揺らぐNPOの信頼、消えぬ疑念〜説明を避けるPWJ/ピースワンコ大西健丞氏と側近たち

1、認定NPO審査が長引く理由は何か?

 NPOピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)の認定更新審査が異例の長さに及んでいることを6月13日の記事でお知らせしました。その理由は、法令違反問題にあるのかとも思ったのですが、そうでもないようです。所轄官庁である広島県とのやり取りも含めて紹介します。

 PWJの事業規模は48億円(2020年1月期決算)ですからおそらく日本最大級のNPOといってよいでしょう。多額の寄付金収入に活動を支えられています。うち収入ベースで12億円、支出ベースで10億円弱を占める保護犬事業(ピースワンコ)は大勢の寄付者からの浄財で支えられていて、税が優遇される「認定」の資格を失うと活動に支障が生じます。

2、「適切な情報公開」など認定の審査基準に

 内閣府は認定NPOに以下の要件を満たすことを求めています。

・パブリック・サポート・テスト(PST)に適合すること(特例認定は除きます。)
・事業活動において、共益的な活動の占める割合が、50%未満であること
・運営組織及び経理が適切であること
・事業活動の内容が適切であること
・情報公開を適切に行っていること
・事業報告書等を所轄庁に提出していること
・法令違反、不正の行為、公益に反する事実がないこと
・設立の日から1年を超える期間が経過していること

審査基準の大半は抽象的で、所轄庁である都道府県などの判断、運用に委ねられているのです。

■法令違反、不正の行為、公益に反する事実がないこと

 ピースワンコの活動をめぐって、PWJは2018年に狂犬病予防法違反と動物愛護管理法違反の容疑で2度、広島県警の捜査を受け、書類送検されました。審査基準で真っ先に思い浮かぶのは、「法令違反、不正の行為、公益に反する事実」との関係です。

 検察の処分はいずれも「不起訴」でしたが、内容としては狂犬病予防法に関しては起訴猶予、動物愛護管理法に関しては嫌疑不十分という判断でした。

 狂犬病予防法違反は、書類送検された大西健丞代表理事らPWJ側も事実を認め、監督者である広島県の指導に従って事後的ではありますが違反を解消しました。起訴猶予は、そのことが考慮されたのでしょう。

3、法令違反についての広島県の見解

 このような場合、つまり「当事者も司法当局も法令違反事実を認めているものの、法による処罰自体は見送られているような場合、法令違反となるのでしょうか」と広島県に質問を送ったところ、県民活動課からは以下のような回答がありました。

 「法令に違反する事実が確認された場合でも,法人が直ちに是正措置を講じ,法令違反が解消されている場合は、活動実態等を総合的に勘案した上で、認定基準に適合すると取り扱うこともできると考えます」

 あくまで一般論としてのQ&Aですが、狂犬病予防法違反の事実をもとに「認定」の更新が拒まれることはなさそうです。

 動物愛護管理法違反のほうは、告発した日本の保護犬猫の未来を考えるネットワークが検察審査会に不服を申し立てて受理され、なお審査が続いています。広島県は認定資格の審査にあたって、検察審査会の結果が出るのを待っているのでしょうか?

 「法令違反に問われる可能性がまだ残っている場合でも、NPOの認定審査が終了することはありうるのでしょうか」と質問したところ、広島県からの回答は以下のようなものでした。

 「法令に違反していることが明らかでなければ,認定に係る審査は通常どおり行い,処分を決定することになると考えます」

 疑いがあるという程度では、審査のスケジュールや判断に大した影響は及ぼさないようです。

では、他の項目はどうでしょうか?

4、組織のガバナンスは適切か?

