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#2 「Revolver」-様々な実験が結実した革新的アルバム【The Beatles Album Review】

かしまさがいちばん好きなビートルズのアルバムのうちの1枚
オリジナルアルバムでまず最初に買ったのがこれだった気がする。
ビートルズのいちばんはなかなか決められないもので、
どれが最高かを考えるたびに違う答えが出たりもするのですが、
これをベストに挙げることが割と多いです。

基本情報

オリジナルリリース 1966/8/5 (UK)

  1. Taxman

  2. Eleanor Rigby

  3. I'm Only Sleeping

  4. Love You To

  5. Here, There and Everywhere

  6. Yellow Submarine

  7. She Said She Said

  8. Good Day Sunshine

  9. And Your Bird Can Sing

  10. For No One

  11. Doctor Robert

  12. I Want To Tell You

  13. Got to Get You into My Life

  14. Tomorrow Never Knows
    Total Time 35:01

2022年にジャイルズ・マーティン
(プロデューサーであるジョージ・マーティンの息子で、レコーディングエンジニア)によりリミックスされた
「Special Edition」が発売されました。

「デミックス」という新技術を使って、
1つのトラックにまとまった楽器の音を分離させることに成功したそうです。
それで、今までは塊になってるからどうしようもなかった
楽器ごとのボリュームや定位を調整できるようになって、
50年以上前に製作されたとは思えない新鮮な音で生まれ変わっています。
ボーナスディスクなしの1枚版はこちら

既にRevolverのアルバムを持っている人でも、
新たに聴いてみる価値があります。それくらいびっくりした。

レビュー

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(10/10)

「いちばん好きなアルバム」ですから、当然満点です。
Abbey Roadの完成度の高さも素晴らしいのですが、
新しいことを何でもやってみようとしている
その姿勢もやっぱりまた好き。
ビートルズがツアーで各地を回るのをやめて、
「ビートルズの曲はレコードの音源でしか聴けない」
という状況になった時期の作品なので、
ライブで演奏することを念頭に置いていない、
4人だけで再現できない曲も増えてきます。
その分「せーの」で一発録りをしなくても曲ができるようになって、
スタジオ内で「こんなことできないかな?」と思いついたことを
積極的に実験する余地ができたんですね。
例えばテープの速度をいじって音の質感を変えてみたり、
逆回転サウンドを取り入れたり、
一度録ったボーカルを微妙にずらして重ねることで
2回録らなくても同じ効果が得られるようにしたりと
Revolverではテープレコーダー遊びが様々繰り広げられました。
そうしてビートルズが実験した技が今では当たり前に使われていたりもして、
非常に革新的な作品になっています。
この頃はスタジオのエンジニアさんが機材に細工したりして頑張ってくれていたのですが、
今では一般人でも使えるDAWソフトにもそういう機能がありますからね。
呆気ないくらい簡単にできちゃう。
あ、あとジョージ祭りなアルバムですね。
1枚の中にジョージの作品が3曲入り、そのうち1曲はオープニング。
今までになくジョージ曲をフィーチャーしています。

楽曲解説

以下、アルバム内で特に好きな曲について一言ずつ。

Taxman

ジョージによる皮肉が効いたアルバムのオープニング曲。
最初に聴いたときは「イギリス人らしいや」と思いました。
ところで「あなたが1で私は19」って、
当時のイギリスそんなに重税だったんですかね。95%ってことでしょ。

Eleanor Rigby

楽器はストリングスのみでメンバーは一切演奏していない。
2022年版では臨場感がものすごく増しています。
「Father McKenzie」は最初「Father McCartney」だったのを
ウチのオヤジのことだと思われねえか? とポールが危惧して
電話帳でMcなんとかさんを探して書き換えたそうな。

I'm Only Sleeping

ギターの逆再生音が取り入れられた実験的作品。
出勤してる時に脳内でよく流れますw
2022年版では中間部分でジョンがあくびしている音がすごく際立ちました。
それまで「おぅ」って控えめにあくび的な音を入れてるだけだと思ってたのが結構しっかりあくびしてたね。

