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傘と包帯 第二集

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詩を書いてもらいました。目次からどうぞ。(ヘッダーのイラストはさかもとめぶきさん@apspkpakgが描いてくれました。)
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目次

2017.08 015+1 ೫ Profile 序文 幽霊たちの国 / 早乙女まぶた リズ / 水槽 墓標 / naname 温泉に行ったよ / 菫雪洞 きみのいる公園 / 岩倉文也 地中の愛 / 井上瑞貴 ワンダーランド / ひのはらみめい 沈殿物 / だんご 死生の配分 / 煩先生 喫茶店の魔女 / おだやか スケッチ / 鯨野 九 嫌になる、が。 / いいな 椰子の実 / 完全なQ体 復讐 / 藁反詩 夢の終わり / 早乙女まぶた ヘッダ

序文 幽霊たちの国

目に映らないほど美しい子供がいました。 子供が鏡の中に自分を発見すると自我は醜くなっていきました。 醜い自我は鏡の中に未来を見ようとしました。 それは計算と論理による占いに過ぎませんでした。 頭の中に満たされた未来へと進みながら自我は 世界と区別されるように自分自身を括弧で括ってしまいました。 彼は軽蔑している群衆の視線に裁かれるように自ら身を投げ出していたのです。 退屈が視界にひびを入れて<私>は鏡を割りました。 躁鬱の砂浜に立てたビーチパラソルと透明な血液で汚れた包帯

リズ / 水槽

赤い車で迎えに来て 誰かに夕暮れだとおもわれたい y're no more a fish than blond hair is わたしときみで、秘密の帝政 yet, with a little more sunsets, we may prove us ポールモールでかくれんぼ ていく まい はんど (jamming) すこし、休んでいかない わたしは 軽率だから draw a national border (in) you and me それくらい

墓標 / naname

 目的地などなかった。改札から駅に入り、ホームに登り時間を見て、一路線のみが走る電車の上りと下り、到着時間が早い方に乗るつもりだった。どこで降りるかも気分次第だった。  ところが、上りと下り両方が、同じ時刻で到着することが電光掲示板を見てわかった。待っていると、間もなくその通りになった。遅延もなく、ホームの真ん中に立つ僕の両側から平行して、轟音の挟み撃ちでもって到着が予定通りであること告げた。並んだ十三の車両、色、ドアの開くタイミングはピタリと一致している。出ていく乗客の数ま

温泉に行ったよ / 菫雪洞

ぼくには意志がありませんでした どちらがいいか決められなかったのです 只とある方々が無理をして、出来ないものを作ってしまった がんばったから出来損ないなのでしょう あの方々はどうしてあんなことをしたのか、そこに快楽はあったのか、不思議に思います ぼくは無理をしませんでした それだけがあの方々と異なるところ 彼らはきっととてもがんばったので、じきに死んでしまいます 否、ひょっとしたらもう死んでいるのかもしれません 自然の流れに逆らってぼくを生んだから、そのとき死んでしまった な

きみのいる公園 / 岩倉文也

きみの永遠は差しおさえられ わずかに歪んでいる ──そう ほんのわずかに 流れてくるのは骨組 きみの あるいはぼくの失った 鉛色の骨組 それは ぐにゃぐにゃと柔らかく みずを含んでふくらんでいる きみは 見たことがあるか ぼくたちの澄明な街が ふいに ただれた内臓を露にする瞬間の ──顔のない白昼を 警告はつねに砕かれ この街の 巣のない鳥たちに啄ばまれる 濡れたながい腕は いったい どこから垂れてくるのか 空はのっぺりと晴れている 空気は乾燥だ 途方もない乾燥 しかし

地中の愛 / 井上瑞貴

地中にしかない場所で 永遠は広さではなく高さでもなかった 地形に根拠を与えて 地中の約束を果たしにきた わかっていましたよね 点と点とが排他的に出会い 別々の方角に弾き飛ばされていくときのかがやきを 一瞬の愛だったと思い出しにきた 地中の風が吹く丘に向かう道に どうしても花を咲かせようとしてしまう草が群生している 泥の血液を循環させ 十年後の愛で口をとざしている草とともに丘をめざした 冷えているうちに すべてを告げ終っていた草とともに眠って目覚めた 川音に靴音が混じってき

