教えて大西さん、ピースワンコのこと⑳岡山県の西山犬舎「鑑札装着せず」~狂犬病予防法順守は徹底できてますか?

1. 「アンタッチャブル」に挑む

 岡山県の高梁市議会9月定例会の一般質問が26日に始まり、森上昌生議員がNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)が西山地区に置いている保護犬のシェルター(ピースワンコ西山犬舎)の状況などについて尋ねました。

 森上市議の問題意識ははっきりしています。

 「西山にある収容シェルターは、神石高原町のピースワンコ本部施設では飼養困難な犬が送られてきているとのことだ。このことは、西山の犬たちは譲渡には不向きな犬が大半だということではないのか。つまり、譲渡先のない犬の最終収容施設と言えるのではないか。非常に例えは悪いかもしれないが、県外の廃棄物を高梁に持ち込んで処分していると言えるのではないか」

 焦点は、700頭近く収容する犬を世話するスタッフの数が十分なのかどうか、鑑札装着など狂犬病予防法の義務が履行されているかどうか、などです。

 合併前の旧・備中町長ら地元有力者の組合が地域振興用に借りた市有地をシェルター用地としてピースワンコに又貸しして、利益を得ていたりします。

 アンタッチャブル。市役所ではピースワンコ問題に触れるのを避けようとする雰囲気が漂う中、森上さんは広島県から越境して進出してきたピースワンコを継続してウォッチしているほとんど唯一の市議会議員です。

 大西さん、森上さんの質問にきちんと答えることができますか?

2.飼養困難犬を持ち込み

 森上市議は質問の趣旨をこう説明しています。

 「ピースワンコは広島県神石高原町に本部を置く認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンの傘下で活動しているプロジェクトです。神石高原町のふるさと納税を活動資金の主要資金として活動し、広島県の愛護センターの殺処分対象の犬の全頭引取を行うことを目的とした活動を行っている団体です。ただし最近、殺処分対象犬の全頭引取という条件は外されたようです」

 「その飼養シェルターを高梁市の西山にある旧西山高原ロッジを利用して運営しています。またその後民有地に新たに犬舎を新築して収容頭数を増やしています。この保護シェルターに関して、様々な問題が取り沙汰されるようになっており、市の施設を使ったこの活動に関して市はどう対処して行くのかお尋ねしたい」

 そして、質問の骨子は以下の通りです。

(1) 動物愛護センターの立ち入り調査の内容について

(2) 狂犬病予防接種の状況について

(3) 不妊、去勢の現状について

(4) 広島県における収容犬を高梁市で管理することに問題はないのか。また、これらの犬は神石高原町の施設で飼養困難な犬を、高梁市内の施設で飼養していると聞くがこのことに問題はないのか

(5) 環境に対する負荷はどのように考えているのか

(6) 当初、西山高原ロッジで飼養する犬の頭数は70 頭程度とされていたが現在670 頭と10 倍ほどにも膨れ上がっているが問題はないのか

 ピースワンコのシェルターには3千頭近い犬が収容されていますが、およそ4分の1は神石高原町の東隣にある高梁市の西山犬舎に運び込まれ、知らない間に膨れ上がったそのシェルターの大きさに不安が募ってきているというわけです。ピースワンコが殺処分対象の全頭引き取りを止めたことに言及するなど、森上市議は人的、財政的に余裕のないPWJの実情をよくご存じのようです。

3.実情を知らぬ市役所

 質問終了後、森上市議と、答弁した市役所の赤木和久市民生活部長に電話で話を聞きました。

 岡山県動物愛護センターがピースワンコ西山犬舎を抜き打ちで立ち入り調査したのは、今年6月23日のことでした。みずからも動物愛護活動に取り組んでいる森上市議は岡山県の調査前日にピースワンコ西山犬舎を訪問して、安倍誠リーダーから実情を聞き取っていました。

 「今回の調査は通常の定期的な調査だったのか、あるいは何らかの問題が原因で調査が行われたのか。今回この施設に関してどのような調査結果が出されたのか、市はどのように把握しているのか」

 森上市議の質問に対し、市側は「調査は承知しているが、内容は知らない」と答えたそうです。

 筆者の電話取材に高梁市の赤木部長は「定例の調査だと聞いている」と説明しましたが、岡山県は外部からスタッフ不足の情報を受けて調査入りを決めていますから部長の説明は間違いです。市は岡山県動物愛護センターにも確認のうえ、答弁の修正をすべきだろうと思います。

4.スタッフ数増やす?

