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先輩起業家から学ぶ「スタートアップが知っておくべき商標のこと」視聴レポート

特許庁のIPBASEが主催するオンラインセミナー「先輩起業家から学ぶ「スタートアップが知っておくべき商標のこと」」を視聴したのでレポートします。

登壇者
株式会社Toreru 代表取締役、特許業務法人Toreru 代表社員 宮崎 超史氏
cotobox株式会社 代表取締役社長、はつな知財事務所 代表弁理士 五味 和泰氏
特許庁企画調査課 課長補佐 スタートアップ支援チーム 進士 千尋氏

第1部 IPBASEの進士さんによるスタートアップのための商標の基本知識の解説

1.スタートアップにとっての商標権

スタートアップの課題として、信用がない、知名度がない、親しみを持ってもらえないなどにより、ユーザから選んでもらえないという点が挙げられる。ブランド力、知名度の向上のために、商標を作り、使い続けることで商標にブランド力をつけることが大事である。この際に、商品やサービスにつける「マーク」や「ネーミング」を財産として守るのが商標権である。

ここで大事になってくるのが、
1.商標権を取る。
2.他人の商標権を侵害しない。
の2点である。

商標権をとるメリットとしては、①自分の商標として使い続けることができること、②自分の登録商標と同じ商標や似たような商標を使っている他人に「使うな!」と言うことができることがある。逆に、商標権を取らないと、自分が使っている商標をアカの他人が商標登録したときに、このアカの他人から警告書が送られてきて、せっかく有名になったのに自社の製品の名前を変えたりライセンス料をアカの他人に払ったりしないといけなくなる場合がある。

また、他人の商標権を侵害しないことも大事である。他人の登録商標と同じ商標や似たような商標を使うと、商標権者から「使うな!」と言われる可能性がある。このため、自分の商標を決める前に、他人の登録商標を調べる必要がある。このことにより、トラブルを未然に防止することができる。

2.商標権とは

商標権は、「マーク(文字・図形等)」と、「使用する商品・サービス」との組み合わせである。特許庁ではマークだけを登録しているわけではない。

「商標(マーク)」の種類としては、文字・色がついた文字・図形・文字と図形の組み合わせ・立体、などがある。

「使用する商品・役務(サービス)」は、さらに以下の2つの要素に分かれる。
1.何の商品やサービスに使うのか。
2.その商品やサービスはどの区分に入るのか。

区分とは、商品や役務を分野別に分類したものである。商品(もの)は第1類~第34類、役務(サービス)は第35類~第44類に入る。商標出願する際は、適切な区分を選ぶ必要がある。

なお、出願後に新しい商品・役務を追加することはできない。このため、出願前から、今後の事業展開も見据えて権利化する商品・サービスの範囲をしっかりと考えることが重要である。

商標権を取るまでの流れは以下の通りである。
(ⅰ)出願書類の提出
(ⅱ)方式審査
(ⅲ)実体審査
実態審査において、登録することができない理由がある場合は特許庁から拒絶理由通知が出される。これに対して、意見書、補正書を出して拒絶理由が解消すれば登録査定となる。しかし、拒絶理由通知に対して反応しなかったり、意見書、補正書を出しても拒絶理由が解消しない場合は拒絶査定となり、商標登録することができない。

3.商標権の効力は

商標権の効力として、専用権、禁止権の2つがある。

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(特許庁ホームページより)

商標が類似するか否かは、主に称呼(呼び方)・外観(見た目)・観念(意味合い)の3つによって判断される。

商品・サービスが類似するか否かは類似群コードによって判断される。類似群コードとは、共通性を有する商品やサービスをグルーピングした5桁のコードである。例えば、「菓子」と「パン」は共に類似群コードが30A01であるため商品が類似する。

第2部 宮崎さん、五味さん、進士さんによるトークセッション

0.自己紹介

株式会社Toreru 代表取締役、特許業務法人Toreru 代表社員 宮崎 超史さん

2014年にクラウド上で商標登録出願できるサービスを開始した。このサービスでは、今までの紙ベースの仕事をオンラインでできるようにした。Toreruの名前の由来は、文字通り「商標が取れる」からきており、分かりやすくて親しみがあり、かつ短い言葉のネーミングにした。会社やサービスのブランディングを重視しており、ブランディングに必要な商標は全て出願している。キャッチコピーやビジョンみたいなものも重要視しているので商標出願している。

cotobox株式会社 代表取締役社長、はつな知財事務所 代表弁理士 五味 和泰さん

cotoboxのサービスにより商標をオンラインで調査、出願できるようにした。cotobox株式会社自体では商標登録出願は行わず、弁理士と事業者の間を取り持つ存在である。2014,2015年にアメリカのロースクールに留学して、アメリカでのリーガルテックの隆盛を目の当たりにし、日本もこの流れがくると思い、テクノロジーを使った起業を志した。cotoboxの名前の由来は、ネーミングからサービス名が思いつかないような抽象的なものにしたいというところからきている。また、このネーミングには、新しいことをやる人を応援したい、新しいユーザ体験や経験を提供したいという想いが込められている。kotoboxではなくcotoboxとしたのは、最後の文字xが直線であるため、最初の文字に曲線を入れて柔らかい雰囲気を出したかった。会社の設立前にドメインの取得および商標登録出願を行った。

1.商標権をとらないとどんなまずいことが起こる?

