夏の巡礼 / 岩倉文也

落ちている花弁の青 その青ささえ
夏の無関心な人声にまぎれて
割れたくちびるの底へ落ちてゆく
なぜ、人は同じように笑うんだろう
分裂する影の飛沫
をその身にあびては
飛び立ちかねて顔を見合わせる
風もずいぶんぬるくなった
草のみどり 嬰児のやわらかな発熱
集まってきた人たちは
お互いに唾を交換している

また声。笑われる声。笑い声?
笑い転げて、直射日光に永遠はくずれる
というのは仮説。肉体があるのだから
笑うのは当然だよ
それがどんなに
ぼくたちの醜悪を刺激したとしても

うたごえの流動、流線型の
あまねく愛はコップのふちに群がる
くちびるを待ちながら。誰でもいい
飢えたくちびるを待ちながら
コップの
徐々にひび割れるその響き。

背に張り付くものが
汗まみれのシャツではなく
飛翔のため畳まれた翼であったなら

呪いは歌声となって確実にぼくの夢を捉える
立ち上がる。靴裏に滲む青の花弁よ
影は鋭利な絶望となってぼくを取り巻け
追い出してくれぼくを
空なんて二度と見たくない。
いつでも、目の前にある深い階段。
意味ありげだが無意味なものどもの裂傷。
劣情する太陽に睨まれるだけのぼくじゃない

速やかに終末する。
そのための文明だと知った。

いまでも夏はうたごえを乗せて
この世界を巡礼中とのことだ。