DNA不一致の和牛、農水省も5月に把握

 宮城県の獣医師が人工授精を担当した和牛の産子DNA検査で親と異なる遺伝子が検出されたことがわかりました。東北のほか、九州でもDNA検査を実施しているもようで、畜産農家の間に動揺が広がっています。

 農林水産省は「宮城県から5月頃に第一報の連絡を受けていた」(畜産振興課)ということです。しかし、県と和牛の流通を扱う全農宮城県本部による調査はいまも継続中で、公式な発表はありません。

 今年3月には、和牛受精卵が不正な方法で中国に大量に持ち出された事件が摘発されています。そして今回のDNA不一致。単なる作業上のミスなのか、意図的、計画的な偽装なのか――はっきりしたことは今のところわかりません。しかし、2001年のBSE感染牛の発生以降、厳正な交配記録や個体識別を徹底してきた和牛の遺伝資源管理システムの信用が失われかねない異常な事態です。

 筆者からの問い合わせに対し、宮城県畜産課は17日夜、DNA不一致について、以下のような書面回答を送ってくれました。

 「情報提供を受け、確認しており、獣医師に対し家畜改良増殖法に基づき立ち入り検査、指導等を実施している」

 「現在確認中であるが、当該獣医師が関係する産子等について遺伝子型検査を実施していると聞いている」

 県の調査対象は40年以上の経験を持ち年間100-200頭規模で種付けを行うベテラン獣医師です。畜産関係者によると、子牛の出荷先である秋田県の生産者が疑問を抱いてDNA検査をしたところ、授精証明書と異なる牛の遺伝子が検出されたようです。

 そこからの通報を受けて宮城県は獣医師が経営する家畜医院に立ち入り検査を実施するとともに、農林水産省にも報告したようです。関係者によると、家畜市場を運営する全農宮城県本部が出荷先の追跡やDNA検査の依頼などを受け持っていて、九州にもその調査対象は広がっているということです。

 県の調査に対し、獣医師側は「作業上のミス」と主張しているようです。筆者の電話取材に対しても獣医師は、凍結精液の入ったストローを夜間の授精作業の際に取り違えた可能性や同じ母牛に複数の精液を使用したりする場合に混乱が生じる可能性はある、と語っていました。  

 子牛の遺伝子が一致しない種牛は、宮城県が地元畜産農家向けに精液を安価に販売している県有種雄牛のほか、凍結精液が1本10万円以上で流通する民間育成の種雄牛も含まれているのではないかともいわれています。全容解明を急ぐ必要があります。


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