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大間マグロの謎を解く④「捜査官」派遣で未報告が新たに40トン判明か⁉

 2016年には長崎県・対馬、2017年には北海道・松前でヤミ漁獲が発覚したことがあります。当時は水産庁が調査を始めてから1~2カ月後には違反事実の概要を発表し、自治体や漁協に再発防止を約束させました。

 今回、青森県大間町で発覚したヤミ漁獲は、2021年9月から調査が始まっているのにいまだに違反事実が公表されていません。

 大間と対馬や松前との違いはなんでしょう?

 1つは、2018年にクロマグロ資源管理が自主的な取り組みから法的な管理に切り替わり、沿岸漁業向けの漁獲枠は都道府県知事が管理することになったことが影響したと考えられます。

 水産庁は疑わしい情報を受け取っても、都道府県に知らせて調査するよう依頼します。水産庁も調査する権限は持ちますが、原則として地元自治体が監督するようになったため、調査が甘くなりがちなのです。

 2021年の大間のヤミ漁獲のケースは青森県がその依頼を受けたわけですが、青森県は当初、大間漁協の自主的な調査に委ねていました。地元の仲買人を通じてマグロを出荷している漁業者に対し、仲買人の協力を得て漁協が未報告の有無を問い、申し出のあった分だけを追加申告しました。青森県の調査、行政指導の実態は当初、その程度のものでした。

 疑惑の取引が行われた静岡市中央卸売市場では、8月、9月の2カ月間で約60トンも大間マグロが入荷していました。大間のS社、U社が扱ったもので、水産庁は荷を受けた側の静岡市の卸売会社からその取引資料をすべて入手しています。

 青森県の山中崇裕水産局長らは2021年11月12日午後、水産庁を訪ね、大間漁協を通じて調査した結果や追加申告の状況を報告しましたが、静岡市場で取引された大間産クロマグロの出どころを解明できる内容ではありませんでした。

 青森県は12月23日に大間漁協で民間出荷業者立ち合いのもと未報告が疑われる漁業者を呼び出して、個別に事情聴取しましたが、ここで確認された未報告もわずかな量にとどまったもようです。青森県の指示で大間漁協が2月15日付で作成した文書によると、追加申告はわずか4トンどまりでした。

 私の想像ですが、水産庁は静岡市場で入手した取引資料を青森県に引き渡さずにいたのではないかと思います。取引資料を青森県に渡していれば、調査はもっと早く進んだはずです。漁業者の出荷状況と漁獲報告の状況を突き合わせて、未報告のヤミ漁獲分を炙り出すことは簡単にできたはずです。

 水産庁は自分の出番まで手柄をとっておきたかったのでしょうか?

 それとも自主的な調査で確認できるほどほどのところで手を打って、勘違いや認識不足による報告漏れとしてこっそり処理することを考えていたのでしょうか?

 私は後者だと思います。こっそり済ませようと考えていたのに、水産専門紙や在京の大手通信社が記事を配信するようになって東京・豊洲市場でも大間マグロの漁獲未報告問題への関心が高まりました。隠して処理することが困難になったのだと思います。

 最近、私が得た情報では、水産庁は3月29日から31日にかけて大間町に職員を派遣し、静岡市場向けの出荷を扱ったS社、U社から事情聴取したようです。

 地元からの情報を総合すると、漁業法第128条に規定されている漁業監督官としての捜査だとみられます。

 漁業法第128条には「漁業監督官又は漁業監督吏員がその職務を行う場合には、その身分を証明する証票を携帯し、要求があるときはこれを提示しなければならない」とあり、捜査にあたって水産庁職員は捜査官として身分証明書を見せたうえで、事情聴取を始めたそうです。まるで刑事ドラマのような光景だったのか、地元では「警視庁が来た」と勘違いした人もいたようです。

 水産庁による捜査には、青森県を含めて総勢十数人が投入されたもようです。水産庁や青森県はノーコメントですが、40トン近い漁獲未報告の存在を確認したとの情報も聞こえてきます。

 それが事実なら、12月の青森県による調査を乗り切って、胸をなでおろしていた人たちにとっては驚愕の事態だったに違いありません。ヤミ漁獲への制裁として、今年の大間のマグロ漁獲枠が削減されるような事態を招くかもしれません。

 さて、対馬や松前との違いはもう1あります。ヤミ漁獲の問題の根は深いという点です。この問題は次回取り上げます。

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