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怪しい世界の住人〈龍神〉第二話「一目散の由来」

❹「一目散の語源は龍の名」

 有名な『甲子夜話』と言う本の中に、一目連いちもくれんと呼ばれる特別な龍の記録が残されています。この龍はかなり凶暴な龍のようです。
 この文章の冒頭に『雑談集ぞうだんしゅう』から引用し、

 勢州せいしゅう桑名に一目連と言う山がある。この山に棲む龍は、片眼なので一目龍いちもくりゅうと言うべきところを、土地の人は一目連いちもくれんと呼んでいる。この山より雲が出る時は、必ず激しい暴風雨がある。この暴風雨もまた一目連と呼ぶ。

 とあり、一目連と呼ばれる言葉の理由を書いています。どうやら一目連と言う呼び名は、伊勢桑名あたりの方言のようです。
 そして、本編の物語がはじまります。

——先年、この山の片目の龍が怒り、尾州熱田の民家数百軒を、大石で卵を圧するように潰した。
 また、熱田神宮の一の鳥居、大きさは二囲ふたかかえほどあって地中深く埋めてあり、十文字につらぬきを通しており、幾千人でもゆるがないものを、その鳥居を引抜いて遥か遠くへ持って行った。
 この辺りに住む者は、何にしても速く倒れることを〈一目連〉と言う。これは尾張伊勢地方の方言である。世に〈一目散〉と言う言葉も、この言葉の訛ったものである。

 熱田神宮が被害にあったそうですが、この文章の最後の部分に、
「世に、一目散と言うも、この転語なり」
 とあります。
 実は
「いちもくさんに……」
 と使われるこの言葉は〈一目連〉と呼ばれる龍の存在が語源になっていたのです。

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