 700頭近くにも膨れ上がった西山犬舎の現況に関連して、スタッフ不足を指摘する森上市議に対し、赤木部長は「25、26人が働いているようだ」と説明したとのことです。

 しかし、筆者や森上市議の調査では、外部に委託している清掃要員を含めても西山犬舎で毎日働いているスタッフの数は十数人にとどまっていたはずです。岡山県動物愛護センターが6月に行った立ち入り調査でもそうした状況を確認しているはずです。

 岡山県動物愛護センターでは動物取扱業者らに対し、従業員1人当たり30頭(小型犬)までという目安を設けて日常的な指導や監督にあたっています。具体的な数値は示していないものの、中型犬、大型犬がいれば当然、30頭よりも少ない数にするよう指導します。

 環境省は2021年6月から実施するペットの繁殖業者(ブリーダー)や販売業者、譲渡団体などを対象にした数値規制案(犬は1人あたり15頭まで)を今年7月にまとめたばかりで、岡山県のように頭数を示して指導する例は全国を見渡してもまだほとんど例がないようです。

 毎日働いているスタッフの数が十数名であれば、少なすぎます。岡山県はピースワンコに対し、西山犬舎に収容している犬の数(7月時点でおよそ680頭)を減らし、スタッフの数も増やすべきだと指導していたようです。

 もし、西山犬舎のスタッフ数が25、26人に増えたのなら、岡山県の「スタッフ1人あたり30頭まで」という目安を達成できるかもしれない人数です。岡山県の指導を受けて人員増強に動いたのかも知れませんが、市は誰からそのような説明を受けたのでしょう?

 議会終了後、赤木市民生活部長にその点を電話で尋ねました。部長によると、「月曜日(24日)に西山犬舎を訪ねてしかるべき人物から説明を受けた」ということです。ただし、従業員名簿や勤務ローテーション表などで確認したわけではないそうです。

 赤木部長は「市には権限がない」といいます。しかし、地元の西山観光振興組合を経由してとはいえ、市もシェルターに土地を貸している立場ですから、ピースワンコにしっかり根拠を示して説明を求めることくらいできるはずです。

 ピースワンコは情報公開に誠実に努めて欲しいですね。

 大西健丞代表理事の夫人・大西純子氏からプロジェクトリーダーを引き継いだ安倍誠氏は広島県動物愛護センターなどで犬を引き取ってくるたび、facebookで頭数などを報告しています。同じようにシェルター別の収容頭数や勤務するスタッフ数についても公表して欲しいと思いますが、PWJはあいまいにぼかし続けています。

5.犬舎では鑑札装着せず

 森上市議は狂犬病予防接種の状況も尋ねました。

 西山犬舎では狂犬病予防法で義務付けられた鑑札を装着していない状況を知っていたからです。「鑑札が付いていなければ、個体が識別できず、狂犬病の注射をしているか確認できないのではないか」と疑うのは当然かもしれません。

 筆者も赤木部長に電話で尋ねてみました。

 赤木部長は「通常は首輪に鑑札を装着する飼い主が多い。西山犬舎では犬に首輪をしておらず、鑑札をつけることが難しい」といい、「鑑札の代わりに犬舎のカルテを作り、個体別に管理できるようになっている」と擁護していました。

 カルテに記録をするといっても、ピースワンコがシェルターに収容している犬の数は10頭や20頭ではありません。西山犬舎だけで合計700頭近くいて、群れごとに管理していたりもしたようです。個体ごとの状況をチェックするためにはそれなりの人員を張り付けておかなければ難しいでしょう。

 しかし、鑑札装着は犬を飼う人の最低限の義務であり、カルテ管理はその次の問題です。首輪をつけない理由が人を警戒して近づくと噛みついたりするということなら、そもそも注射や訓練も難しいかもしれません。

 筆者のところには、「ピースワンコの犬舎に、鑑札を装着していない犬がいる」という情報提供が何度かもたらされています。神石高原町のシェルターを監督する立場にある広島県動物愛護センターにその都度、情報を伝えますが、今までのところ、それでピースワンコが処分されたという話を聞いたことはありません。

 鑑札を装着せず、カルテを作成して別に管理している実態が狂犬病予防法上許されることなのかどうか、高梁市役所の赤木部長は「岡山県動物愛護センターが判断すること」だといいますが、狂犬病予防法の事務は市町村が受け持っているはずで、岡山県に尋ねれば、「高梁市が判断することだ」ということでしょう。

