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ウクライナ情勢第22報(戦争研究所の記事)

写真出展:ELG21によるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/elg21-3764790/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=7036018

 今回は、戦争研究所が発表しているウクライナ情勢第22報について紹介する。内容は4月2日から4月7日を総括したものである。この間、各国の軍事支援やブチャの虐殺などの展開が見られ、ロシアの劣勢が明らかになった。今回は、主に情勢を巡る背景部分に着目していただければと思う。

↓リンク先(UKRAINE CONFLICT UPDATE 22)
https://www.understandingwar.org/backgrounder/ukraine-invasion-update-22

 1.概要
   今回発表したウクライナ情勢第22報は、4月2日から4月7日の重要な政治的事項、公表された情報について取り扱っている。概要については以下の通り。

  ・ロシアはブチャなどにおける虐殺をウクライナによるものであると偽情報を流しているが、こういった行動はウクライナ政府の態度を硬化させ、和平交渉を頓挫させることになるだろう。
  ・ゼレンスキー大統領は、NATO加盟の代償としての「安全保障」文書を複数の国家と取り交わしたと発表した。
  ・ロシアはブチャにおいて400名以上の民間人を殺戮したが、このことにより西側諸国は制裁を強化する結果となった。
  ・ロシアは残虐行為の責任転嫁のため、盛んにウクライナを責めるような偽情報を拡散している。
  ・ロシアは占領地に統治機構を構築しようとしており、ウクライナ人市長を殺害ないしは監禁している。
  ・ロシアのメディアは国内向けに、虐殺や民間人殺害を正当化する情報を拡散している。
  ・ロシアは、西側諸国によるせいさいが世界経済に及ぼす悪影響について盛んに喧伝している。
  ・イギリス及びアメリカからの更なる武器供与により、ウクライナ南部及び黒海方面のロシア軍により効果的に対抗できるようになるだろう。

 2.重要項目
  ① 和平交渉
   ・ウクライナは、他国との意義ある安全保障措置が確約されない限り、ロシアとの和平交渉を進めない見込みである。ウクライナが発表した安全保障文書の内容には、ウクライナへの即時的な軍事支援及びロシアへの更なる制裁などが含まれている。具体的には、24時間の兵器供与、24から72時間以内の制裁強化を求めた。ゼレンスキー大統領は、4月6日にアメリカ、イギリス、トルコ、ポーランド、ドイツ、フランス、イスラエルが、ウクライナに安全保障措置を取ると発表しており、近いうちに会合も開かれるとしている。これらの交渉にはそれなりの期間を要することから、今後数週間は、ロシアとの交渉には大きな進展がないと見込まれる。
   ・4月7日にロシア外務省のザカロワ報道官は、アメリカやNATOの軍事支援により、和平交渉が妨害されていると述べた。ラブロフ外相は、ウクライナの安全保障からクリミアを除外するという当初の合意を破棄しようとしていると述べ、ウクライナにおけるあらゆる国際的な軍の展開に対して拒否権を有するとしている。
   ・またゼレンスキー大統領は、ブチャにおける虐殺の責任を取り、領土を返還しない限り首脳会談しないと述べた。ペスコフ報道官は、ウクライナとの交渉を継続するが、ウクライナが義務を果たし、文書により合意するまで首脳会談を開催しないと主張した。

② ロシアの情報工作
 ・4月6日の国連安全保障理事会で、ロシアはアメリカが支援する生物兵器研究所について議論しようとした。アメリカとイギリスはこの会議をボイコットしたが、フランスとノルウェーは出席し、ロシアが偽情報を拡散していると批判した。中国とブラジルは、第三者による調査を求めた。中国の戴兵国連政府代表部副部長は、国際的な調査を実施し、透明性を高めるべきと主張している。3月以来、中国はロシアの生物兵器の主張を支援している。
 ・またロシア軍の放射能、化学・生物兵器防御部隊長のキリロフは、14の居住地域において30の研究所を発見し、アメリカ国防総省との関係があると述べた。その他ロシアメディアは、アメリカとNATOがロシアとベラルーシ周辺に生物兵器研究所のネットワークを構築し、核兵器の代わりに生物兵器でロシアを攻撃しようとしているという情報を拡散している。
 ・ロシアは民間人虐殺も正当化しようとしている。ウクライナの非ナチ化や編入を正当化する社説を拡散したり、国会でウクライナがロシア人を虐殺しているとする決議を可決するなどしている。

③ ロシアの経済制裁への対応
 ・ラブロフ外相は、ロシアへの経済制裁が世界経済に損害を与えると述べ、メドヴェージェフ国家安全副委員長は、食料がロシアの「静かな武器」であるとし、非友好国に対する輸出制限に言及した。
 ・国会では、制裁を科すあらゆる組織に対して刑を科す法律に関する決議を採択した。ガスプロムはドイツ最大の天然ガス貯蔵施設のレーデンへの供給を停止した。
 ・ハンガリーは、ロシア産ガスの輸入代金をルーブルで支払うと発表した。中国は秘密裏にロシアから値引価格で購入しようとしており、ロシアもこれに応じる動きを見せている。

