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怪しい世界の住人〈龍神〉第六話「龍神のこと」

④ 龍神のこと

 和歌山県には有名な龍神温泉があります。ここはその昔、弘法大師が〈難陀なんだ龍王〉と呼ばれる神から夢のお告げを受けて開いたとされる由緒ある温泉地です。
 私に播磨陰陽道を伝承した祖母は、
「何だか竜王と言うのが、いわゆる龍神様のことじゃ」
 と言っていましたが、山や川で〈龍神〉と言った場合、この難陀龍王だけのことではなく、多くは八大龍王全般のことを意味しているようです。不思議なことに、これら龍神は、しばしば夢に現れては、まだ知られていない温泉の場所を人に告げるのです。
 時には龍神のままの姿をしていたり、また、時には人や奇妙な形をしていたり、老人のような神の姿であったり、その夢の中の姿は様々ですが、告げる内容は似通っています。過去から現在まで、多くの人々の夢に龍神のお告げがあり、温泉を教えてはその人を金持ちにしたり、温泉に来る人々の病を治したりしています。
 また、弁財天も、時として温泉の場所を教えるようです。

❶「夢に龍神が現れて幸福になる話」

 江戸時代に書かれた、有名な『耳嚢みみぶくろ』と言う本の中にも、龍神が夢枕に立つ話が書かれています。寛政六、七の頃と言うので、西暦では1794~95年頃のことですが、当時〈もみ抜き井戸〉と言う井戸掘りが流行して、井戸水が出にくい土地でも井戸から水が出るようになりました。この〈もみ抜き井戸〉と言うのは、パイプのような物を使って井戸の下の岩盤を錐揉きりもみするように揉み抜く方法です。
 もみ抜き井戸の技法を広めたのは本所に住む伝九郎と言う井戸掘りでした。ある時、伝九郎の夢枕に天女らしき婦人が立って、
「われは水神なり。近き内、わが家にたるべし」
 と告げたそうです。この言葉を現代風に訳すと、
「私は水神ですが、近いうちに、この家に来ます」
 と言う意味になります。

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