「生きる力」をもらうということ・・・あったか(温か)貯金

仕事部屋の作業台の足元にある、箱の中を整理していたら、
手紙の束を発見。

こんなの読んじゃうと先に進まない、
ってわかってるけど
ついつい眺めていたら、
こんな年賀状がでてきた。




いよいよ4月から大学4年生になろうか
という年のお正月のもの。

差出人は大学の同級生の女の子。

工業大学の建築学科に
女子は4人しかいなかった。
そのうちの一人だ。

大学に入学した年、家庭内で人生が変わるような最悪の出来事があり、
その後、私は、大学中退という選択を迫られた。

切羽詰まった私は、高校の恩師の力を借りて、
やめた、と周囲に嘘をつき、
バイトと奨学金で生活費と授業料を捻出して、
大学に通い続けた。

この葉書をもらったころ、
私はへとへとに疲れはてて、
不安でいっぱいだったんだと思う。


このあとの期末試験で
4年生になれるんだろうか・・・。


卒論とバイトと就活は
両立できるんだろうか・・・。


ちゃんと卒業できるんだろうか・・・。

私はきっと、彼女達に
泣き言を言ったのかもしれない。

そんな私を励まそうと、日頃から口べたな彼女は、
すぐ近くのアパートに住んでるのに、
わざわざ年賀状にこんなことを
書いてくれたのだと思う。

無事に就職も決まり、卒論も提出し、
息子たちが成人した今も
建築士として仕事を続けていられるのは、
彼女も含めた、私の周りの人たちのおかげに
他ならない。

私は、出会う人に恵まれていると思う。

私以外の3人の女友達(後に一人はリタイア)は、
いつも近くにいてくれて、
バイトに追われ、勉強する時間の少ない私をフォローしてくれた。
変な同情をしないで、「普通」に接していてくれたことで、
私も「普通」でいられたのだと思う。

彼女たち以外のたくさんの大学の仲間も、
危なっかしい私をまるでお兄さんのように
温かく見守っていてくれた。

後輩たちは、
課題の提出に間に合わなそうな私を気遣い、
提出前日の夜に連れ立って手伝いに来てくれた。

 当時の恋人は、
あまりにも忙しすぎて
何もしてあげられない私に不満を表すこともなく
優しく温かく見守ってくれ、
私の精神安定剤のようだった。


高校の恩師は私にチャンスをくださった。

同じように嘘をついて学校に行っていた妹は、
今も妹と言うよりは一緒に窮地を切り抜けた
同士のようだ。

バイト先の大人たちは生きる知恵を教えてくれた。
そして、
「お世話になっているのに
何もお返しできない」と言った私に
「大人は今のあなたにお返ししてもらおうなんて思わない。
もしもあなたが大人になって、今よりも力をつけたときに、
助けを必要としている人がいたら、
その人に手を差しのべなさい。それが私達への恩返しだ」
と言ってくださった。

ずいぶん大人になったけれど、
ちょっとこれは
実行できてないかもしれない・・・。

偶然にも、昨日の朝、
この方からものすごく久しぶりに
お電話をいただいた。
こんなことを思い出していたこのタイミングで、
とちょっと鳥肌が立った。

今、75歳になったけれど、
バリバリと仕事をなさっているらしい。
お元気そうで何よりだ。

ある日突然、
ぽんと社会に投げ出されてしまって、
20歳そこそこの小娘だった妹と私は、
途方に暮れたけれど、
皆さんのおかげで、
自暴自棄になってすべてを投げ出すようなことをしなくて済んだ。

 もしもあの時・・・

学校を辞めて、不本意な職業についたとしても、
誰かと出会って、それなりに幸せになっていた、
かもしれない。

けれど、もし
何かうまくいかないことがあった時に、
私はきっと
いろんなことを他人のせいにして、
くすぶって生きていたように思う。

自分に向けられる温かさは、
貯金のように心の中に貯まっていく、
と信じている。

温かい言葉達は、
そのときに感じた私の中の温かな思いは、
ばらばらに心の引き出しに

詰め込まれているけれど、

色々な場面で引っ張り出されて、
それに励まされ、
温かだったその人たちを思い出し、
背中を押され、
ちょっと力が湧いてくる。

このとき、このハガキを私にくれた大切な友人は、
卒業の数年後、25歳にもならないうちに、
交通事故で命を落とすことになる。

一緒に年を重ねて行きたかった。
「あのときはね~」と笑って話したかった。
本当に悔しく、残念でならない。

幸せなことに、
今も私は温かい人たちに囲まれている。
あったか貯金は増え続けている。
ありがたくて幸せなことだ。

たった1枚のはがきを見つけたことで、
物凄い数の引き出しを開いた気がする。
そして、また少し前向きな気持ちに
なれたと思う。

「生きる力をもらう」っていうのは
こういうことだったってことを思い出した。

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