(試行版)ぼくらは、それを見逃さない。⑤村上世彰氏を頼るPWJ、2008年から大西健丞氏に資金協力


 NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町)の大西健丞代表理事と、かつて村上ファンドを率いて一世を風靡した村上世彰氏との付き合いは10年以上です。

 2016年に村上氏が作った一般財団法人村上財団の理事にも就任していますから、信頼厚いブレーンと言ってもいいでしょう。この財団の支援先にも大西氏の影響がうかがえます。

https://murakamizaidan.jp/concept/

 その付き合いはどのようにして始まったのでしょう。

 再び大西氏の著書「世界が、それを許さない。」から引用します。

2007年の新潟の中越沖地震への対応に彼がもどかしさを感じていた頃のことです。

 「やはり、国内災害にきちんと対応できるプラットフォームが必要だということで、いろいろと模索していました。そんなとき、投資家の村上世彰さんから会えないかという話があったのです」

 「彼は当時、ファンドの問題で逮捕されて、1審実刑判決で、2審の結果を待っている状態でした。そして、NPOへの寄付を積極的に始めているということでした」

 村上氏に会うべきかどうか、大西氏はかねて付き合いのあるスタジオジブリの鈴木敏夫氏に意見を求めました。

 鈴木氏は「彼がイケイケのときだったら近づくべきじゃないと思うけど、今はむしろ窮地なのだから、会ってもいいんじゃないか」と迷う大西氏の背中を押しました。

 その結果、大西氏は村上氏に「かなりの資金」を寄付してもらって任意団体の災害即応パートナーズを2008年に発足させ、翌2009年に村上氏以外の企業にも参加をしてもらって公益社団法人Civic Force(シビック・フォース)に作り変えたということです。

https://www.civic-force.org/about/2018_jigyo.pdf

 事務所は東京の渋谷区富ヶ谷にあります。

 寄付を仲介するインターネットサイトなども活発に利用し、東日本大震災の直後には年間10億円もの寄付が集まったこともあるようです。

 最近は大きく減っていますが、行政と企業、NPO、住民組織が連携して、被災者支援に取り組むことを目指すこの団体設立が村上世彰氏との付き合いの始まりです。

 ふだん東京から遠く離れた広島県神石高原町に居住している大西健丞氏ですが、村上氏の資金協力で始まったCivic Forceへの思い入れは強いようで、現在も代表理事を続けています。

 PWJの事業報告書で村上氏との関わりがはっきりしたのは2017年度(2017年2月-2018年1月)の事業報告でした。

 旧村上ファンドグループの会社と目されるC&Iホールディングスが短期1億3千万円、長期2億円、あわせて3億3千万円をPWJに融資したことがわかったのです。

 この年度、農業・観光など地域創生部門が2億円以上の赤字となるなどして、全体としても1億3千万円以上の赤字を出しました。さらに助成金返還などの事情も加わって2億8千万円も正味財産を取り崩すこととなり、正味財産額は約5千万円のマイナスに転落してしまったのです。

 この時期は、広島県神石高原町にある保護犬のシェルターへの収容犬も急増して、狂犬病予防法に基づく登録や予防注射もままならぬくらいピースワンコ業務が大混乱した時期でもあります。

 PWJは資金繰りが厳しくなり、借入金は長短合わせて7億6千万円(2016年度末は3億8千万円)へと倍増しました。

 しかし、普通の金融機関は、赤字の放置や背伸びした経営を嫌います。

 予防注射が追いつかず狂犬病予防法違反に問われた頃のことを振り返った大西氏への取材をもとに東京新聞はこう書いています。

 「(PWJは)週刊誌やインターネットで猛烈な批判にさらされ、銀行に五億円の融資を引き揚げられた。大西さんは支援者や企業への資金集めに奔走し、犬舎の増築やスタッフの増員で窮地を何とかしのいだ」

 記事の内容は公表されている財務データとは少し異なるようですが、PWJは銀行からの借り入れを増やすことが難しかったのは確かでしょう。

 2017年度の借入額の増加に見合う額を、村上氏の会社や、「ふるさと納税」の仲介サイト、ふるさとチョイスの運営会社トラストバンクやその経営者からお金を借りたことが、財務諸表の注記などで確認できます。

 続けて、愛媛県上島町の豊島(とよしま)でのゲストハウス運営などにあたっているNPO法人瀬戸内アートプラットフォーム(SAPF、広島県神石高原町、大西健丞理事長)も村上世彰氏のグループの支援を受けることになったとみられます。

 このシリーズ②で紹介したようにSAPFの経営は赤字状態で、旧村上ファンド系と思われる株式会社ATRAから資金を調達している可能性があるのです。

 PWJの広報コンサルタント、ソーシャルピーアール・パートナーズ(SPP)社長の若林直子氏が公開していたプロフィールでは、村上世彰氏の娘、絢氏が運営している村上財団もSPPのクライアント(お客)のリストに列挙していました。

 そして冒頭にも触れたように大西氏はその一般財団法人の理事なのです。互いに持ちつ持たれつ、助け合っている様子がわかります。

 大西氏も村上絢氏は、コンサルタントの若林氏がかつて勤務していた日経BP社のビジネス誌オンライン版に登場し、好意的に紹介されています。

 豊島を訪れた際、「村上ファンドの関係者がときどき遊びに来ているようだよ」と釣り人が教えてくれました。

 瀬戸内海で「村上」といえば、多くの人は戦国最強の海賊といわれた村上水軍を思い起こします。因島(広島県尾道市)をはじめ豊島周辺の島々にはその海賊の子孫と称する人たちが大勢います。

 村上世彰氏の一族のルーツがどこかは知りません。

 しかし、瀬戸内の離島・豊島は、村上ファミリーにとって、投資家、慈善家としての自尊心も満たせる、案外、居心地のいい場所になっているかもしれません。


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