Love You To

前作「Rubber Soul」でジョージはシタールを弾き始めましたが、
よりその路線を突き詰めて、インド音楽のスタイルに挑戦した曲。
よく歌詞を聴いてみると実はめちゃんこエロいのですが、
インド音楽という雰囲気のせいで高尚な感じに仕上がっています。

Here, There and Everywhere

いかにもポールが作りそうな甘々なバラード。大好き。
Revolverは全体的になんとなく悩ましい曲が多い中で
さわやかでうっとりするような一種の清涼剤の役目を担っています。
シンプルな曲でありながら転調もありドラマティック。
(かしまさは転調とか変拍子とか展開のある曲が好き)
こういう名曲をサクッと生み出すポールってやっぱりすごい。

Yellow Submarine

後にアニメ映画が作られて、そのサントラ盤も出ますが、
実はRevolverにまず入っている。
リンゴボーカルが良い味出してます。
2022年版ではSEの立体感がマシマシになってます。

She Said She Said

ドラッグ体験について歌ったジョンの曲。
レコーディング中にケンカしてスタジオを出て行ってしまったので、
ポールがベースを弾いてないというのが定説だったのですが、
2022年版ではポールがベースを弾いていることになっています。
なんか、歴史修正主義を感じるんだよなぁ。
良くないよそういうの。

Good Day Sunshine

シンプルな曲に思えますがめまぐるしい転調やポリリズムなど
実は結構凝ったことをしている曲。
よかったら何回転調してるか数えてみてください。

And Your Bird Can Sing

中学生の頃はRevolverの中で特に好きだった曲。
最後のverseでsingがswingになる韻の踏み方がジョンらしい。

For No One

ポールが当時の彼女と別れた時の気持ちを歌った曲。
Rubber Soulにもそんな曲あったな。よほど引きずってたとお見受けします。
2022年版でドラムの存在感が際立ちました。16分1個分「食ってる」バスドラとか全然気づいてなかった。

Doctor Robert

ジョンによるドラッグソング。
ドラッグで「ほらほら気持ちよくなってくる」
なんて今じゃ完全にコンプラです。
ただこの時点では世間的にも「素晴らしい可能性を秘めている」なんて扱われ方をしていて
(2023年現在でいうところのChatGPTみたいなもんですかね)
誰もドラッグ依存のヤバさに気づいてないんですよね。
それで結構ポジティブな曲調になってます。
でも一応言っとくと、ドラッグはダメ、ゼッタイ。

I Want To Tell You

控えめなジョージらしい曲。
「君に言いたいことはたくさんあるはずなのに、いざ面と向かうとどっか行っちゃうんだよね」
わかります。すごくわかります。
ピアノで鳴らしてるコードが「♭9」で不協和音になってるのがニクイ演出。

Got to Get You into My Life

ポールによるドラッグソング。
ジョンが「気持ちよくなるよー」と直接ドラッグのことを盛り込んだのに対して、
ポールは「毎日お前が必要なんだ」と
ドラッグに宛てたラブソングを仕立てました。
こういう変化球好きだよねー、ポール。
でも一応言っとくと、ドラッグはダメ、ゼッタイ。
2022年版ではブラスセクションの音が立体的でキラキラになりました。

Tomorrow Never Knows

このRevolverのセッションでジョンがまず最初に持ってきた曲。
この曲を最初に作ったことでRevolverのアルバムとしての方向性はほぼ決定づけられたといっていいでしょう。
打ち込みで作るミニマルミュージックの先祖のような曲。
1曲を通してコードはCメジャーから動かないし、
ドラムはずっと同じパターンだけを叩き続ける。
あとここでもテープ遊びは活かされていて、
いろんな音を録って編集したものがSEとして効果的に使われています。
今でいうところのサンプリングですよね。
ウミネコの鳴き声みたいな音はポールが大笑いしている声から作られているみたい。
そこに「教祖様の説法」のような哲学的な歌詞がのっかって、
Revolver的としか言いようがない世界観を構築するわけです。

まとめ

好きすぎて全曲解説しちゃいましたね。
アイドルバンドだったビートルズが脱アイドルを宣言して以後、アーティストとして曲を作り込むことを修得した時期の華々しいアルバムです。

ではビートルズが「脱アイドルを宣言」したのは......?
ほぼ次回予告ですね。お楽しみにw
それでは、かしまさでしたー。

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