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対中外交におけるイギリス労働党の役割(RUSIの記事)

↓リンク先(Getting Tough: Labour’s Role in Shaping UK China Policy)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/getting-tough-labours-role-shaping-uk-china-policy

 2022年1月13日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、イギリス議会における、対中外交政策に労働党が果たす役割について論じる記事を発表した。内容は、最近のイギリスの対中姿勢は野党労働党の働きによるところが大きく、どのようにしてこの流れが形作られたのかを概観するものである。
イギリス議会のあり方は日本にとっても非常に参考になることから、本記事の概要についてご紹介させていただく。

↓リンク先(Getting Tough: Labour’s Role in Shaping UK China Policy)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/getting-tough-labours-role-shaping-uk-china-policy

1.RUSIの記事について
 ・キャメロン政権が親中政策を採用して以来、労働党はひそかに対中外交の方向性を決定づける重要な役割を担ってきた。現在は人権の思想に基づき、イギリス経済の重要部門における中国の投資に反対し、権威主義的振る舞いに懸念を表明するなど、反中外交を訴えている。しかし、常に敵対的というわけではなく、対中融和的な外交政策はブラウン政権下で始まったものである。
 ・ブラン政権は2008年に中国の対英国内投資合意に署名し、北京オリンピックに大臣が出席したことにより、メディアからチベットの支配を容認したとして批判されることになった。またキャメロン政権時代の「対中黄金時代」においても賛同する議員が多く、マンデルソン議員は超党派で関係性を深めるべきと主張した。また前労働党首のコービン議員は、2015年10月の習近平国家主席との晩さん会に積極的に出席した。2019年の香港における大規模な民主化デモへの対応でも精彩を欠いており、政府に1984年の英中共同声明を遵守するよう中国に求めるべきと訴えるのみであった。
 ・ただ、中国のコロナウィルスパンデミックの隠蔽、オーストラリアやリトアニアに対する貿易制限、イギリス人への制裁、新疆ウイグル自治区における人権侵害など、かつてないほど西側諸国の対中認識が悪化しており、労働党の対中姿勢も大きく変化してきた。この動きを主導してきたのが、影の内閣のナンディー元外務大臣とキノック元アジア担当大臣の2名である。
 ・両議員は、中国国営企業がエネルギー部門に投資することを禁止するよう政府に求めるだけでなく、ウイグル人権弾圧を「ジェノサイド」と表明する超党派の決議を取りまとめ、香港の人権危機への対応でイギリス人判事が香港を離脱するよう求めた。スターマー議員は、100万人ものウイグル人の強制労働に関わる中国高官に制裁を科すよう最初に要求した議員である。
 ・労働党からのこのような強硬政策により、保守党は対中政策の閣内不一致を突かれる形となっている。財務省はブレクジット後の経済苦境を脱却するため中国との経済的連携を強めようとしており、外務省は人権については強硬策を貫きつつ、気候変動対策では中国と連携を図ろうとしており、キノック議員は英中関係の監査及び省庁間で統一した戦略を策定するよう求めている。労働党は保守党内の対中強硬派を支援しており、「ジェノサイド非難決議」、超党派の北京冬季オリンピックボイコット、香港出身者のビザ拡大を認める法案修正などで連携している。また、影の対中政策委員会を創設するよう党内で働きかかけも行っている。
 ・労働党の戦略は、政権担当能力を示しつつ、公衆衛生や安全保障では政府に協力する姿勢を示すことで支持を拡大するというものである。AUKUSの結成を支援しつつ、ヨーロッパの同盟国を排除したことも批判するということも忘れないという点に、巧妙さが表れている。保守党は中国調査グループや超党派の対中連合を結成するなどの対応を見せており、連合には17名の労働党議員が入っている。
 ・この対中姿勢は労働党内の左派から右派まで一致したものとなっており、対中融和派は指示を受けられないようになっている。EUでも対中強硬派が台頭しつつあるものの、全体としては戦略的自立性を重視してアメリカと中国の間を立ち回ろうとしている。この戦略は一見現実的であるが、対中政策と国益に資する政策との十分な比較考量をしなければならず、結果として現在の保守党と同様の立場に落ち着いてしまうだろう。このことは、労働党にとって破滅的であり、イギリスの同盟国を失望させることになるだろう。
 ・影の内閣のラミー外務大臣は、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパの労働党と関係の深い政党と対中政策の連携を強めており、強固な地盤を築こうとしている。このような2年間の取組により、労働党は国際的な法と秩序に基づいたシステムを維持し、人権を守り、領土問題を発生させないように、同盟国と連携していくイギリスを形作るのに大きな役割を果たすようになっているのである。

2.本記事についての感想
 イギリスが羨ましくなる記事である。日本は与野党共にだらしがない。対中非難決議も採択できず、政府も北京冬季オリンピックの外交ボイコットで後手に回った。このような状況下においては、やはり責任野党に期待したいのだが、見通しは暗い。
 かつての民主党が「次の内閣」を前面に出していた時期もあったが、現在は野党が相対的に弱いため、あまりこういった動きは見られない。CLPの件で相変わらずの無能ぶりを発揮している立憲共産党には、全く期待できず、維新や国民民主にも怪しい部分があるが、政策提案型であることを考えるとこういった責任野党の側から何らかの提案があればと思う。
 また自民党もうまく野党を使ってほしいものだ。拉致問題を国会で取り上げる際には、共産党を使って質問を指せるといった腹芸ができた時期もあったのであり、与党側も知恵があればそれなりの成果を出せるだろう。自民党内の権力争いを気にするあまり、維新などに手柄を取らせたくないという近視眼的な政局観で政権運営をしていれば、野党を使いこなすことなどできない。
 いずれにしても、日本の責任野党には大きなチャンスが巡ってきている。政権批判型ではなく政策提言型の方が支持を得られることが前回の選挙でわかったのであり、今後もこの流れは変わらないだろう。この流れに沿って、もっと与党を責め続け、情報発信を強め、法案を提出し続けるという継続的な取り組みが効果を発揮することになるだろう。こういった行動に、支持率がついてくるのだ。

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