ワンダーランド / ひのはらみめい

わたしはあなたのワンダーランドには行けないんだ、指一本でも触れさせてもらえない、なぜなら、入場の証を持って生まれてこなかったからなのです。 あなたが子供を欲しいという時だけ、わたしはあなたの役に立ちそうに思う、一旦そう思って、でも言えない。 あなたはわたしを抱く時何を思うのだろう、 そこに愛やときめきや官能さえもないのだ、 それならば、 仕事としておこなう行為ならば、 わたしの欲望が大きすぎてしまっては、ふたりで傷だけつくって、傷から生まれた傷太郎は、何を愛だと学んで生き

沈殿物 / だんご

全然分かってないよ。 リボン結びは今日も縦になる。 コンドームに穴を開けたらいいんじゃない? ズボンのポケットにティッシュ入れたまま洗濯しちゃった。 無秩序に積み重ねられた本。 涎まみれの枕。 父親とセックスする夢を見た。 だって、大きくなったら私にもちんちん生えると思ってた。 子どもの日の次の日に生まれた子。 かくれんぼで孤独を学ぶ。 葉が落ちて、試験も落ちて、涙も落ちた。 オリオン座しか分からない。 サッカーの練習中に見た皆既日食。 ぷちぷちを潰すように蟻を殺した。 共感

死生の配分 / 煩先生

迷夢の化石に 僕は依存する 否定され笑む 悪癖を律して 罪深い覚悟で 独演に白熱し 合成の自我を 烈しく毟った 神話の胎児に 君は作用する 畏敬され泣く 聖賢を欲して 程遠い旅路で 失恋に敬服し 実在の義務を 眩しく齧った

喫茶店の魔女 / おだやか

その女は 魔女だった 小さな子どもを連れて やってきた コーヒーが飲めない子どもに ソーダ水を注文する チーズケーキは売りきれです 雨雲のソーダ水 歌う子ども かえるとかえるの絵本 オレンジ色の明かりに 包まれている その女は 魔女だった

スケッチ / 鯨野 九

* いじきたない耳が 海にまで繋がって 魂をよぎる列車の 轟音が聴こえない * 幸福に慣れきった人々の寝息が、私を夜に標本する。 * 昼下がりの列車に乗っている もっと懐かしいステーションに まどろみと静謐のあわいにあるどこかに 辿りつける錯覚にとり憑かれて まばゆい列車に乗り続けている (あかるい光は  網膜をすすいでも忘れられない気がして   いつからだろう目をそらした) 昼下がりの列車に乗っている 凪いだ日々に眠ったふりをする でも てのひらには 終点まで

嫌になる、が。 / いいな

input ぼくは 見る 読む 聴く 感じる imagination ぼくは 認める 考える 思う 想像する inspiration ぼくは 駆られる 辿る 行き着く 閃く identity それらは形になる 確立する 概念が生まれる そうするとそれは超殺人級刹那 手のひらの隙間から するすると落ちていって 急激にぼくのものではなくなっていく こんな四つばかりのプロセスなんて まるで最初から存在すらしていないみたいに バッカみたいに踏みにじられて 自惚れたコンセプトからは

椰子の実 / 完全なQ体

ピアノの肋骨をなぞる青白い指。透明な。 魚を分解して作った最新の音です。が星を暖め、それを遠くから見ていた。 ガラス越し。人工の星。 落ちていく夢を見た またどこかで―― 芽の吹かぬ椰子の実ひとつ北の海 旅路も里の浜も知られじ ―――― 8月2日 母船からの通信なし 8月3日 母船からの通信なし 8月4日 母船からの通信なし 8月5日 母船からの通信なし ―――― 眠って起きて眠って起きて眠って――起きた、繰り返した朝。 誰とも出会わず 誰も知らない浜辺に、幾度と