セリフの書き方講座~不自然じゃない会話文とは~
地の文講座に続いて、セリフ編です。
■会話文の書き方
嬉しい・参考になるおフィードバック、ありがとうございますワ!
会話……会話って悩ましいですよネ……!難しい!
お悩みにも色々な種類があると思うのだけど、多く見られるのが「不自然になってしまう」「どう書いたらいいかわからない」カナ?と思うので、思いつくまま徒然なるまま書いてみますネ。
・そもそも会話のはたらきとは
会話とは何か……情報伝達!コミュニケーション!
雰囲気で語るより、まず学術的な軸をあたりましょう。
調べたら文部科学省も参考にしている「ヤコブソンの6機能説」が興味深かったので、一つの切り口として見てみます。
六十年代の分類だしほかにも切り口はありそうだし、という点はありますが、言われてみると「たしかに!」ですよネ。
小説のセリフに当てはめてみましょう。
ロボットが話すような「必要な情報伝達」に絞るなら、【働きかけ機能】【指示的機能】だけになる。
話者の感情を示すなら【主情的機能】、感情や人間関係を表すなら【交話的機能】も追加され、表現の豊かさも入れるなら【詩的機能】も使うことになるでしょう。(メタ言語はパスで)
特にヤコブソンで有名なのは【交話的機能】ですネ!
「たとえば新婚夫婦の会話は実質全部『アイラブユー』しか言ってない」みたいな話、聞いたことありませんか?ヤコブソンが上げた例が元ネタのようです。
オウム返しによる情報量はゼロだけど、「あなたの話をちゃんと聞いてますよ」(≒親愛)を伝える意味がある。
文字100%の小説で「わざわざ書く」というのは言葉一つ一つに強めの意味がこもるので、上記のようなオウム返しレベルのセリフを重ねるのは難しいけど……しかし、「いちゃいちゃシーンの他愛ない会話は結局全部アイラブユーじゃん!!!!」と萌え狂うことができます。最高。
後述する、「連続会話恐怖症対策」にかかるのですが、「情報量」とか「重要な意味」はなくとも、「カップルですよ~」とか「コミュニケーションだよ~」を示すため、適度に「言葉上では意味はない、しかし交話的機能のある会話」を入れて人間味を出すのもアリかもしれませんネ。
もう一つ、シナリオスクールの先生の本からセリフのはたらきを抜粋してみましょう。
……分かりやすい!
例としては、こんな感じでしょうか。
事実と感情は分かりやすいけど、「ストーリーを展開させる」を大カテゴリーにするのは、脚本家の視点!という感じですネ。
テンポのいいストーリーの展開は……ダイジ!
・不自然な会話とは
ぱっと思いつくのは、ロボット/英語の教科書みたいなセリフや、THE説明セリフは避けようね、というところでしょうか。
【①一問一答、整然としすぎ】
ダメなわけじゃないけど、「それはなんですか?」「それはペンです」みたいなぎごちなさがあり、なおかつ整然としすぎですね。きれいに前の話題を引き継いでいて、すべてが正しさのレール上にあるような……。
実際の会話はもっとごちゃごちゃして、脱線し、不親切で、ラグビーボールのように思わぬ方向に転がることもあります。文字の上でどこまで再現するかどうかの匙加減はありますけどネ!
また、上記の例は整然として無駄がないので、人間味が出ていません。ごちゃごちゃさせてキャラ性を醸し出してみます。
口語に寄せるとこうなりました。主語が省かれたり語順が逆転してたり、言いさしで終わったり繰り返しがあったり、感動詞だけのセリフがあったり。
また「必要な情報を伝える」というよりかは、「キャラ性を見せる」がねらいのシーンになりました。
間接的に、「AはBを誘いたい。好きなの?」「Bは飄々としていて無礼。冗談なのかガチなのか分からない」ということを伝えられましたネ。
後の展開で花見に行ったり、恐山のイタコを出すなら、これはシナリオ上意味があるシーンになります。逆に、出さないなら意味がないシーンになります。
後述するけど、意味のないシーンを削るかどうかの判断は?というと、「そのシーンが面白い(エモい、あった方がいい感じ)かどうか」ですネ。
わたくしだったら、漫才が好きなので残します。
【②説明が多すぎる・物分かりがよすぎる】
自然な会話はもっと短く、説明もなく、とっちらかっているのでこうはなりません。
主観だけど、一応何故不自然かも書いてみますネ。
総括すると「わざとらしい」「説明が多い」になりますネ。
Aは、デートに行きたくないため明らかに嘘をついています。一応嘘なので「不自然さ」はあえて残すことも可能でしょうか。できるだけそのまま使うと仮定しても、Bはあまりにも不自然なので書き換えたいですネ。
正解はないのですが、添削するとしたら、Bのセリフを皆さんはどう書き換えますか?
