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捉えどころのないモノに補助線を引くために

こんにちは、フリーランスのデザインリサーチャーとして、名古屋と京都の2拠点で事業開発やブランディング等に携わる浅野翔(アサノカケル)です。
4年ぶり!?のnote投稿は、コミュニティデザインの事例から、補助線を引くデザインリサーチについてです。

「ここは15haの広さがあります」と聞いて、どれだけの人がその広大さを感じることができるでしょうか。ものに置き換えて「ここは東京ドーム3個分の面積があります」とすると、一度も東京ドームを訪れたことのない私は残念ながらその大きさがよく分かりませんが、具体的な数字を聞いた時よりも「でけーんだろうなー」と何となくは把握することができます。物事を完璧に理解できないのは当たり前、補助線を引くことでぼんやりとでも輪郭が見えてきたらまずはよし。いくらでも具体化していく手段・実践はあるからです。これは新しく事業をはじめる時でも同様です。

ニーズが分からないなら現場で聞いてみる
ーごえんの投票というやり方

ニーズ探索はデザイン思考の教科書1ページ目くらいに出てきますね。しかし、「起業や新規事業をはじめよう!」と意気込んだものの、果たして何から始めたら良いのでしょうか。

私が携わるARIMATSU PORTAL: PROJECTでは、とあるメディアとなる投票箱を事務所の大きな窓に設置することにしました。その名も「ごえんの投票」です。

[事務所として間借りする山田薬局で「あなたは何をするか」投げかける投票箱でもメディアでもある「ごえんの投票」]

活動拠点を置く名古屋市緑区有松は、2016年に重要伝統建造物群保存地区に選定され、名古屋市も隣接する桶狭間と合わせて歴史観光エリアとしてアピールをしています。そこで私たちは「有松で何をしたいか」、「自身ならこの建物で何をはじめるか」を投げかけました。約1ヶ月間の集計結果から、有松で〈遊びたい/暮らしたい〉が同率上位だったのですが、有松の中心にある古民家で始めたいことは〈居住・宿泊〉ではなく、〈飲食店〉に続いて〈雑貨屋〉が上位に来る結果になりました。

統計的な結果は上記の通りです。「飲食店かなぁ」とは思っていたけど、ここまではっきり出るとは思わなかった。「駐車場どうするのか」っていう声もあったけど、「すぐ近くにイオンの駐車場」があるからなぁと思った記憶。

数字の裏には何が隠れているのか

ごえんの投票は、統計学としては怪しい方法ですが、投票した人に理由を聞いたり、途中経過を地域の人に投げかけたりすることで、このエリアがもつ課題と可能性が少しずつ見えてきます。

遊びたいし暮らしたい人は多数いるけれど、歩いて行ける範囲に落ち着いて食事のとれる飲食店が片手で数えられるほどしかないけど、近くに大学もあるからビジネスチャンスかも。有松の商屋は暮らすにも働くにも、大きすぎて結局個人では借りにくいのではないかなどなど。統計結果そのものよりも、統計を元に追加インタビューを仕掛けていくイメージです。

その中で最も「はっ!」させられたのが、「借りたくても誰にどのように相談すればいいのかわからない」と「貸してもどんな使い方をされるかわからないので貸しにくい」という、借り手と貸し手のギャップでした。マッチングがうまくいくような仕組みそれ自体がこのエリアには求められているのではないか。これが僕たちがごえんの投票で得たコミュニティを理解する補助線(洞察)でした。

資料を見ていると、人口推移は増加しているのに、事業所は激減しているエリア。話を聞いていると昔は働く人がいたので定食屋は多かったが、派手な生活をしていると嫌われるから、昔から飲み屋は少なかったらしい。なるほど…。

現在準備中の家守会社では、「30年後も歩いて楽しいまちに」「つくりながら暮らすエリアに」をビジョンとして掲げ、借り手と貸し手のマッチングを図りたいと考えている。

いじわるな問題に向き合うための補助線

この洞察は思わぬ着地点に聞こえるでしょうか。自分たちのスキルやノウハウから事業領域を発想をしていたらたしかに、この結果は斜め上に感じられるかもしれません。しかし、この地で暮らす、訪れる人を中心に考えると最もダイレクトに響く結果と言えるはず。マッチングの重要性を理解しつつ、食事やショッピングのニーズはどのように解決できるのかを計画する。クリエイティブな不動産業ですね。

自分ができることとやりたいこと、そして社会が求めることのギャップは、答えがコロコロと変わる「いじわるな問題」です。捉えどころがわからないモノであればあるほど、思索的なアプローチと小さな試作による補助線が活きてくるのではないでしょうか。

まちづくり・コミュニティ領域では、A/Bテストのようなニーズ探索を実装ができないだと思われがちですが、たくさんトライできることがあると思います!

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