■運営組織及び経理が適切であること

 PWJは2017年度(2018年1月期)に債務超過に陥りました。しかし、その年度に大西健丞代表理事は1680万円の報酬(給料)を受け取り、翌2018年度も減額したとはいえ1440万円を受け取っていました。

 PWJでは「理事」としての報酬は、全員がゼロです。職員と同じように働いたことに対しての給料として大西代表理事も報酬を受け取っているのです。

 PWJの従業員の1人当たり給与は210万円程度(2018年度)です。

 しっかりした根拠があるなら代表理事の給料が高額であろうと構わないのですが、従業員の給料などと比較して働きに見合っているかどうか知りたいところです。

 内閣府公益法人インフォメーションから入手できるデータによると、大西氏は公益社団法人Civic Force(東京都渋谷区)で常勤の代表理事として働いていることになっていいます。

 PWJの勤務がパートタイムとするなら、かなり高額な報酬ではないかと私は思いますが、会員や支援者はどう思っているのでしょう?
 

 PWJは、債務超過または、きわめて脆弱な財務状況にあるNPO瀬戸内アートプラットフォーム(2020年6月に愛媛県に本部を移転、大西健丞理事長)NPOアジアパシフィックアライアンス・ジャパン(佐賀市、大西健丞代表理事)にも資金を貸し付けています。利益相反による損害が生じないよう適切な手続き、担保・保証をとっているのかも行政文書や発表資料をみるだけでは判然としません。

 前述のCivic Forceは東日本大震災で集まった寄付金などを活動の原資にしている公益法人ですが、その団体が公益目的に使うために銀行に預けている財産の大半をPWJが2018年度から借用している事情もよく分かりません。2019年1月期末に3億円、2020年1月期末に2億5円万円を借用して利息も払っているのですが、決算期が異なる(8月)Civic側の決算書類にはPWJ向け融資の記録が残らない仕組みです。

 Civic Forceの監事は、PWJ向け貸し付けを「理事会で決定した」と答えてくれていますが、借り手、貸し手両方の代表者である大西健丞氏はこの資金のやり取りの目的などについて口をつぐんだままです。

5、「海の駅」の運営、あいまいな境目

■事業活動の内容が適切であること

 2019年度の特定非営利活動事業報告からいくつか紹介してみます。「瀬戸内事業」として、瀬戸内海の愛媛県上島町・豊島(とよしま)で現代アート作品を展示公開しているほか、上島町から委託され「海の駅」を管理していました。
 
 「海の駅」の管理業務は民間のマリーナ業者なども受注拡大している分野です。2020年度は受託を返上したようですが、営利・非営利の線引きはとても曖昧です。

 NPO瀬戸内アートプラットフォームに貸し付けた資金は、大西健丞氏が経営にかかわった株式会社がかつて経営していた高級宿泊施設「ヴィラ風の音」を第三者から買い戻して、PWJ所蔵の現代アート作品の公開とセットで、宿泊事業を行うことが目的でした。

 これらの運営には愛媛県上島町の「ふるさと納税」の寄付金も使われています。しかし、集客が不振だったためでしょうか、「豊島ゲストハウス」と呼ばれた「ヴィラ風の音」は昨年春、投資家村上世彰氏一族のグループ会社が買い取っています。

 しかも、民間企業が関わってヴィラ持ち主がころころ変わてきた事実を地元の議会も住民も十分には知らされていないようなのです。

 地域社会の活力を高めるという目的で、PWJはグループをあげて事業を広げていくわけですが、事業計画は集まる寄付金の額次第であやふやなものが目立ちます。

6、積極的な情報開示、説明がNPOの責務

■情報公開を適切に行っていること

 代表者が同じ団体との間でのお金の貸し借りや寄付行為、さらに営利事業であってもおかしくない事業の運営の収支などを含めて、行きつくのは「情報公開」を十分に行っているかどうか、という問題です。

 市民組織としてのNPOの信用は、会員はもちろん、支援者、第三者から疑念を抱かれた問題について、十分な説明をして理解を得ることができるかどうかという点にかかっています。その点でPWJの広報は寄付を集めるための宣伝に偏り過ぎているのか、外部からの問い合わせに対してきめ細かくこたえていくという姿勢が不足しているように感じます。

 個人的に言えば、東北被災地への支援のために集まっていたお金を管理するCivic Forceがいまも保有する資産およそ4億円の大半がPWJに貸し付けられていることを知って驚きました。

 豪雨や地震などの被災地を支援するお金として必要なのだということなのかもしれないのですが、PWJ側からもCivic側からも資金の使いみちに関しての説明は一切ありません。とても残念なことです。