・Bは(打算的だけど)感性は結構普通の女の子
・ひねらず、「普通の会話」を目指す
としてちょっとだけ考えてみてネ!
わたくしが書くならこうします。
………………どうかしらん!?
本当にコレ十人十色なのだけれど、わたくしがこんなこと言われたら、もう「は?」とか「え?」とか、「あ? 舐めてんのか?」になる自信あります。
うまく伝わるかどうか分からないのだけど、Aの嘘が既にド級の嘘なので、それを信じたテイ(「おばあちゃん大丈夫?心配だよ」とか)で進めると急にリアリティがなくなるんですよね。
もちろん、おばあちゃんが爆発する世界観かどうかによりますが!
これはかなり極端な例ですが、なんでしょう……。
主人公のAとしてはこの滅茶苦茶な嘘が通ればいいな~と思っていて、他人がそのまま行動してくれる、聞き分けが良すぎるのは、あまりにも都合がよすぎるんですよネ。
「会話がすべて主人公の想定通りで主人公の言うことはすべてコミュニケーションエラーなく信じてもらえる」というのは結構な違和感になります。キャラがいきいきしておらず、全部想定通りのお人形遊び的な……。
なので、「物分かりがよすぎないか?」というチェックポイントを設けるのはアリかもしれませんネ!
対策としては、ある程度聞き返される、反論がある、「このキャラはこういうことをするかな、しないかな」という判断を都度挟む、ということになってくるでしょう。
小説は基本的に一人で書くもので、キャラのセリフだって全部一人が考えて書いているもの。
良質なフィクションはウソをつくのが異様に上手いので、五人が喋っていれば、あたかもその五人に別々の脳があるように感じさせてくれるんですよネ。本当は一つの脳なのに!
逆に「一つの脳」感、「キャラクターって全部作者の分身じゃん、全員作者の代弁者でしかないじゃん」という、不都合な真実が透けて見えると、ちょっとつたないな、没入できないな、という印象に寄ってしまいます。
(「全員自分の分身、一つの脳」感を薄める一つの方法として、「芸能人や友達をイメージする」がありますネ。一次創作において仮想キャスティングはイメージの解像度を上げられます!)
「フィクションにおける物分かりの良さ問題」の考え方は、NON STYLE石井お嬢様の動画から影響を受けています。
「漫才の会話って不自然だよね」というネタ↓
ネタづくりの解説↓(全部オススメ!!)
会話については18:50あたりから。最後の方の、ズラして組み合わせるアイディア発想法も超絶勉強になります!
こちらは生の人間がやっている漫才なので、とりわけ嘘っぽさが目立ちやすく、リアリティが大事になってくるんだと思います。
小説であったら、ジャンルによってリアリティラインってかなり違ってきますよネ。
アニメ絵のキャラクターがやっているのか、実写の俳優が動いている作風なのか。
前者であればある程度のデフォルメは当然オッケーです!コテコテの女性語とかも、まだアリですネ。話者の判別に役立つので。(キャラの個性を超えて全体的なジェンダーバイアスになるとちょっとイヤだけど……)
上記のおばあちゃん爆発例は「会話」というよりはメアリースー案件かもしれないけれど、意外と現実の会話ってすんなりとはいかないんですよネ。
「えーっと」「あー」などのフィラーもあるし、「玉子食べたの。この前お台場で。あっごめん嘘だ、鹿児島だったよ。豚肉トロトロ!」とか書き起こすとメタメタなものもあるし。あと、男性が「~なのよ、~だわ」というコテコテの女性語?を使っていたり、その反対もあったりとか。地の文講座でも触れたけど「言いさし」がメチャクチャ多かったり。
「生」に寄せ過ぎると書き言葉、読み物としてはあまりにも整理がついておらず変になる。しかし音声会話はある程度崩れているのがスタンダードなので、小説であまりにもセリフが整っていると、ものすごく嘘っぽくなる!という厄介な危険があります。結局はグラデーションなんですけれど。
また、世代や属性で言葉遣いって全然違ってきますよネ!
