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閉鎖病棟入院一日目「地獄の門を抜けるとそこは普通だった」


※投げ銭です。全文無料で閲覧できます。※

※このお話は自分の体験を元にしたフィクションです。人物は全て仮名です。※


 「入るのはおそらく個室」と言われていたのですが、大部屋になりますというのを言われたのがナースステーションで行われる持ち物検査の前。
 誰かと一緒の空間なんて怖いから帰ります、なんて言える状態でもなく、 「そうですか」とコミュ障特有のもそもそした滑舌で答える私。

 言える状態でも帰るという選択肢はないんですが。


 もってきた荷物を全部ナースステーションの机の上に。
 事前リサーチのおかげもあって取り上げられるものはゼロ!
 ゲームの充電ケーブルは使用時以外は預かりかなぁと思ったんですが、短いものだったからなのかこれもお咎め無し。

 あとはポケットをひっくり返して中身が何もないことを見せ、同じ女性の看護師さん(以下敬称略)に体をポンポンと叩くように検査され(空港の金属検査みたいな感じです)「危険物ナシ」のお墨付きを得ました。

 なんだか刑務所みたいだなぁ……刑務所なんて想像以外で関わりたい場所じゃないけど……。
 と思いつつ、看護師さんに手伝ってもらいながら荷物を再度カバンへ。
 看護師さんの華麗な収納テクに自分のモタモタした動きが浮き彫りになって軽くヘコミます。


 大部屋へ。一名様ハイリマース。

 大部屋はベッドが4つ。私は扉からむかって左の窓際。
 看護師のベッドやロッカーの使い方説明を聞いていると、「新しい方ですか?」と、向かいのベッドに座る方から声をかけられてそのままご挨拶。

 見た目40代ぐらいの、ゆるいパーマに白髪のうっすら混じった茶色い髪、中肉中背といった極普通の方は「森本です」という言葉と共に源氏パイとチョコレートをくれました。
 源氏パイ、大好きです。でもチョコレートのほうがもぉーっと好きです。森本さん、いい人!!

(余談ですが昔も今も私はお菓子をくれる人に異様に懐く傾向にありまして、特にチョコレートは友人から1キロの業務用チョコを、それも数回もらったりしてます)

(更に余談ですが私のチョコ狂いは「あんたの前世って『ギブミーチョコレート!ギブミーチョコレート!』って叫びながらジープに駆け寄って転んで頭打って死んだ子供なんじゃないの?」と母親に言われる程度にはひどいです)


 看護師が帰り、もらったおかしを食べつつお互いにしゃべっていると他の同室の方も帰ってこられました。ご挨拶ご挨拶。

 ほっそりとした拒食症体型に黒髪ロングの方は鈴谷さん。二十代ぐらいかな……あんまり自信ないです。
 そしてもう一人。ショートカットのぽっちゃりした顔でニコニコ笑って挨拶してくれたのがレンさん。自分のことをオレと言う子で、 もしかしてオタクなのかなぁ、とオタクどっぷりな私は親密度を勝手に上げてみたり。
 鈴谷さんは斜向かい、レンさんはお隣さんです。

やっぱりそんなに地獄なんかじゃないのかもしれない。


 そして早速、レンさんと話しているうちに私がもってきたゲームに興味をもってくれたので少し貸してみました。テトリスです。
 退屈していたという彼女はすっかりハマった様子で、「せっかくだからみんなにも見せたい!」と言われ、あれよあれよとロビーで連れだされました。
 そのロビーでレンさんのお友達だという方々を紹介され、挨拶をし、そのお友達だという方々もテトリスで遊ばれました。

……みんなテトリス好きだなぁ……。

 私はというと、もともと人の顔と名前が覚えづらいタチなので、紹介されたみんなの名前をテトリスをする姿をみているうちにすっかり忘れておりました。
 スポンジよりもスカスカな脳みそです。


 あきらかに拒食な方というのは、やはり体型でわかるもので。
 でもそういう方でないとみんな普通なんですよ。普通にテトリスしてるんです。笑ってもいます。
 なんだか、みんなどこが悪いんだろう……と、失礼な話ですがちょっと拍子抜けしてました。
 こんな場所でなければ「いろんな年齢の方のいるサークル」みたいに見えます。


