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巨大IT企業と戦争(Foreign Affairs記事)

写真出展:Mohamed HassanによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/mohamed_hassan-5229782/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=4816658

 2022年10月19日にForeign Affairsは、TikTokの現状に関する記事を発表した。内容は、ウクライナ戦争に参加している巨大IT企業の現状紹介と今後の安全保障政策の提言である。イーロン・マスクがスペースXのスターリンクのサービスを提供し、ウクライナでインターネットを使用できるようにしたニュースが取りざたされたが、このような巨大IT企業の戦争への参画と言う新しい現象を理解するうえでの参考として、本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Big Tech Goes to War)
https://www.foreignaffairs.com/ukraine/big-tech-goes-war

1.本記事の内容について
 ・ウクライナ戦争の開始直後の2月26日、ウクライナのフェドロフデジタル変革大臣はイーロン・マスクに「スターリンクを稼働する」ようツイッター経由で求めた。同日、マスクはスターリンクをウクライナで稼働したと発言した。ロシアのジャミングを回避しながらサービスを提供していたが、今後このサービスを提供するか否かについては明言を避けている。
 ・スペースXのような巨大IT企業による戦争への参加という、新しい状況が発生している。マイクロソフトやシリコンバレーのスタートアップ企業は、個々の経営判断により戦争に参加しており、ロシアはこういった行動に対して報復するという図式になっている。これは前代未聞の状況であり、アメリカ政府及び企業にとって大きな試練となるだろう。
 ・バイデン政権はこういった状況を受け、巨大IT企業に協力を仰ぎつつも、戦略的利益を損なわないように運用する方法を模索する必要がある。政治家は企業が戦争に参画する動機を理解し、アメリカの外交政策に資するように行動してもらうためにどのような政策が必要かを考慮する必要がある。
 ・アメリカには、戦時において企業と協調してきた歴史がある。第二次大戦時には、フォードは工場を車両、航空機エンジン、B-24航空爆撃機の生産に転用した。湾岸戦争やアフガン戦争においては、ケロッグ、ブラウン、ルートなどの企業と契約し、基地への人員や物資の提供を担わせた。しかしこういった事例は、今回のウクライナ戦争とは異なった形態である。
 ・ウクライナ戦争には、大小さまざまな企業が参画している。プラネット、カペラスペース、マクサーなどの衛星企業は、衛星画像によりウクライナ政府を支援しており、地上作戦から世論工作まで様々な用途に衛星画像を活用することが可能となっている。またPrimer.AIは、ニュースやSNSの分析からロシアの軍事関係者の発言の解読などを支援している。Clearview AIは、顔認証技術を提供し、情報工作への対処や犠牲者の特定などを支援している。
 ・マイクロソフトは積極的にウクライナ政府を支援しており、ロシアからのサイバー攻撃防衛を担っている。特に重要インフラの防衛、ロシアのインターネット基地局の機能停止などが目覚ましい活躍であり、7月にはサイバー部隊に先立って報告書を公表している。
 ・企業は個々の経営判断に基づき、将来のビジネスにつなげるためにウクライナ戦争に参画している。マイクロソフトは自社製品のセキュリティを向上させることができ、その他の企業もイメージを向上させることができる。投資家もESG投資の一環としてウクライナ戦争への支援を取り上げている。経営者自身が独裁政権から自由を守ると言った価値観を示すこともある。
 ・現在の所、巨大IT企業とアメリカ政府の行動は調和が図られているが、今後の危機に備えてより適切に連携していくべきである。今回は経営トップによる判断が多いものの、政府と企業はトップ以外の中堅職員との連携を深め、良好な関係を構築するべきである。このことにより、海外の競合他社の脅威を十分に理解できるようになり、危機管理能力がより向上することになるだろう。
 ・2015年の宇宙軍創設以来、民間企業が軍の宇宙事業に参画できるようになっており、現在9企業が参画している。民間企業は、情報共有分析センターにおいて重要な役割を担っており、重要インフラへの機密情報提供などを担っている。
 ・今後最も懸念される危機は、中国との紛争である。民間企業は中国において多くの利益を上げていることから、今回のウクライナ戦争のように積極的に支援を行わない可能性が高い。企業の有効性と限界を把握することにより、判断ミスを回避することができるようになるだろう。例えばスターリンクはクリミアなどで稼働していないが、マスクは戦争のエスカレートを回避しつつ、これをネタとして政府からの支援を引き出そうとしているのかもしれない。こういった企業行動の動機を十分に理解することにより、今後の紛争を適切に乗り越えることが可能になるだろう。

2.本記事読後の感想
  今回の記事は、アメリカの底力というか強さを感じるものだった。
対して日本企業でこういった活動をしているのは聞いたことがなく、せいぜい日本政府の要請によりしぶしぶ協力しているといった程度だろう。日本人の倫理観についてはたびたび賞賛の対象にはなるものの、実際には個人レベルのものに留まっており、組織や総体として大きな行動を取ることはない。海外企業はこういった機会を会社の製品の実験や宣伝の好機と捉えており、積極的な営業をかけているのである。
 もっとも日本にとって今回の戦争はヨーロッパのものであることから対岸の火事のように感じていることが要因になっているかもしれないが、台湾有事の際にはヨーロッパなどの諸国からは支援を受けられないということになるわけであり、後になって痛い目を見て後悔するということにならなければいいのだが。いずれにしても、多くの日本企業はこういった機会をみすみす見逃しており、こういった経営判断の誤りが日本の衰退につながっていると認識するべきだろう。
  日本政府ができることは、日本企業にウクライナ戦争に様々な形で参画するよう支援することである。今回の戦争は聞こえが悪いが、台湾有事の良い予行演習になると考えている。企業の能力を最大限に引き出し、複雑多岐にわたる現代の戦争をうまく乗り越えられるよう、平時から習熟しておくべきなのである。

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