④ ロシアによる占領
 ・ロシアは400人もの民間人をブチャで殺害したとされている。ドイツのシュピーゲル誌は、ドイツ軍のインテリジェンス機関がロシアの無線通信を盗聴したと発表し、民間人を殺害したこと、民間人殺害が事前に計画されていたことを示唆する内容だったとしている。
 ・ペスコフ報道官及びザカロワ報道官は、ロシア軍によるブチャの虐殺を否定し、アメリカが情報戦を仕掛けていると述べた。ロシアのルカシェヴィッチ政府代表部長は、和平交渉を頓挫させるため、ウクライナが偽情報を拡散していると批判した。ロシアのネベンツィア国連大使は、このような動画に騙されるのは「無知な人」だけであり、ロシア軍は民間人を標的にしていないと主張した。
 ・ブチャの殺戮に伴い、4月4日から7日にかけて、ヨーロッパ諸国は合計200名以上のロシア外交官を追放した。(リトアニア、ドイツ、フランス、ラトビア、スウェーデン、デンマーク、イタリア、スペイン、エストニア、ルーマニア、ギリシャ、ノルウェー、ルクセンブルク、アイルランド、オーストリア)
  アメリカ及び同盟国は国連総会において、ロシアの人権委員会理事の資格停止決議を可決した。ロシアの国営メディアは、ヨーロッパ各国の外交官追放措置をブチャの虐殺に伴うものであるとはしておらず、「特別軍事作戦」や「ブチャにおける状況」のためだと発表している。
 ・ルガンスク人民共和国軍は、ウクライナが新たなプロパガンダ情報拡散を計画していると発表した。動画にはブチャに登場した人物が再登場しており、ロシア軍やルガンスク人民共和国軍の残虐性を非難しようとしていると述べた。
  ミジンツェフ国防指令センター長は、ウクライナが西側諸国と連携し、ロシア軍が占領していた地域の住民を利用したプロパガンダを展開しているとした。更に参加した住民には25ドル相当が支払われていると主張した。
  ロシアの国営メディアによると、ウクライナ軍がチェルニヒウでロシア軍に協力した住民の虐殺を計画しているとしている。対してウクライナのメディアは、ロシアのトップが、軍に可動式の火葬炉を使って死体を隠蔽しようとしていると主張した。
 ・ムラドフ駐露クリミア大使は、ロシア占領下の南部ウクライナは経済体制を取り戻し、ルーブル経済に移行したと述べた。ウクライナのヴェレシュチュク副首相は、4月2日にモティジン村長が殺害され、その他11名の市町村長が拉致されたと発表した。ドネツク人民共和国は、新ロシア派のイワシェンコをマリウポリ市長に任命した。(現時点でマリウポリは占領されていない。)今後もロシアは占領政策の一環として、ウクライナ人の政府高官を殺害する可能性がある。
  
  ⑤ ロシアの脅威認識
   ・4月7日イギリスのワルラス国防相は、長距離兵器及びハープーン兵器をウクライナに提供すると発表した。このことにより、黒海近辺での軍事作戦やオデッサの攻撃が大きく抑止されることになる。
    ケリン駐英ロシア大使は、長距離兵器や対艦兵器の提供は、法的な標的になりえるとけん制した。
   ・4月2日から7日にかけてのアメリカの軍事支援は、ドローン、装甲車、機関銃、ジャベリン、対戦車ミサイルシステム、生物・化学兵器防護装備など、4億ドル相当になると発表した。4月7日の上院軍事委員会において、オースティン国防長官はドンバス地域での作戦遂行のために情報を提供していると述べた。
   ・アメリカ上院ではウクライナ民主化防衛借款法を可決し、支援に関する要件を緩和しようとしている。下院においても2週間後に可決する見込みである。
   ・NATOは、NATO基準に準拠した装備及び銃兵器をウクライナに提供すると発表した。
 ・オーストラリアのペイン外相は、戦術的デコイ、無人航空兵器、無人陸上兵器、軍事食料、医療支援を行うと発表した。
 ・チェコの防衛関係高官は、T-72戦車及びBVP-1歩兵用車両をウクライナに提供したと発表した。
 ・4月2日ポーランドのカチンスキ副首相は、アメリカに10万から15万への部隊増強を求め、ポーランドが核兵器用の基地を提供すると発表した。ペスコフ報道官は、このような措置は地域の緊張を高めることになり、ポーランドへの核兵器配備は「反ロシア的」行動であると批判した。ただロシアは、ブチャ虐殺の情報戦に資源を割かなければならなくなり、軍事増強に関するけん制が弱まるだろう。
  
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