水産庁にも「不都合なデータ」廃棄の過去、内閣府審査会「不適正」と答申

 反社会勢力の一員とされる人物までもが参加し、政府高官と記念写真におさまったという総理大臣主催の「桜を見る会」では、招待者名簿の一部を内閣府のシュレッダーにかけて廃棄してしまったことが問題になっています。

 野党議員が情報開示を求めたその日にシュレッダーで裁断したというのですから、確信犯でしょう。開示請求があれば、担当課にも連絡されるはずですから、請求後ただちに廃棄するような行為は極めて不適切、悪質です。

 花見の招待リストのみならず、情報公開を拒むため、役所が文書を廃棄することは現実にあります。知らないところで、国民の知る権利は制約を受けているのです。

 私自身が遭遇したケースを紹介します。

 いまから5年前、2014年秋に遡ります。私が情報公開請求したにもかかわらず、水産庁は偽りがある一部のデータを隠したばかりか、不開示について不服申し立てをしたところ、そのデータを廃棄してしまったのです。

 まったく理不尽で、犯罪にも等しい行為だと私は思いました。

 そのデータは2015年から始まる日本沿岸水域での太平洋クロマグロ漁獲制限の地域別の数量を決めるはずのものでした。対象は体重30kg未満の未成魚です。漁獲できる数量を制限するのですから漁師さんたちの生活にも響きます。

 私はそのデータの偽りに気づき、水産庁にデータ集計のやり直しを進言していました。そして水産庁も渋々作業をやり直したのですが、是正前のデタラメを示す証拠として私は元のデータを入手しておこうと考え、情報公開を求めていたのでした。

 内閣府の情報公開・個人情報保護審査会は、およそ1年かけて経過を調査しました。2015年11月にまとめた答申では、水産庁による廃棄を「不適正な対応」だと批判し、「開示請求に係る文書管理の在り方を是正すべきである」と指摘してくれました。

 溜飲が下がる思いでしたが、審査会が結論をまとめるのに1年もかかるのでは報道や検証には役立たないとも思いました。「桜を見る会」の騒動だって、招待者情報はいまこの時点で必要なのであって、1年後では意味がありません。

 ともあれ、2015年から全漁業者が参加して始まったクロマグロ漁獲規制は、日本の資源管理のターニング・ポイントとなる出来事でした。

 その準備段階で水産庁はいい加減なデータ集めと枠配分をしたことの罪は大きいと思います。部分的な修正を積み重ねてきてはいるものの、ずさんな設計は、いまなおクロマグロ漁業の現場に混乱と対立をもたらす原因になっているのです。

 重要なことなので、少し詳しく紹介します。

 2014年6月、水産庁は都道府県や漁業団体の協力のもと、水産資源管理のため翌2015年から実施する日本沿岸でのクロマグロの漁獲量の上限を都道府県やブロック別に設定する準備を始めました。

 水産庁はまず、漁業調整委員会指示に基づく漁獲実績の報告などのデータをもとにクロマグロ未成魚の漁獲量を推定し、マグロ漁業に関係する39都道府県に確認を求めました。

 すると、なんと28都道府県から修正を求める報告があり、原則としてそのまま採用しています。

 特に、長崎県など3県に関しては、大西洋クロマグロの水揚げや成魚を含む太平洋クロマグロ水揚げも合算してある農林水産統計の値よりも大きかったので、水産庁は「8割に当たる数値に差し替えた」(内閣府情報公開審査会答申文)ということです。そうした調整をしても、実態とはかけ離れた数字であることに変わりはありません。

 取材をしてみてわかったことなのですが、漁港での水揚げデータの中から30kg未満に絞って集計しなければならないところ、長崎県は「卸売市場では分類していない」という理由で、30kg以上の成魚の漁獲量も含んだデータをそのまま提出していました。