(五味さん)
 新規事業の流れとして、以下の5段階がある。
1.ネーミング決定時
2.実証実験開始
3.プレスリリース
4.会社設立
5.実施・販売

ある会社が新規事業を展開するにあたりその事業のネーミングを3と4の間のタイミングに商標登録出願したが、プレスリリースでその新規事業を知った同業他社が2カ月前に全く同じ商標を出願してしまった。このため、同業他社の商標が登録されないようにするため、既に実証実験をやっていてプレスリリースをしているという資料を作成し、周知性を証明する書類を特許庁に提出することによって何とか自社が商標権を取得することができた。しかし、資料作成に費用はかかるし事業開始まで綱渡り状態であった。今回はうまくいったが、もし同業他社の先の商標出願が登録されていたら、ネーミングを変えなければいけなかった。このため、商標出願は、理想的には1の「ネーミング決定時」に行うのが望ましい。

Q.他人の商標権者から警告状が送られてきた場合は?

(五味さん)
警告状が送られてきた場合は、まずは警告状の内容を理解する。内容を理解できる人が周りにいなければ、弁護士、弁理士に相談する。警告状の内容が事実と違うこともある。

(宮崎さん)
自分でアクションしないほうがいい。まずは専門家に相談する。自分でアクションしてしまうと、余計な情報を相手に与えてしまう可能性もある。

Q.登録が難しそうな商標を事業で使う場合は?

(五味さん)
商標権を取れないままずっと使うのは良くない。何かしらのトラブルがあったときに弁理士等の専門家に相談すると、代案を提案してくれる可能性もある。

2.商標を決める際に考えるべきこと

(五味さん)
スタートアップはネーミングを決める際にも情熱を持っていて気合が入っている。しかし、気合を入れて考えた商標を出願しても登録できないリスクがあるので、出願前に事前調査してほしい。将来、事業が大きくなってやることが変わるかもしれないので、抽象度の高いネーミングのほうが良いと思う。

Q.特許庁に料金を納めていないような他社の商標出願はどうするか?

(宮崎さん)
そのような場合も出願はしておき、他社の出願はウォッチングする。料金未納により登録されないことが多いが、登録された場合のことも考えておく。同一ではなく似ている商標の場合は、専門家に相談したほうがよい。

Q.他人と同じ屋号や商号だとダメなのか。会社名は同じでサービス名が違う場合はどうか?

(五味さん)
スタートアップは将来サービス内容が変わる場合もある。とりあえず現状維持で、会社が大きくなり自社の事業が他社のサービスに寄ってくると他社の商法権を侵害するリスクはでてくる。

3.商標権が活用される場面

(宮崎さん)
商標権を持っている場合は差止請求権の行使が強力である。警告書を送ってやめてもらうこともある。
また、amazonなどのプラットフォーマーが模倣業者の商品の出展を止めてくれる。プラットフォーマーには申告のフォームがあり、申告すれば1週間で模倣品がなくなる。申告のフォームの記入は素人でもできるが強力である。

Q 上場の局面で商標権を使うか

(五味さん)
上場時には知財をしっかり取っているかどうかが審査される。事前に対応しておかないといけない。上場時に同業他社から知財の侵害で訴訟を起こされると痛手になる。

4.いつ商標をとるべき?

(五味さん)
 将来、売上が1億円をこえる規模になるなら商標権を真っ先に取るべきである。ただ、事業がそれほど大きくなければ、ネーミングの変更も可能であるので取らなくてもよい場合もある。

5.何から商標とるべき?どこまで商標とるべき?社名?全ての製品・サービス名?スタンプやキャラクターも?海外は?

(宮崎さん)
これから売り出そうとしているネーミングについてまずは商標を取るべきである。ロゴではなくネーミング。また、会社名よりも商品やサービスのネーミング。ネーミングは変更せざるを得なくなったときのリスクが大きい。

(五味さん)
cotoboxの文字商標の権利は取っているが、ロゴは取っていない。サービス名を変えずにロゴを変える可能性がある。Cotoboxも短期間でロゴを変えた。ロゴの優先順位は低い。

(宮崎さん)
まずはネーミングを単独で取ったほうがよい。ロゴはどこまでプロモーションで押し出していくか。ナイキのマークのように、ロゴだけで商品に信用を付加する場合は商標登録したほうがよい。

Qキャラクターだけなら著作権で保護できる?

(宮崎さん)
著作権は他人が意図的に模倣したことを立証する必要がある。商標権の場合は他人が使用さえしていれば差し止め請求できるので、ハードルが低い。クマモン等、キャラクタービジネスを行う場合は商標権も取っていることが多い。

Q.海外進出するときにどこまで調査すべきか?ネーミングを決める際に海外進出のことも考えたほうがよいか?

(宮崎さん)
海外の商標調査は難しい。費用がかかる。ある程度の資金を調達したときに海外出願を考えるのがいいのではないか。海外に事業を展開するときは、1年くらい前から商標登録出願を考えるのがよい。

(五味さん)
海外では、商品やサービスの内容などをそのまま説明している英語のネーミングは登録されない場合が多い。また、プロダクトの内容をそのまま商標にしても登録されない可能性が高い。日本では登録されても外国では登録されないケースもある。外国の現地の弁護士、弁理士に確認したほうがよい。
海外への商標出願は自治体やJETROから助成金がある。国内出願についても助成金があるが金額が少ない(10万円くらい)。海外の場合は幅広い支援制度がある。

6.企業の立場からみた良い商標弁理士の選び方

(五味さん)
自分のやりたいことやビジネス、熱い想いを理解してくれる人がよい。相性の合う人、想いを共感してくれる人を選ぶとよい。専門家もしっかりと企業の立場に寄り添って話を聞けることが望ましい。

(宮崎さん)
 スタートアップは特殊な事情があるので、それを理解してくれる人がよい。レスが早い人、スピード感がある人。コミュニケーション手段としてメールでもよいがチャットツールを使いこなせる人が良いのでは。

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