーションでした。当然、すべてのデータを入れるだけの容量のデバイスもありません。会社のデータを持ち帰る風習はなく、特に重要なポイントだけをメモして持ち帰っていたのです。
 やがて、このメモがないと仕事のすべてが止まるようになりました。上司の機嫌の悪い時は、なぜか私は姿を消します。そこで仕事は止まります。こんな小さな嫌がらせを繰り返していると、上司も立場が悪くなり、辞めざるおえなくなりました。

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