 Civic Forceの期末貸借対照表(2019年8月期)には銀行預金として戻っていて、PWJ向け融資は一時的に消されているようです。融資の事実を知られたくないのか、一般的にはきわめて不自然な資金の取引に見えるのです。

 そうした資金をなぜ借りているのか、所轄庁である広島県はPWJに説明をさせる必要があると私は思います。法令違反の有無以前に、どうしてわざわざ同じ代表者の公益法人から、お金を借りてくる必要があったのか、従来のように銀行からお金を借りることはできなかったのか、という素朴な疑問に答えて欲しいのです。

7、ピースワンコ、広告宣伝に年2億円?

 

 PWJはかつて、「週刊新潮」がピースワンコ事業の2017年度の会計報告について8億円の経常費用のうち3.4億円が「その他の経費」とされて使いみちがわからないことを批判し、「ふるさと納税を使いながら年に3億円以上が使途不明とは、認定NPOとして常識的にあり得ない規模」と指摘した際、「当団体はすべての支出について適正に管理・記録し、公認会計士による監査を受けております」反論する声明を発表しました。

 その際に、「その他経費」として計上した約3億3500万円について、

 ▽譲渡促進や普及啓発、支援者コミュニケーション等のための啓発教育・広報費約1億9500万円▽施設の修繕費や廃棄物処理等の費用約3600万円▽施設で使用する備品費や消耗品費約3100万円▽犬舎や事務所の水道光熱費約1900万円▽譲渡会の会場費や設備費約1900万円などの費用の合計額です。

ということも明らかにしているのですが、広報関係の費用に2億円近い資金が投入されたことを知って驚いた支援者も少なくないことでしょう。いったいどうしてそんな金額に膨れ上がっているのか、それ自体、もう少し細かな内訳を知りたいくらいです。

 私が観察する限り、PWJの情報公開の仕方は報告する先や年度によって微妙に変わっていて一般の人には理解しづらく、前の年度との比較もなかなか難しいものになっています。

 県に提出した事業報告では、2017年度の事業部門別収支でピースワンコは前述の「その他」を含めて経常費用8億円で収益11億円と差し引きして3億円の黒字を計上していました。

 しかし、地元神石高原町に報告した犬保護事業会計報告は支出も11億円余りに上っていて、収支はピッタリあい、支出項目のうち「もうけ」や将来への「蓄え」に相当するとみられる一般管理費の計上も「0円」となっていいます。

 広告宣伝費1億9千万円などの内訳からすると、まさに「週刊新潮」記事が依拠するのが県への報告でPWJのホームページにも掲げられている決算資料、PWJ/ピースワンコ側の反論は神石高原町に報告して同町役場のふるさと納税ページに掲げられた収支報告をもとにしているようです。

8、一貫しない公表方法、隠れる真実

 公表の仕方が一貫していればいいのですが、翌年度になると、神石高原町への収支報告では広告宣伝費の項目が消えました。また、県に提出した事業報告でピースワンコ部門の収支の黒字額1億4千万円あまりが町への収支報告では「一般管理費」として計上されています。

 どのように経費を分類しているのか、これでは支援者にも所轄庁の審査担当者にもわからないはずだと私は思います。

 PWJの借入金残高は2020年1月期末現在およそ15億円に膨らんでいますが、その債権者の顔ぶれについても公表するかどうかの基準が明らかではありません。

 前述のCivic Forceは金額が大きいのに一般向けの事業報告書では公開されていません。ふるさとチョイス運営会社など事業会社や個人からの借入金の状況も以前は公表していましたが、公表されなくなっているようです。

 決算関係の資料を細かく読んでいくと、PWJが何を不都合な情報として考えているかが浮かび上がってくるような気がするくらいです。広島県の認定NPO審査では、なぜディスクロージャーの基準がころころ変わるのか理由を質して欲しいと思います。

 日本のNPOの発展をけん引してきたと自負しているらしい大西健丞氏には、寄付金などで手掛けた数々の事業の現状や資金の使いみち、使い方について、もっと積極的に説明をしていく姿勢を期待したいですね。


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