 その後病室に戻ると森本さんはおらず、レンさんと鈴谷さんと三人でお話。
 レンさんが「傘月さんはなんできたの?」という、ド直球な問いをしてきてくれたので簡単に説明。

 幻聴が聞こえたり、幻覚が見えちゃったり、左手首をズタズタにしてみたり、そんなかんじです。
 というありふれた統合失調症と自傷癖の体験談。

 私の暴露に誘発されて鈴谷さんも自分のことを少し話してくれました。鈴谷さんはやはり拒食症とのことで、でもだいぶ改善されてきているとのこと。

 レンさんは?と話の流れで尋ねてみると、「家の事情かなぁ」という言葉で濁され、「ところで傘月さんっていくつ?」と尋ね返されました。
 はぐらかされたなぁ……と思いつつ「18です」と答えると、「あっよかった近い!!」とくしゃくしゃにしたような笑顔に。かわいいんですよこれが。
 レンさん、なんとなく歳が近いかなぁとは思っていたのでこっちも嬉しくなっちゃったり。

「レンさんはいくつなんですか?」と尋ねると「じゅーご!」という元気な答えが。
 じゅーご、ジューゴ……15!?
 「えっもしかして中学生?!」とびっくりする私に「そうだよー!」と答えるレンさん。
 いや、さすがに自分と同じか上だとおもってたので……。
 というか、入院するまで「自分がきっと一番下」と思ってたので……。  「私も最初聞いた時はびっくりしたのよ~」と鈴谷さんはのほほんとされてます。
 いやぁ、いろんな人生があるものだ。


 はじめての病院メシは味噌汁にササミのピカタに白飯、そしてわかめサラダ。
 可もなく不可もなしなお味。とりあえず白飯にふりかけをかけて食べました。
 レンちゃんはお友達さんたちと食べていたのですが、鈴谷さんが気を利かせてくれて前に座ってくれたおかげでちょっと楽しい病院メシデビュー。
 鈴谷さんにふりかけをプレゼント。のりたまが好きだそうです。


 明日は両親がお見舞いにきてくれるそうです。正直、あまり気がのりません……。
 どうにも両親との相性が悪く、一緒にいると疲れてしまうのです。
 そういうのもあって入院したのですが、来るなと言うのは気が引ける。
 医者に言うべきなのかもしれないですが、それを言うと悲しむ顔が目に浮かび罪悪感をナイフにして己に突き立てたくなるので、我慢します。しちゃいます。

 明日といえば、手紙は出してもいいのかを聞き忘れたので、それについてナースステーションに問い合わせてみましょう。

 手紙を出したいのは唯一の友である須藤ちゃん。
 須藤ちゃんは私の中学時代からの友人で、メンタルヘルスにも造詣が深い子で、閉鎖病棟入院するなら見に行きたい!と言ってるちょっと変な子です。
 ちょっと変な子が行きたがるところにいる私がもっと変な子なのかもしれませんが、病名ついてるメンヘラが変じゃなかったら何が変なんだという話でした。

 次の診察では、須藤ちゃんが来てもいいか先生にお伺いしましょう。


 寝る前はお薬の時間。みんな私物のプラスチックコップを片手にロビーへ集まります。
 私も百均で手に入れたプラスチックコップを持ってロビーへ。
 看護師が二人いて、男性患者、女性患者別に並び、順番がくると名前を言って薬を出してもらうというシステムです。
 私の番、なんだか見慣れない薬が掌に載せられました。大粒の黄色の錠剤と、赤い錠剤が二つ。
 リスペクト南条あや!な私は「ぬる向精神薬フリーク」でもあったのですが、この薬はちょっとわからず……看護師に尋ねるのも変だよなぁと思いつつ飲み下しました。

毒でもシラネ。


そういえば。
鈴谷さんが「この病棟には危険人物がいる」とおっしゃってました。
見ればわかるよ、とのこと。しかし食事のときにも不審な人はみなかったのです……うーん。
男性とのことなのですが、わからんかったです。

ま、そのうち会うでしょう。


さて、ロビーに顔を出してから寝るとします。





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