6.不妊・去勢手術は8割

 また、収容している犬たちの不妊・去勢の状況については「80%以上は済ませている」という回答だったそうです。

 ピースワンコは、発情期の雌雄を隔離する方式で不妊・去勢をしなくても繁殖を制限することができるという立場を繰り返し表明し、不幸な犬猫を増やさないため保護動物への不妊・去勢手術を行うよう推奨する動物愛護関係者らとの間で摩擦を生んでしました。ほとんどの犬に不妊・去勢手術を施している現状を、どのように支援者たちに説明しているのが興味深いところです。

 ピースワンコの本拠地である広島県の動物愛護センターは、ピースワンコが譲渡活動を本格的に始めたころに要領を改正して、不妊・去勢手術以外の方法による繁殖制限も認めることにしていました。しかし、もう一度、ピースワンコを説得して手術を義務化すべき時期にきているのかもしれません。

7.環境汚染、経営破綻への備えは?

 ピースワンコへの疑念は、スタッフ不足や狂犬病予防法への対応にとどまりません。森上氏から質問文を提供してもらったので、以下、抜粋して紹介します。

■収容頭数が激増中 「西山の施設は第2種動物取引業者の資格しか持たない。この第1種と第2種の違いは簡単に言うと、営利、非営利のちがいがあるだけだ。そして第1種は登録制、第2種は届出制である。このことは、深読みすれば収容頭数を簡単に増やすことが出来るからではないのかとも思える。事実、西山の施設は平成29年8月の最初の登録時には50頭の収容頭数として登録されたが翌年平成30年3月には150頭に増やされている。その後平成30年11月には300頭、翌31年4月には400頭と収容頭数を増やし、現在では約700頭の犬が収容されているとのことだ。こうした実情を高梁市はどのように認識しているのか」

■糞は広島へ、尿の処理は? 「西山の保護施設に収容されている犬は大半が中型以上の中、大型犬が大半だ。これらの犬の環境に与える負荷はかなりのものがあると思われるが、そうした環境負荷に対する市の見解はどのようなものか。以前この質問をしたときには、地域住民から特段の苦情等は受けていないとの回答だったが、地域住民からの直接の訴えがないとしても、環境に与える影響をきちんと調査すべきではないのか。尾籠な話になるが700頭もの中、大型犬の排泄物といえばかなりの量になるはずだ。糞に関しては引き取り業者が広島に持ち帰っているとのことだが、尿は現地で浄化処理しなければならない。そうした浄化処理能力がきちんと整えられているのか」

■破綻時の処置は? 「また、将来この施設に人間と犬との共通の感染病が発生した場合などの危機対策はできているのか。また、この施設の運営が万が一行き詰まった場合、700頭もの犬の処置をどのような形で行うのか、またその主体はどこが受け持つのか」

 地元住民なら抱いて当然の疑問ばかりですが、高梁市当局は犬の譲渡団体の監督は県が受け持っているとして市がとるべき措置に関して明確な答弁を避けたようです。

8.地域のボスが管理

 ピースワンコの西山犬舎は当初、レジャー施設として利用されている市有地の一部を借りて開設されました。PWJが「気性難」と呼ぶ犬たちを集めた施設でした。6月時点でそこに80頭が収容されていましたが、残る600頭は近所の民有地を借りて整備した大型のシェルターに収容されています。

 市有地はキャンプ場などとして現在も使われています。ピースワンコに貸しているところ(2800平方メートル)だけはレジャー施設としての使用を廃止していますが、地元の西山観光振興組合がレジャー施設の指定管理者としてその土地も管理しています。

 振興組合のトップは元備中町長の森﨑光政氏ですが、市から年額7万8千円で借りた土地をPWJには月額20万円程度の協力金をもらって貸していることが議会の議事録で確認できます。

 筆者は昨年10月、森﨑氏に質問状を送り、①又貸しにあたってPWJから受け取っている月額20万円の協力金はどんな目的に支出しているのか②糞尿垂れ流しが広島県神石高原町議会で問題になっているが、西山犬舎ではどのような対策を講じているのか、等を問いましたが、「外部のものに答える必要はない」と回答を拒否されました。

 観光振興と捨て犬シェルターはまったく異質の事業ですし、市の財産管理上は土地の性格、用途も異なりますから、市が直接PWJに貸して管理すべきです。元町長が西山地区のボスとして君臨していては、地元の住民もピースワンコに関する苦情を申し立てにくいかもしれません。

 市役所は寄り合い所帯で旧備中町職員も幹部にいますから、市有地の賃貸収入を組合の収入にしておくことくらい簡単なことなのかもしれません。しかし、こうしたことは不正や癒着の温床になりがちだと思います。

 PWJの側から市との直接契約を申し入れたほうがよいかもしれませんね、大西さん。

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