嫉妬と幽霊 / 珠子

焦燥に追われて帰路に着く

この坂道の上
わたしは本当にひとりだった


街明かりのイルミネーションが陽炎に揺れ
むせ返るような若草の香りが思考を鈍らせる

ここには わたしひとり
ひとりしかいない

それは 孤独とはまた別のもので

誰しもが抱えて生きている

わたしというひとつの生命


腐り落ちた脚を引き摺って帰る
落ちた花の首を拾って捨てる

花が腐っていくことにも
月が痩せていくことにも
気が付かないような生活など

生活などは


浴槽の中 濁り切った感情が薄く引き伸ばされ透明になっていく様を 毎日遠くから見ていることを彼は知らない

でも それは わたしにとって関係のないこと


あの子は 今日も息ができないと
口癖のように語っていた


傷跡をなぞるとどこか気持ちが良いのはなぜ

あなたの記憶に細かな傷を
いくつもいくつもつけ続けているのは誰


無くさないと分からないなんて可哀想

触れてみて初めて分かるだなんて可哀想


わたしもあなたも 歪んだ今日を無理やり過去でくっつけてできた うす汚れた幻のようなものなんだ


心も体も確かにここにあるけれど

本当のことは全部嘘みたいに見えるよ

変なの


部屋の隅 二つ目の蕾がひらく日の夜に

震えるほどのしあわせをください
致死量2人分のしあわせをください

生まれ直すことのできないわたし達
今だけは 今が見えないわたし達


醒めない夢を見ていただけ


明日に溺れてしまった
朝日を浴びて ただれてしまった


さようならの季節だね


あなたも わたしも もう此処には居ない