たとえば自分が七十代男性で、中学生の女の子の会話を書く場合。もしくは十代女性が昭和初期の男性の会話を書く場合。調べなければ、絶対絶対嘘(不自然な会話)になると思います!
コレはもうしょうがないので、「それっぽさ」を獲得するまでできるだけ調べるしかないですネ。
文字でもいいし動画でもいいし、二十分調べるだけでも全然違うから!自分の中にあるものだけで勝負しようとするから変なことになるんだよ!という例は結構あります。
……ただ、調べて調べて、「それっぽさ」ができたらそれ以上はいかなくても大丈夫。
結局大衆向け小説は「ターゲットを楽しませること」がゴールなので、「正しさの追求」になっちゃったら方向がそれます。
時代考証とかも、ある程度はいいけど「調べたうえでエッセンスだけきかせる」とか「調べたうえで物語では嘘をつく決断をする」とか、真のゴールに向けて動くのがオススメです。
参考
・不自然対策いろいろ
……色々考えてみたけど、かなり個別の事例によるトピックなので、なかなか「こうしよう」とは言えないんですよネ……!
「リアルな会話」に寄せるのであれば、いい脚本を書き写すのがいいかもしれませんネ!
最近見ているドラマ「ブラッシュアップライフ」は、怖いくらい会話のリアリティがあるので、オススメです!「こうやって喋るよね!」しかないし、あだ名がわけわかんない変遷をするのとか、とにかく「人間のあるある」がすごい。
(間が面白いコントのようなシーンもあるし、ネタがキャッチーだし伏線や構成もいいし、完全な善人もダメな人もいないのが好き!)
ドラマと小説は表現媒体として大きく違うので100%は参考にできないのですが、過去何度か紹介した「シナリオ錬金術」という脚本の指南書ではうまいセリフの書き方として「できるだけ短く」と明言されています。(テンポよく生き生きとした会話になる)参考までに!
ドラマはリアリティが評価される場。
漫画やライトノベルならではの虚構性も、デフォルメが上手いと楽しくてわたくしは好きです!
たとえば「ケヒャヒャーッ! 血を吸った刃が美味いぜェーッ!」とナイフを舐めるコテコテのキャラとかは、世界観や演出次第では全然いていいと思います!
そこまで振り切れたら逆にアリでしょ!要は、「無意識な不自然さ」はよくないけど、「意識的な不自然」が上手く機能して面白さに貢献するなら全然アリということですネ。
上述したけど、その小説の挿絵、あるいは映像化したときは実写ベースになる?それともアニメ絵になる?と、リアリティライン・デフォルメ度を「絵柄」で判断するのもいいですネ!
最後に、「おば爆」会話例をわたくしなりに「小説の会話」に書き換えてみます。
想定:ごく普通の男女カップル、現代日本、ラノベ的(口語的)
方針:Aの言いたいことはあまり変えない。他は変えていい
……難しっ!意識的に口語に寄せ、かなり軽いトーンにしました。
会話量も数倍になりました。この情報量を一往復の会話で済ませようとしてた、最初の例がいかに「説明的」だったかよく分かりますネ!
これはただの一例で、添削する方によって、何もかも違ってくると思います。色々な方が添削した例、見たいです!
・短い会話の往復はOK!
語気を荒くしてビギナーに伝えたいこととしては、短い会話の往復はあってもいいよ!ということでしょうか。エンタメ長編講座の「◎会話の連続を恐れるな」でも少し語ったことですけどネ。
主張だけだと弱いので、ソースを紹介。
短文で、他愛ない会話の連続。
…………ファンにあるまじき失礼な言い方だけど、書き方はこれでいいんです!!!!売れてるから!!面白いから!!!!
