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怪しい世界の住人〈狐族〉第五話「管狐のこと」

——管狐を人に憑依とりつかすことも自在であると言う。これは邪道として用うる方術と言う。この狐を筒より出して再び筒に入れることは、尋常の行者には出来ないとも言う。
 狐使いは管狐を筒より出してからは、食物等を与えることは至って難しく、上食を与えなければ用をもなし難し。その上、たくさん喰うと言う。右はすべて牝牡ひんぼを筒に入れ与える故、出して用いればたくさんの子を生じていて数は増え餌にも困る。よって利のために悪だくみに使役して、ついにはその行者も身を滅ぼすと伝わっている。

 ここの〈ひんぼ〉はつがいのことです。とにかく高い餌を散々に食い、子だくさんで困った連中です。さて、狐使いは、狐がよく馴れるままに、常々、狐を外に出しているので、泥土にまみれて帰っ来てそのまま行者の臥床ねどこに這い入るそうで、臭いとか汚いと言うばかりではありませんが、これを我慢しなければ狐はなかなか言うことも聞かないそうです。

——よって、一度、さずかりては、外へ放ちやることもあたわず。生涯、付きそっていると言う。もし、あるいは外より嘆願する人がいて譲り与えることあるとも、その人の養い方が狐の意にそぐわなければ、再び元の主に立ち返り来る。狐使いが死亡すれば、その狐に主が無くなるので、今でも王子村の辺りには多く狐が住むと言う。すべて人に付いては、人の力によってことを成すものであるので、その人が亡くなれば狐の力のみにては人に寄ることも出来ない。よって元々の飼い主の住む辺りに散在すると言う。

 と、あります。江戸の王子村には狐使いが多く住むと言う噂が昔からあります。これから実際に管狐が憑いた人を治療して医者の記録になります。

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