 水産庁はそれを知っていて、鉛筆を舐めて調整しただけで自己申告による過大な実績を追認し、2014年8月にブロック別漁獲上限の案として全国の都道府県や漁業関係者に示しました。

 過大申告した県ほどトクをして、正直者が馬鹿を見る案が示されていたのです。

 私が偽りに気が付いたのは、8月に公表した配分の根拠を尋ねるため水産庁を訪問したときです。前述したように、国の漁獲統計が不備なので都道府県側からの報告を漁獲量とみなす方式をとっていたわけです。最大の漁獲量を誇る長崎県は、全部を未成魚として報告するという「ズル」をして、それが事実上容認されていたのです。

 クロマグロの主な産地の県庁に問い合わせると、案の定、騒ぎになっていました。多くの都道府県では、国が求める30kg未満のクロマグロの漁獲量を突き止めるため、わざわざ水揚げデータを点検しなおしているのに、「長崎は何をやっているのだ」というわけです。

 そこで私は2014年9月11日、ブロック別に漁獲上限の基礎データとなったはずの都道府県提出データの開示を請求しました。

 同時に水産庁には、推計方法を統一したうえで、全都道府県からデータを集めなおした方がよいのではないかと申し入れをしました。水産庁はどんなやり方にすればよいかというので、模範的と思えた青森県の推計方式を推奨したところ、水産庁は青森県にもヒアリングをしたうえで、都道府県に報告のやり直しを求めました。

 情報公開請求のほうの結果は「不開示(一部開示)」でした。そこで10月27日に不服を申し立て、水産庁はそれを内閣府の情報公開・個人情報保護審査会に諮問しました。

 内閣府の審査会は2014年12月2日に水産庁から諮問の理由説明書を受け取って以降、弁護士ら専門家らがおよそ1年かけて調査してくれました。

 2015年11月9日にまとまった結論(答申)文書にはこう書かれています。

 「10月27日に一部開示決定に対する不服申し立てがあったにもかかわらず、本件請求文書に該当するものとして特定すべきであった本件データ等を同年12月以降に廃棄している」

 「本件データ等については、処分庁の不適正な対応によって、異議申立人の開示請求権の実効性を喪失させたと認められるので、今後、開示請求に係る文書管理の在り方を是正すべきである」

 文書はあると思っていましたから、廃棄されていたと知って驚きました。都道府県からの報告を取り直したので、私が証拠として入手しておきたかった最初の集計結果について、水産庁は役目を終えた「途中段階」のデータなので廃棄したと説明したそうです。

 失敗の記録は消去しておきたいのでしょう。

 調査のやり直しは2014年10月31日から始まり、12月にブロック別漁獲上限の修正案が公表されました。内閣府審査会の報告では「一部の県から提出データを修正したいとの要望があり」と書かれていますが、これも水産庁がメンツを守るためウソの報告をした結果です。

 長崎県の過大申告が私の取材で明るみに出て、他県から突き上げが来たので、水産庁は関係都道府県すべてから報告を取り直す形をとって、長崎県にも調査のやり直しを指導したのです。

 以上が、太平洋クロマグロ漁獲規制に関連した行政文書の一部廃棄に関する経過ですが、クロマグロ漁獲規制をめぐってはもう一つ大きな問題がありました。

 国際合意に基づいて、日本のクロマグロ未成魚の漁獲量を年間4007トン以下に抑制するにあたって、釣りなど沿岸の漁師らの分は2007トン、まき網漁船の枠は2000トンと決まったのですが、その割合を決めた根拠や比較検討した資料、討議経過を示す文書が存在しないのです。

 あるのはまき網漁業の枠を2000トンとする水産庁資源管理部長通知の起案文書のみ。経済的ダメージについて十分な検討をしないまま強引に決定して、その後、釣り漁業者などから猛反発を受けて修正を余儀なくされているのですが、最初の配分が公正・妥当だったかどうかもう一度検証が必要です。

 

 

 

 

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