ビギナーさんの中でも過去、信じられないほど意識の高いコメントにこき下ろされた(ORそれを見た)ことがある方は、いわゆる「軟派」な表現を恐れて何も書けなくなる場合があります。
会話の連続を恐れ「地の文をこまめに入れなくては」、文豪のように「比喩を駆使して描写をとにかく重厚にしなければ」、不要なものは削るべきと強く思い「必要100%にしなければ」という方向に爆進してしまうときがあります。
ちゃうねん!大丈夫やから!!!!
地の文が少なくても、シンプルで平易な文でも、消しても問題ないセリフがあってもええから!!!!
過去、またまたエンタメ長編講座の「◎省略でテンポ良く」でも、「不要かつ面白いなら、あってOK!不要かつつまらないを省略したら、面白いところだけ残って濃ゆいカルピスになる!」と語っています。
面白いつまらないの判断は、主観的で個別的で、「絶対」は不可能。「自分とおもしろアンテナが同じ人」向けに書くのは無難ですネ。
あれこれ悩んで書けなくなるより、「書きたくて筆が進む」ならとりあえず書く!でGOしてもいいと思います。
で、一ヶ月くらいおいてから読み返して、その「意味のない会話・シーン」が面白い、エモい、一息つく、キャラの掘り下げになってる、にやにやする、なんか好きetcなら残しましょう。「あまりにも要らないやりとりだな」と思ったら(バックアップを残して)消してもいいです。消すのはいつでもできるから……!
「理想が強くて書けない」より、「拙くても完成させる」を続けた先の方が獲得できるものが多いので!どうか怖がらずに好きなものを書いてみてちょうだいネ!
話者の明示が最低限で済むので、会話は二人が書きやすい。
しかしこの「ネバーランド」は男子高校生四人組の話なので、三人以上の会話シーンがたくさんあります。
(例は、誰が言ったかは重要でないので、話者が明示されてないけど)
この作品はさらっと話者の明示をする会話シーンが多くて見事!なので、ぜひ読んでほしいです!
・表現を豊かにした例(脱線)
セリフ関係ない、表現分野への脱線ですが、ちなみに三浦しをん先生お嬢様の「マナーはいらない」では、アドバイスを元に地の文を修正した、面白い例が紹介されています。
↓エージェントから指摘を受け、「描写が肝心なんだな」と直して出版した文↓
……エクセレント!!
このビフォーアフターを見たとき、わたくし雷にうたれた気分でした……。猛烈に「表現の豊かさ」を感じる!
表現の豊かさを売りにするなら、こういうコトですよネ。
しかし、作家全員がそうとは限りません。わたくしが普段親しんでいる作家お嬢様は、むしろ修飾を削ぎ落したような文で戦っている方もいます。(「ネバーランド」で引用した箇所も、「いいお天気」のシンプル描写がありますね)
毎回言ってるけど、どっちが正解とかではなくて、それぞれの魅力!ほのお、みず、くさ、むし、はがねなど、それぞれのタイプに応じたポケモンの強さがあるので、大事なのは自分と同じタイプをお手本にすることですネ!
・会話のタネ
どんな会話内容が生き生きとしやすいのか!?書きやすいのか!?
おおいに作者&キャラによることだけど、わたくし目線のアイディアを書いておきますネ。
ちょけちゃったんですけど、こんな感じ。
場合によっては秘密、恋、対立と、機能が複数の場合もありますネ!
特に対立構造は、物語の牽引力が強い!シナリオ指南でも、対立で進めよう!という内容がオーソドックス。
緊張感があるので、次へ次へと読みたくなるんですよネ!
スリリングな秘密、駆け引きもドキドキしながら読めますネ。
仮説や推理はミステリーには欠かせないし、例のようにちょっとした謎をみんなで考えるのも楽しいシーンになります。恋愛いちゃいちゃは、言うまでもなくおいしいですネ!
書きやすい、そして映える(面白くなる、需要の多い)シーンが書けたら自分も読者も嬉しい!ので、会話のネタを探すときは意識してみてくださいネ!
■おまとめ
知識経験おTipsをまとめてみました。何か参考になれば幸いですワ!
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